新春浅草歌舞伎『傾城反魂香』『吉野山』『角力場』『御存 鈴ヶ森』『棒しばり』

浅草公会堂は、声を張ると響き過ぎるということに気がつきました。

傾城反魂香』の又平のおとくの壱太郎さんの声。『角力場』の放駒長五郎の松也さんの声。響き過ぎて、情や稚気さが壊れてしまうのです。この書き方の雰囲気では何か注文を出しそうと思われるかた、浅草歌舞伎に出演役者さんのファンのかたは読まぬが花です。

『傾城反魂香』は、吃音の障害をもった絵師といってもまだ弟子の段階ですが、又平というものが、死を覚悟して師匠の家の庭の手水鉢に自画像を描きます。その絵が描いた側から反対側に抜けて、反対側にも描かれていたというお話です。そして目出度く画家として、土佐の名前をゆるされ、土佐の又平光起と名乗ることを許されるのです。

その前に弟弟子が、絵から抜け出て来た虎が草むらから顔を出し、それを絵筆にてかき消して兄弟子の又平より先に土佐の名前をゆるされますが、『雙生隅田川』では絵から鯉が池に逃げ込んだりと、どちらも近松門左衛門さんの作品です。

又平のモデルは、岩佐又兵衛という江戸初期の絵師で、そういえば今、出光美術館で『岩佐又兵衛と源氏物語』を開催しています。

岩佐又兵衛に興味のある方は 映画『山中常盤』 もどうぞ。

歌舞伎にもどって、この又平(巳之助)を支えているのが女房・おとく(壱太郎)で、又平が上手くしゃべれない分、ぺらぺら自分でもしゃべりすぎたと弁解するほどなんですが、壱太郎さんの声が響きすぎて、竹本に乗るところを邪魔してしまいます。師匠にも見捨てられたとして二人でもう死のうというとき、又平の手をとり、<手も二本、指も十本なのに、どうして不具になったのでしょう>というところが嘆きではあるのですが、押さえて欲しかったです。しみじみさが欲しかったです。個人的好みではありますが。

巳之助さんは、名前をもらって姫君を助けに行きますが、そのために師匠から裃と刀の大小を貰い着替えます。着替える時、黒御簾の音楽にのせてリズム感をもって喜んで着替えるのですが、ここの喜びを押さえ着替え、大頭(だいがしら)を舞う時に愛嬌をみせていました。これは巳之助流なのかなとも思いました。ただ、大頭のところは役者の大きさを見せるところですから、いつかは、そこらあたりを検討してもらいたいです。又平の苦悩、それを支える女房とお二人の息はあっておられました。

土佐将監光信(大谷桂三)、将監北の方(中村歌女之丞)、土佐修理之助(中村梅丸)

角力場』ですが、先ず錦之助さんはつっころばしの与五郎役者さんでこの役の柔らかさと可笑しさはぴかいちです。今回は濡髪長五郎ですが、やはり与五郎をやりつつも、濡髪長五郎の役も自分なかにおさめられていたのですね。違和感なく、顔の作りの茶の色の線が綺麗に顔に映えていました。声もよく、それに対する松也さんの放駒長吉の幼さを出す台詞の伸ばし方の語尾が響きすぎで、錦之助さんの台詞とのバランスが崩されてしまいました。

長吉の濡髪に対抗する幼さを表現する演技は上手いですので、声をのばして張り上げなくても充分だと思います。それと、力士ですので、つま先で腰を下げる姿勢で贔屓の話しを聞いたりしますが、どこで膝を下につけてよいのかはわかりませんが、染五郎さんは、贈答の口上のときもずーっとつま先でお礼の時もその姿勢で、そうかそうするべきなのかと思ったのですが、このあたりどうなんでしょうね。ただ、松也さんは、もう少し踊りの下半身をしっかりさせたほうが良いとおもいます。踊りのときの足の美しさに影響するとおもいます。『吉野山』の忠信の屋島の戦さ物語の部分でも感じました。静御前の壱太郎さんとの男雛女雛は絵になっていました。巳之助さんの早見藤太は真面目な中での可笑しさがよかったです。

隼人さんの与五郎もやはりまだですね。この役難しいということがよくわかりました。『御存 鈴ケ森』の白井権八は良かったです。これは、やはり国立劇場での『仮名手本忠臣蔵』の力弥の形を身体に取り込んだためとおもいます。立ち廻りの姿勢も若者の姿が崩れずにできていました。この演目好きではないのですが、錦之助さんの番隨院長兵衛ともども、バランスの良さで楽しませてもらいました。若い役者さんの中に入ると、やはり錦之助さんは先輩たちから盗まれてこられているのだなあと思わせられました。そういう陰の差が観ていて彷彿としてきて面白かったです。

棒しばり』は松也さん、巳之助さんコンビで若さの勢いのおかし味はありますが、まだまだ踊り込んで欲しいですね。隼人さんも加わってバランスはとれていましたが、可笑しさのみの味わいのない身体でした。

梅丸さんは、基本形で今のうちにひとつひとつひとつ身体に身につけ先輩たちの演技を盗んでほしいです。

若手の役者さんは、今様々なことに挑戦されていてお忙しそうです。若さゆえに初めて見る若いお客さんを集客していると思いますが、見栄えの内容的可笑しさだけでなく、芸の可笑しさになるような練習時間をとって欲しいものです。

個人的芝居の好みの感想です。

 

 

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