国立劇場10月歌舞伎『霊験亀山鉾』(2)

この作品は、国立劇場では平成元年、平成14年、今回の平成29年と三回目の上演で、平成14年に上演されたものを踏襲されています。平成14年はどう変化させたかというと、70年ぶりに復活させた駿州の<弥勒町丹波屋の場><安倍川返り討ちの場><中島村入口の場>で、そこから<中島村焼場の場>につながるのです。丹波屋は揚屋で郭なのです。

そこで、水右衛門、香具屋弥兵衛に身をやつしている源之丞、源之丞の子を宿す芸者・おつま(雀右衛門)、八郎兵衛(仁左衛門)が入り乱れるのです。八郎兵衛は水右衛門にそっくりなため、おつまは源之丞の敵の水右衛門と勘違いして八郎兵衛に快い返事をします。ところが、人違いで本物の水右衛門がこの丹波屋の二階にいると知り、八郎兵衛を袖にします。八郎兵衛はそれを逆恨みし、さらに水右衛門も源之丞とおつまの関係を知るのです。

弥兵衛実は源之丞の町人としても身のこなし、同一人物と思われるくらい似ていても小悪党の八郎兵衛、そのあたりがまた見どころです。

そこには、丹波屋の女将・おりき(吉弥)、飛脚早助(松十郎)が関係していて、全て水右衛門の仲間でさらに、源之丞をおびき出し落とし穴まで掘って闇討ちにするのです。落としいれるならどんな手でも使うという水右衛門です。観客のほうは、水右衛門の悪を忌々しいと思いつつ、こうなっていたのかと愉しまされる結果となるのです。

まだ悪は続きます。水右衛門は姿を隠すため棺桶に入って焼き場へ運ばれます。殺された源之丞も棺桶で焼き場へ。何か起こらないわけがありません。当然棺桶の入れ違いがあります。焼き場でまっているのは、実は焼き場の隠亡である八郎兵衛です。

おつまと八郎兵衛は顔を合わせ、襲い掛かる八郎兵衛をおつまは殺してしまいます。ところが、棺桶から現れた水右衛門は、稲光の雨の中(本水)凄惨にもおつまを殺し、不敵な笑いを浮かべ、悪が流す血は増すばかりです。

場面は明石で源之丞の隠し妻・お松のいる機織りの家です。源之丞には二人の隠し妻がいたことになります。まあそれは置いといて、お松は品物を高い値で買ってくれる商人・才兵衛(松之助)にその上乗せ分を貯めて置いて返そうとします。貧しいのに大変律儀な人柄で、商人はそれは、源之丞の養子家の母・貞林尼からであったことを明かします。

そこへ貞林尼(秀太郎)が現れ、お松と源之丞を祝言させるといい、喜ぶお松です。ところが、源之丞は位牌となっていました。敵討ちが出来るのは血のつながっている者で、残るは、源之丞の息子の源次郎ですが、腰が立たない奇病です。

この奇病を治すには、人の肝臓の生き血がきくのです。貞林尼は自らの肝臓に短刀を刺し命と引き換えに源次郎の奇病を治し、その姿に貞林尼は安堵して亡くなるのです。悪が続いたあとに、情の場面となり若い観客も涙したのでしょうが、しっとりといい場面でした。

お松の兄・袖介(又五郎)が助太刀をし、ついに亀山城下での敵討ちとなるのですが、これには水右衛門の親・卜庵(松之助)が盗んだ鵜の丸の一巻が関係していて、水右衛門をおびき出すための亀山家重臣大岸頼母(歌六)の計らいだったのです。名を変えて現れた水右衛門は正体がばれ、ついに源次郎は母・お松と叔父・袖介に助けられ敵討ちをはたすのでした。

実際の敵討ちの困難辛苦を、舞台の上では歌舞伎独特の悪の華を開花させ、そこから情を含めつつ、溜飲をさげさせるという手法を無理のない強弱で展開させてくれました。友人も言っていましたが、セリフの声がよく、この互いのぶつかり合いが効果てき面でした。

役者さんたちの役どころの配置もよく、それぞれの役どころもその所作や台詞回しでよりはっきり浮き彫りにされ、その上に立つ仁左衛門さんの悪が稲妻のごとく怪しい光を放っていました。

お松の父・仏作介(彌十郎)、兵介に従う若党・轟金六(歌昇)、大岸頼母の息子・主税(橋之助)、石井家乳母・おなみ(梅花)、その他(嶋之亟、千壽、孝志、仁三郎、折乃助、吉太朗、延郎、吉五郎、吉三郎、蝶柴、又之助、錦弥、幸雀)

 

亀山の照光寺には、藤田水右衛門のモデルで討たれた赤堀水右衛門(五右衛門から改名)のお墓があるそうで、知っていれば寄ったのですが。

亀山宿~関宿~奈良(1) この時は志賀直哉さんのことで、その後、桑名から関宿まで歩いたときも亀山宿はまだ志賀直哉さんでした。『霊験亀山鉾』で<石井源蔵、半蔵兄弟の敵討>が加わりました。

この観劇のあと「あぜくらの夕べ 漱石と芸能」という催しがあり参加しました。漱石生誕150年の記念の年で、漱石さんは謡を習っており、小説にも謡曲や一中節のことがでてきて、漱石さんは芸能とどんなふれあいかたをしていたのであろうかと想像しつつ、能楽・森常好さんと一中節・都一中さんのお話をお聴きしました。(聞き手・中島国彦さん)作家の作りだす文字の世界と楽しんだ音の世界との関係。谷崎潤一郎さんに続く国立劇場ならではの企画かなと思います。

あぜくら会会員の催しは、なかなかいいものがあります。無料ですし。あまり言いたくないのですが。なぜなら人数が増えると抽選に落ちる確率も高くなり近頃よく落選しています。歌舞伎好きなかたには楽しみ方の参考になるとおもいます。

漱石に関する公演が12月には国立劇場で『演奏と朗読でたどる 漱石と邦楽』(12月2日)が、国立能楽堂では『特集・夏目漱石・と能ー生誕150年記念ー』公演があります。

国立劇場わきの「伝統芸能情報館」では、「弾く、吹く、討つー日本の伝統音楽の魅力」を開催していまして、関連映像が黒御簾からの舞台を見つつ演奏されるお囃子方さんの様子や、歌右衛門さんの舞台稽古での様子など、音楽中心に見ることができます。歌右衛門さんの身体自体が音楽の宝庫です。玉三郎さんの阿古屋もあります。もう一回観たいと思っていましたら、10月27日までなんです。残念!

 

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