川島雄三監督映画☆『愛のお荷物』☆

赤ちゃん誕生にまつわる風刺喜劇で題名の『愛のお荷物』がなんとも可愛らしくユーモラスであると同時に大人たちの勝手さが見え隠れします。

上映が1955年(昭和30年)で、第一次ベビーブームが1950年前後で、始まりのナレーションも、こんなに人口が増えて将来どうなるのでしょうかと心配しています。今では羨ましい限りということになります。

国会では産児制限の必要性や性に関する論議が活発で、売春防止法が1956年に成立していますから、国会議員が並んでイチニイチニと行進しつつ、赤線地帯に視察に行くなど川島雄三監督の腕は冴えています。

そんな最中、厚生大臣夫人が48歳にして妊娠してしまうのです。子供は少なくしていこうと主張している大臣にとっては、夫人は高齢出産に困惑し、大臣は出生率を押さえる方法を考えて提案している立場上これまた困惑します。そのことはまだ公表されていませんが、国会の答弁から新聞に大臣が赤ちゃんのオシメを替える風刺漫画(清水崑画)が載ったりします。

大臣ご夫婦・新木錠三郎(山村聡)、蘭子(轟夕起子)には、きちんと定職につかず自分の好きな電気器械をいじり研究しながら新内などにも現をぬかす長男の錠太郎(三橋達也)がいます。名前に<錠>がつくのは、この家が老舗の薬屋であるためでしょう。お祖父さんも錠造(東野英次郎)という名で箱根で楽隠居で、薬店は妻に死に別れた番頭の山口(殿山泰司)が任されています。

錠太郎は、恋人である五大冴子(北原三枝)にもどうやら子供ができたようで、結婚したいと父に打ち明けます。五大冴子は錠三郎の秘書をしています。次女のさくら(高友子)には、婚約中の出羽小路亀之助(フランキー堺)がいて、京都に住む亀之助は元貴族の家柄ですがドラマ―で、電話でさくらにドラム演奏を聴かせながらのデイトです。こちらも赤ちゃんができているらしいのです。

結婚している長女夫婦(東恵美子・田島義文)には子供がいないため、私が赤ちゃんを引き取ってあげると軽くいいます。

蘭子の妊娠は誤診とわかり一安心。さくらは、結婚式を早めるため祖父を病気にして作戦成功、五大冴子との結婚を反対していた蘭子も、興信所で調べたら五大冴子が明治の大阪の実業家・五大友厚の子孫とわかりこれも了承となります。

京都で錠三郎は、昔舞子であった頃つき合った貝田そめ(山田五十鈴)に会いたいと言われ会ってみると思いがけないことに、そめは錠三郎に伝えずに子供を産んでいて育て上げ東京に就職したので、一度会ってやってほしいと告げます。錠三郎は承諾します。

その息子・錠一郎(三橋達也)は、錠三郎のいない時自宅に現れ蘭子と会い、帰り際、おばさんのことが好きになりましたと言われ、蘭子も呆気にとられる感じで事実を受け入れるかたちとなります。

番頭の山口はお手伝いのとめとの間に子供が出来、二人も結婚させる事にし、長女も子供が出来たから、他の子は引き受けられないといい、蘭子もガマガエルでの再再検査でやはり妊娠と判明。錠三郎の秘書官鳥井(小沢昭一)も具合が悪く実家に帰っていた妻が妊娠とわかり、厚生大臣の新木錠三郎の周囲には、赤ちゃんが6人生まれることになったわけです。「愛のお荷物」も無事「愛の贈り物」となってめでたく誕生できることになりました。

そしてなんと、内閣改造で新木錠三郎氏は、今度は防衛庁長官に就任ときまりました。

脚本は、川島雄三さんと柳沢類寿さんの二人で、助監督に今村昌平さんの名が映りました。登場人物の名前にも風刺がきいていて、厚生大臣に質問する神岡夏子議員(菅井きん)は神近市子さんをかけているらしく、質問で、厚生大臣はもはや青春の情熱もなく赤ん坊をつくる能力がないなどといわれ、大臣もそれは妻に聴いてみなければわからないことでと答弁していたり、なんともよく注意していないと聞き逃す台詞が飛び交っています。

三橋達也さんは、錠太郎、錠一郎、さらに京都で撮影されている場面で赤ん坊を背負った勤王が三橋さんで新撰組と戦っている俳優の三役です。その撮影を見て一言錠太郎が物申したりとテンポが軽快に進みますから、さらさら流されますが、川島監督流の風刺は結構強いですが、風刺喜劇ですからその手法はきっちり守られています。

それでいながら、祇園での場面などはしっとりと映され、このあたりの映像の変化は喜劇であっても見逃せないところです。

日活映画というと、石原裕次郎さん、小林旭さんらのアクション映画が前面に出されますが、この頃の映画の中の北原三枝さんや芦川いづみさんなどの演技力や、思いがけずちらっと出てくる宍戸錠さんなども楽しませてくれる一因でもあります。

映画館ラピュタ阿佐ヶ谷で、轟夕起子さん特集をモーニングショーのみ上映しています。宝塚出身でありながら小太りのおばさんの雰囲気も惜しみなく披露され、親しみやすさと天然の育ちの良さなども表現される女優さんです。今年は、生誕100年、没後50年だそうで、50歳で亡くなられているのです。かつての女優さんは短時間で人生の年輪を演じられていたわけです。

そういうところを引き出す映画監督の怖い存在もあったということになります。

 

追記: 子どもの頃、清水崑さんの政治漫画から似顔絵に興味をもったのが和田誠さんで、墨田区の『たばこと塩の博物館』で「和田誠と日本のイラストレーション展」(10月22日まで)を開催しています。『週刊文春』の表紙や作画姿の映像など和田誠ワールド満開です。

テレビで映画『快盗ルビー』(和田誠監督)が偶然見れてラッキーでした。映像が和田誠さんのイラストのように美しい色合いで、お洒落な喜劇です。小泉今日子さんのキュートさと、真田広之さんのずれ具合が軽くて楽しいコンビとなって展開します。

 

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