映画『音楽喜劇 ほろよひ人生』『サーカス五人組』『旅役者』(俳優・藤原釜足)

古い映画を見ていると、この方が主役をやっておられたのかと驚かされたり、その後もしっかり脇を押さえられて、沢山の映画に出られている俳優さんたちがいます。ここ数カ月注目度の高かったのが、このかた藤原釜足さんです。

日本初のミュージカル映画とされる『音楽喜劇 ほろよひ人生』(木村荘十二監督)に主役で出演されているのが藤原釜足さんです。<音楽喜劇>とあるようにミュージカルというより音楽劇が妥当だとおもいます。

シネマヴェーラ渋谷の「ミュージカル映画特集Ⅱ」のアメリ映画の中に、邦画の『舗道の囁き』と『音楽喜劇 ほろよひ人生』が特別上映されたのです。『舗道の囁き』(1936年)は見ていましたのでパスしました。 映画 『破戒』『乾いた花』『鋪道の囁き』(2)

『音楽喜劇 ほろよひ人生』『突貫勘太』『シンコペーション』と見て、大谷能生さん&瀬川昌久さんのトークショーがありました。別の日にすでに『音楽喜劇 ほろ酔い人生』のあと、矢野誠一さん&瀬川昌久さんのトークショーがあり、この日は『音楽喜劇 ほろよひ人生』のお話は少なかったです。三本続けて大丈夫かなと気がかりでしたが、それぞれに楽しみかたが違い、見たい作品でしたのでゆるやかな疲労感ですみました。

洋画のミュージカル映画に『突貫勘太』(1931年)という題名は驚きます。この映画で歌われる「Yes, Yes, My Baby Said Yes, Yes!」(エディ・キャンター)が『音楽喜劇 ほろよひ人生』(1933年)でも使われています。榎本健一さんの映画でも使われたようです。

音楽喜劇 ほろよひ人生』 実際にあったのかどうかビール会社の宣伝もあったようですが、駅のホームでビールを売っていまして、その売り子・エミ子(千葉早智子)に恋するアイスクリーム売りのトク吉(藤原釜足)が、お金はないけれど一生懸命で、エミ子が人気の「恋の魔術師」の歌が好きと言えば練習したりするのです。ところが、彼女は「恋の魔術師」の歌を作った男性(大川平八郎)と結婚してしまいトク吉はふられてしまいます。

ルンペンになり、偶然泥棒が元恋人の新婚家を狙っていること知り、侵入する泥棒たちを退治します。トク吉は、その後ビアホールで成功し、彼女の写真を飾っています。元恋人は夫と何も知らずその前を通り過ぎてしまうという話です。

駅のホームの様子、泥棒たちの動き、泥棒退治騒動などを可笑しくえがき、歌も入るといったもので、音楽学校校長の徳川夢声さん独特の台詞や、古川緑波さんが意味もなく歌ったりして花をそえています。見ていて藤原釜足さんが主役なのには驚きましたが、喜劇で釜足さんがひょうひょうとしたコミカルさをだしていて違和感がありませんでした。

洋画『突貫勘太』の方が、パン製造工場の女子工員がレビューさながらの衣装で軽やかに働いたり踊るのと比べると何んとクラッシクなのかと思えてしまいますが、当時の日本としては、大正時代のモダニズムの流れが感じられる作品です。

『日本近代文学館 夏の文学教室』で川本三郎さんが(一日目、二講時)関東大震災のあと驚くべき速さで復興し、歓楽街は浅草から銀座に移ったと言われましたが、トク吉のビアホールも銀座なのかもと思えます。

映画会社のPCLに藤原釜足さんを紹介したのは、丸山定夫さんで、この映画では丸山さんはルンペンで出演しています。後に丸山定夫さん、藤原釜足さん、徳川夢声さん、薄田研二さんの4人で劇団「苦楽座」を立ち上げています。

藤原釜足さんの喜劇性は、『サーカス五人組』(1935年、監督・成瀬己喜男)や『旅役者』(1940年、監督・成瀬己喜男)でも発揮されています。

サーカス五人組』 五人の楽団が催しものがある町を回っていますが、頼まれた運動会が無期延期となり、仕事にあぶれてしまいます。巡業中のサーカス団の団長が横暴のため団員はストライキとなり、団長はこの五人組の楽団を雇います。サーカス団長の娘などとの交流も加わり、音楽だけではなく得意芸も見せ、五人の人物像も照らしだされます。旅回りという不安定な境遇の悲哀を可笑しさで包む作品です。五人の一人藤原釜足さんは女好きでドジで、捨ててたきた女性の清川虹子さんに追いかけられ捕まるという、皆を笑わす愛嬌者を引き受けています。

芸達者がそろう成瀬監督の旅芸人もので、原作は古川緑波さんの『悲しきジンタ』で、<ジンタ>という言葉も大正時代につくられた造語です。今では死語になってしまいました。雰囲気のただよう単語です。

五人組(大川平八郎、宇都木浩、藤原釜足、リキー宮川、御橋公)、団長(丸山定夫)、団長の娘・姉妹(堤真佐子、梅園龍子)

旅役者』  成瀬己喜男監督(原作・宇井無愁「きつね馬」)も旅芸人もので、こんどは旅回り一座の馬の脚専門の役者が藤原釜足さんです。これが研究熱心な馬の脚役で、本物の馬をみては研究し、弟子(柳谷寛)に教えるのに余念がありません。このコンビの関係もほのぼのとしていて良い具合です。映画では藤原釜足さんが主役です。

劇団の名前は「中村菊五郎一座」で、田舎の人々は、菊五郎が来るのかと驚きます。このあたりからもう怪しい雲行きです。馬の脚役者は、町へ行っても、かき氷を食べながら、座敷では芸者(清川虹子)に馬の脚の重要性を話して聞かせ、関心も持たれてしまいます。そのあたりが嫌味がなく、自分の脚役に自信をもっています。それも、この一座の一番の出し物は『塩原多助』なのです。

ところが、興行者をめぐるいざこざから、かぶり物の馬の顔が壊されてしまい、舞台には本物の馬を使うことになり、馬脚役者には、本物の馬の世話が回ってきます。舞台に出なかったことを芸者に言われ、それでは見せてやると修繕してキツネのような顔になった馬をかぶって走り回り、馬小屋を壊し逃げる馬を追いかけるのです。まるで、本物の馬が芝居の馬の勢いにおびえて逃げるようで、馬脚役者の一世一代の舞台でした。

前と後ろ脚のコンビの馬の脚のことしか考えない真面目さが、肩に力の入らない自然さで、そこがまた共感できる可笑しさでもあるのです。藤原釜足さんのテンポになぜか巻き込まれているのです。

リアルとも違い、演技をしているという感覚をこちらには与えず、こういう芸人もいるかもなあと思わせてくれます。

この三本が、藤原釜足さんの主役と主役級のこの数カ月で出会った作品です。その他にあるのかもしれませんが、それは今後の出会いにまかせます。

 

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