戦没学生のメッセージ(戦時下の東京音楽学校・東京美術学校)

メディアで、東京音楽学校から学徒出陣として出征され自決された村野弘二さんが作曲されたオペラの譜面がみつかったということを知りました。そのオペラは、岡倉天心さんの原作で歌舞伎の『葛の葉』にもある狐と人間の物語です。残されていた譜面は狐の<こるは>が月に向かって命の恩人である<保名>を助けるために人間に姿をかえてくださいと祈る場面です。

これは、声なき声の強いメッセージと思えました。その他の方々の作品も含めてコンサートが上野の東京藝術大学の奏楽堂で行われました。(2017年7月30日)

コンサートの前にシンポジウム「戦時下の東京音楽学校・東京美術学校~アーカイブ構築に向けて」もあり参加させてもらいました。アーカイブとはなにか、今どうして学徒出陣なのか、などの問題提起から、どう活動しているのかということを報告されました。

大きな要因は、学徒出陣に関して大学にその記録がきちんとされていないこと、今やらなければ学徒出陣時代の人々が高齢化していて生きた証言が残せないということでしょう。学徒出陣というと、明治神宮外苑競技場での雨の中の行進する出陣学徒の壮行会が映像として残っていて映画などにもこの映像がつかわれますが、ではその実態はとなるときちんとした記録がないのです。

壮行会の送る側にいらした作家の杉本苑子さんも今年の五月に亡くなられました。杉本苑子さんの小説はフィクションとわかっていてもしっかり調べられているという信頼感がもてます。若い頃に戦争を体験されている方々は誤った情報を体験していますので、その分調べることにこだわられる世代でもあるように思われます。

学徒出陣は高等教育機関に在籍していた学生でエリートということもあり、エリートを特別視しているようで検証するのが遅れたということもあります。今多くの大学で調査されているようです。

美術関係ではすでに信州の戦没画学生慰霊美術館「無言館」があり、遺族の方々が亡くなったあとも保存、展示してくれる場所ができています。まだ訪ねていないのでこの夏に訪れる目的地の一つです。

コンサートのトークショーには、「無言館」の設立のために同級生たちの絵を集められた野見山暁治さんも出演されました。遺族を訪ねられた時、帰りにお母さんがコートを着せてくれて背中に手を押し付けられ、その辛さで遺族を訪ねるのは止めようと思ったこともあったそうです。生き残った方達の罪悪感は想像できない苦悩でもあった話はテレビなどでも静かに語られます。

シンポジウムが二時間でコンサートが三時間だったのですが、内容が濃く、それでいてこれはほんの一部で、まだまだしっかり調査して、保存と公開を続けていきますという今の時代のメッセージが伝わってきました。シンポジウムの調査経過の報告で、いかに大変で時間を用することかがよくわかりました。

コンサートでは、トークショーや作品解説などもあり、同じ作品の複数の譜面から作り手の考えを探ったり、今回はこちらの譜面で演奏しますなど、より作品に寄り添うというコンサートでした。

聞きたいと思っていた村野弘二さんの<こるはの独唱>は永井和子さんの独唱で蘇り最後はやはり感極まりました。感情面だけではなく『葛の葉』が洋楽になるとこんな感じなのかという同じ作品の多様性も鑑賞することができました。当時「出陣学徒出演演奏会」でも演奏されたということで、皆さんどんな気持ちで聞かれたのでしょうか。帰ってこれるということはどなたも思っていないわけですから。

まだまだ静かに探してくれるのを待っている作品もどこかにあるのでしょう。こういうことをしているということを知り、こういうものがあるのですがという事もこれからあることでしょう。

時間を超えて言葉ではいい伝えられない気持ちを交信できたような素晴らしい催しでした。

主催:東京藝術大学演奏芸術センター・東京藝術大学 / 協力:東京藝術大学大学美術館・戦没画学生慰霊美術館「無言館」・野見山暁治財団

 

夏の汗だく文学教室 <第54回 日本近代文学館 夏の文学教室>が始まり2日目が終了しました。今回は「大正という時間 ー 文学から読む」ということで、明治と昭和に挟まったすき間に差し込んだ庶民文化の兆しの短さというような雰囲気で、短い時代ということもあるのでしょうか講師の方々の語りも熱く感じられます。気のせいでしょうか。

思いがけない視点をいただいて楽しませてもらっていますので、書き込みはしばしお休みです。今回は報告はなしで、いただいたものから飛びたいと思います。おそらく映画のほうへ飛ぶことが多くなると思います。

2017年7月31日(月)~8月5日(土)午後1時~4時20分 (有楽町よみうりホール)

 

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