歌舞伎座8月『盟三五大切』

  • 通し狂言 盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』 鶴屋南北さんの作品である。南北さんは、もとある作品を書き換えているものが多いが『盟三五大切』も、先輩戯作者並木五瓶さんの『五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)』を借りて、そこに「忠臣蔵」を混ぜ、さらに「四谷怪談」の民谷伊右衛門が住んでいたという長屋の一室も出てくる。「忠臣蔵」も出てくるので登場人物に<実は>という展開がある。

 

  • 『五大力恋緘』は観た事があるであろうかと脚本を読んでみたら観ていないようだ。「五大力」と三味線の裏皮に書いた芸者小万の源五兵衛に対する心の誓い。それがやんごとないことにから三五兵衛に「三五大切」と「三」と「七」が加え書き換えられ、源五兵衛は裏切られた思い小万斬るのである。これに、「忠臣蔵」の敵討ちが重なっているのが『盟三五大切』である。登場人物の名前が二つの作品に重なっているひともいる。

 

  • 浪人の源五兵衛の幸四郎さんは、芸者・小万の七之助さんに惚れている。ところが小万には、三五郎という夫がいる。三五郎は獅童さんである。大川が流れ込む佃沖で、小万が乗り三五郎がこぐ舟と、小万を身請けしようとする伴右衛門(片岡亀蔵)が乗り伊之助(吉之丞)のこぐ舟が出会う。そして、源五兵衛が乗る尾形船が近づき、小万は源五兵衛に愛想をふりまく。

 

  • 源五兵衛は小万にお金をつぎこんでいて家来の八右衛門(橋之助)は心配している。家財道具のなくなった住まいに小万が、芸者・菊野(米吉)、幸八(宗之介)、虎蔵(廣太郎)らを連れてやってくる。そして小万が腕に「五大力」と彫って源五兵衛に心中立てしたと告げる。そこへ源五兵衛の伯父・(錦吾)が百両のお金を持参し、遊び過ぎるなとたしなめて帰る。小万たちは、八右衛門に追い返される。

 

  • 小万から源五兵衛がお金を持っていると聞いた三五郎はお金目当てで、小万の誘いの手紙をもって迎えに来る。幸四郎さんは、好いた小万の腕に「五大力」と彫られるなど恋に気を奪われた男そのものである。獅童さんと七之助さんは、お金のことしかない。深川の二軒茶屋では、伴右衛門、伊之助、長八(男女蔵)などがいて、伴右衛門の小万の身請け話で、小万はこばんでいる。源五兵衛は心を決め、伯父からの百両をだす。ここへ伯父が現れ源五兵衛を勘当する。源五兵衛が小万を連れて帰ろうとすると、三五郎が小万はおれの女房で、全て金を巻き上げるためのウソだという。これで恨まなければウソである。

 

  • 伴右衛門、伊之助、長八は三五郎の仲間であった。三五郎は、小万の腕の「五大力」を「三五大切」に書き換える。その夜、源五兵衛が現れ次々と斬っていく。しかし、三五郎と小万は逃げることができた。源五兵衛は実は、不破数右衛門で、元塩谷判官の家臣であったが、御用金紛失の咎(とが)で浪人の身。伯父は富森助右衛門で、源五兵衛に仇討に参加したいと頼まれ百両用意したのである。仇討より小万にかけたのである。こうなれば、小万と三五郎を殺すだけである。このあたりから南北さんらしい展開となってくる。南北だぞと期待がたかまる。

 

  • 四谷の長屋に八右衛門が越してきますが、幽霊がでるので引っ越すことにする。大家・弥助の中車さんは、ここには伊右衛門がすんでいたのでお岩さんの幽霊がでるのだという。一日でもひと月分はいただくという。八右衛門は番屋に休ませてもらう。そこへ新しく引っ越してきたのが、三五郎、小万。里親(歌女之丞)が赤ん坊を抱いている。二人には子供もできたのである。驚いたことに大家は小万の兄であった。さらに三五郎の父・了心(松之助)が通りかかり、三五郎は百両を父に渡す。百両は助右衛門→源五兵衛→三五郎→了心へと渡りそこからどこへ。了心の元主人である不破数右衛門へである。

 

  • 源五兵衛が三五郎と小万の前に現れる。新たな付き合いをしたいとお酒を差し出す。役人が五人殺しの犯人として捕らえに来るが、八右衛門がじぶんがやったとして身代わりとなる。大家の弥助がしきりに樽代という。何かと思ったら入居時の礼金であった。その為ニセ幽霊で樽代と二重の家賃を儲けようとしていたのである。妹さえもだまそうとする欲張りであったがばれて酒を飲んだところこれが毒酒であった。源五兵衛が許すわけがないのである。三五郎は樽の中に隠され、父・了心の愛染院に運ばれる。

 

  • 源五兵衛は、二人の様子を見に来る。怖れる小万。小万の腕をみると「三五大切」と書き換えられていた。子供だけはと頼む小万の手に刀を握らせ子供を殺してしまう。そして小万も。人とは思えない状態の源五兵衛の幸四郎さんである。御用金紛失も弥助であった。その罪をきせられそれでも主君の仇討に参加しようとしていたのである。自分が小万に迷ったためではあるが、それにだまされるとは。

 

  • 源五兵衛は小万の首を持って隠れ家の愛染院にもどる。了心は、三五郎が手に入れた高野家の絵図面と百両を渡す。不破数右衛門は源五兵衛であったのを、樽の中で知った三五郎は、出刃で腹を突いていた。全ての罪を背負って。源五兵衛・不破数右衛門は目出度く討ち入りに参加することができたのである。目出度くかどうかは死んだ人にとってはどうなのであろうか。目出度くにしないと浮かばれないということである。もっと早くに事実がわかっていれば、死ななくて済んだかもしれない。そして「色に耽ったばっかりに」にも通じるかな。幸四郎さんを中心にそこのあたりが浮き彫りになった。

 

  • 郡司正勝著『鶴屋南北』に面白いことが書かれていた。近松門左衛門が其角に送った書簡を南北さんが所有していたのである。赤穂浪士事件の評判を、堺町の勘三郎座で曽我の仇討の中に組んだ知らせを、近松が其角に送った手紙であった。南北宅の床の間に掛物として掛かっていたのだそうだある。驚きの組み合わせである。

 

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