前進座『牛若丸』と映画『歌舞伎十八番「鳴神」 美女と怪龍』

前進座創立八十五周年記念公演の一つで、源義経が牛若丸と名のっていたころの創作歌舞伎『牛若丸』の公演を観てきました。

藤川矢之輔さんが口上のあと、「歌舞伎の楽しさ」ということで、音楽、立役、女方、立ち回り、だんまりなどの解説がありました。国立劇場での歌舞伎鑑賞教室などで「歌舞伎のみかた」という同じような解説がありますが、この分野まだまだ工夫の余地ありだと思わせてくれました。

驚いたのは舞踊のところで、『操り三番叟』をたっぷり踊られたことです。矢之輔さんが操る後見で、三番叟はどなたが踊られたのかわからないのですが、しっかりと踊られていました。

口上のときに『牛若丸』は、九州の子ども劇場からはじまり巡業してこられたとの話しがありました。浅草公会堂は27日一日一回だけの公演でした。

牛若丸』は三幕で、常盤御前(早瀬栄之丞)が乳飲み子の牛若丸を抱いて逃げる雪の場、京都五条の橋に美しい少年が現れ刀を奪い、それを聞いた弁慶(渡会元之)が退治しようとして反対にやられてしまい、それが牛若丸(本村祐樹)で弁慶が家来となるという月の場、鞍馬で剣術の稽古をする牛若丸が大天狗僧正坊(矢之輔)に兵法書の一巻を与えられ、陸奥の国へと花道をさる花の場の三幕になっていて、「雪月花」として変化をあたえる構成です。

本村祐樹さんは、玉浦有之祐さんに名前をかえられたようですが、チラシではもとのお名前のままでした。玉浦有之祐さん、発声もよく牛若丸の幼さを残した雰囲気があり、それでいて敏捷な動きで形もよく華やかさがあり、役がよく合っていました。歌舞伎の弁慶としては元之さんには、もう少し大きさが欲しいところです。矢之輔さんはさすが舞台を締めてくれます。

わかりやすく、美しい舞台で、牛若丸と弁慶の立ち廻り、牛若丸とカラス天狗の立ち廻りなど、楽しい舞台で、子供たちが喜びそうです。

映画『大人は判ってくれな』(フランソワ・トリュフォー監督)で、子供たちが人形芝居「赤ずきんちゃん」のお婆さんの化けた狼と赤ずきんちゃんの場面を観ている子供たちの様子が映しだされますが、子供たちがお話しのなかに入り込んでいる表情が素晴らしいのです。その表情が浮かんできました。

出演・中嶋宏太郎、上滝啓太郎、忠村臣弥、嵐市太郎、和田優樹

五月には国立劇場で山田洋次監督の脚本で『裏長屋騒動記 落語「らくだ」「井戸の茶碗」より』の公演があります。

山田洋次監督が、歌舞伎学会で「演劇史の証言」として話してくださった時、新たな視点 <江戸・文七元結・寅さん> 歌舞伎をまたやりたいというお話があったのですが、落語をもとにした脚本で前進座とのコラボが実現するわけです。どんな世話物となるのか前進座としての新しい世話物のができあがるかどうか楽しみです。

前進座と映画会社提携の映画や座員複数の出演映画が幾つかありますが、歌舞伎『鳴神』をもとにしたのが『歌舞伎十八番「鳴神」 美女と怪龍』(1955年)です。前進座25周年記念映画でもあり、鳴神を演じるのが河原崎長十郎(四代目)さんです。

監督・吉村公三郎/脚本・新藤兼人/撮影・宮島義勇/音楽・伊福部昭

音楽があの『ゴジラ』の伊福部昭さんで、古典との融合と斬新さを模索したであろうことが感じられます。スタッフをみるとその意気込みが伝わります。

かんばつが続き、早雲王子は気ままで、頼りない関白のもと仕える文屋豊秀、小野春風は困りはてています。かんばつは鳴神が朝廷に裏切られ、竜神を滝に押し込めてしまったからです。阿部晴明も、呼ばれますが、読み解けば鳴神の三千力の強力をおさえることができるという唐文を読み解くことができません。

そこへ呼ばれたのがくものたえま姫で、自分が読み解くというのです。そして文屋豊秀との結婚を約束させます。くものたえま姫は、みよしとうてなを連れて、鳴神のもとへ行きます。実写ですから、この道が岩肌の見える大変な道中です。途中でくものたえま姫は唐文を投げ捨てます。最初から読む力などなく、くものたえま姫は自分が鳴神に対峙してそこで思案してこの大役を果たす心づもりなのです。

鳴神上人に仕える黒雲坊と白雲坊はを、みよしとうてなの踊りとお酒で酔いつぶれさせ、鳴神上人には、自らの手で酔わせ、滝にかかるしめ縄を切り滝つぼから竜神を解き放ち雨を降らせます。最初に舞台場面があり、実写となり、鳴神の怒りで舞台場面にもどるという手法を使い長十郎さんの歌舞伎のしどころをも観せるという手法を使っています。

中村翫右衛門(三代目)さんと長十郎さんが、それぞれの芸風のぶつかり合いで観客を歓喜させたようですが、映画『人情紙風船』(山中貞雄監督)の主人公とは違うおおらかな明るさもあって、さもありなんと想像できました。くものたえま姫の乙羽信子さんがこれまた現代人の若い娘のようなあっけらかんとした人物像で、鳴神上人を自分の思い通りにしていき、歌舞伎とは違う人それぞれの可笑しさが漂う映画となっています。戦争が終わった解放感もあるのかなと思わせられました。

出演・鳴神上人(河原崎長十郎)、くものたえま姫(乙羽信子)、文屋豊秀(東千代之介)、みよし(日高澄子)、うてな(浦里はるみ)、早雲王子(河原崎国太郎)、関白基経(嵐芳三郎)、小野春風(片岡栄二郎)、黒雲坊(市川祥之介)、白雲坊(殿山泰司)、(瀬川菊之丞、田代百合子、河原崎しづ江)

 

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