新橋演舞場『恋の免許皆伝』『狐狸狐狸ばなし』

新橋演舞場の二月は喜劇名作公演で、松竹新喜劇の役者さんと劇団新派の役者さんに、中村梅雀さん、大和悠河さん、山村紅葉さんが加わっての舞台です。

松竹新喜劇からは、渋谷天外さん、曾我廼家八十吉さん、曾我廼家寛太郎さん、藤山扇治郎さん、劇団新派からは、波野久里子さん、喜多村緑郎さん、河合雪之丞さんなどです。

一、恋の免許皆伝 二、狐狸狐狸ばなし

これが、昼の部、夜の部別演目と勘違いし昼夜の切符を取ってしまい、あわてて昼の部を友人に行ってもらうことにし、昼の部と夜の部の間に友人と短時間のティータイムをもてたので結果的には良い風向きとなりました。切符を用意する段階での不注意だったのですが、お芝居のようにアタフタさせられました。

友人はドタバタ喜劇は嫌いであると言っていたのでどうかなと懸念しましたが、「あなた面白かったわよ。」の一言にホッとしました。

恋の免許皆伝』は、私も初めて観る作品で、前半は真面目に進み、後半に向かって次第に笑いが起り、真面目さが笑いの中でほろりとさせるという展開になります。この芝居、喜劇として見せるにはかなり難しいと思います。単純なだけに役者さんがものをいいます。

武芸指南役の家にうまれた娘・浪路(大和悠河)が婿養子を取ることとなり、娘も相手の頼母(中村梅雀)を気に入っており上手くいきそうです。指南役の家に婿養子に入るのですから、その娘より剣の腕前が劣っていては恥と、二人は勝負をして、婿殿が見事勝って目出度く祝言という話しになります。ところが娘のほうが剣の腕が上で婿殿は負けてしまいます。潔く婿殿は修業にでます。そして、年月は過ぎ、修業からもどり晴れて夫婦にと。その前に、勝負!婿殿あなたは何をやっていたの。娘よ真面目過ぎ。

今度会う時は、誰かが出演できない状態でしょうね。きっと。

浪路の父・曾我廼家八十吉さんと、叔母・磯路の波野久里子さんがしっかり武家の雰囲気を押さえ、若い二人に情愛を示し見守ります。梅雀さんが婿ですからかしこまって演技も押さえていますが、時間と共に、登場する場面場面で変化をみせてくれます。姿変わろうとも、頼母と浪路の恋心は変わることはありませんでした。

やきもきしつつも二人にそれぞれ仕える藤山扇治郎さんと、石原舞子さん。曾我廼家寛太郎さんが、皆にいじられ役。武家の女中たちや武士の若者たち、中間などそれらしい動きと台詞で、邪魔されることなく芝居の流れについていけました。

友人が「歳のせいなのか、うるうるときてしまった。」と言っていましたが、こちらもうるうるきました。この芝居をそこまで持って行けたのは役者さんの力でしょう。

狐狸狐狸ばなし』は、色々な役者さんで観ているので、またかとおもったのですが、こちらも無理せずに騙されるながれになっていました。

女房が大好きな男と、好きな坊主がいる女房と、惚れられる女を都合よく選ぶ坊主とそれに乗っかる周囲の人々という、狐と狸の騙し合いの連続です。

住職の重蔵(喜多村緑郎)と一緒になりたいおきわ(河合雪之丞)は、夫の伊之助(渋谷天外)を染粉で殺します。ちょうどその夜は愛するおきわのために伊之助はフグ鍋を作っていたので、フグにあたって死んだことにされてしまいます。殺されたはずの伊之助が生きていて、もう一度殺そうということになり、伊之助に雇われていた又一(曾我廼家寛太郎)が、伊之助にこき使われ怨みがあるから自分が殺すといってからの場面では、又一と伊之助の殺し殺されるところが面白い場面になっていました。

笑わされて客は疑う事も無く騙されてしまうというおまけつきです。

伊之助一人に対しこちらは複数で一致団結していて、まさかこの中に裏切者がいたとは誰も思いません。筋を知っていながら、天外さんと寛太郎さんの演技はその場面どおりに見させられてしまいます。

一致団結して、お蕎麦をたべる場面が、後半の笑いを緩やかに濃くしていきます。

さらに事態は一転二転とかわります。友人は、始めて観る作品なのですが、「絶対何かあると思っていた。」と言っていまして、騙されつつ真実はいかにと楽しむ作品でもあります。さらに「幕前での動きなど面白かった。」と喜劇ならではの動きの芸もあり満足したようでめでたしめでたしですが、芝居のほうは、簡単にめでたしめでたしとはならず騙し合いは続くようです。

緑郎さんは、おきわとおそめ(山村紅葉)に惚れられる住職ですが、さらりと癖のない単純ないいとこどりの住職で、歌舞伎とは違う芝居づくりでかなり力の抜け具合が出てきているように見えました。雪之丞さんは、発声が歌舞伎の女形で、驚き具合の声の調子ももう少し細やかさが欲しいです。これからですね。新派の細やかさと闘うのは。

天外さんと寛太郎さんは息のあったそれでいてずれ具合の良いやりとりで、ドタバタにしないで、芸の面白さで喜劇を演じられていました。

加藤泰監督の映画を見続けていて、『車夫遊侠伝 喧嘩辰』の曾我廼家明蝶さんの可笑しさを含んだ貫禄、『明治侠客伝 三代目襲名』の藤山寛美さんの軽そうでいて極道の刹那的な影もある演技などは、松竹新喜劇の芸の深さを感じさせられます。そうそう『車夫遊侠伝 喧嘩辰』の主人公とヒロインも、お互いの気持ちのずれで結婚に至るまで三つ山を越えます。

劇団新派も松竹新喜劇も、今の演劇の流れのなかでお客さんをつかみつつそれぞれに続く芸を継承していくのは大変なことですが、初めて観た人が面白かったということもありますから頑張ってほしいものです。

 

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