録画歌舞伎『梅初春五十三驛』『四天王楓江戸粧』

  • 鶴屋南北さんの作品は、表だけではなく裏も書いてもいるので、新劇の方たちも挑戦されたりする。脚本の鶴屋南北賞などもあり歌舞伎のみならず視線の熱い作者さんである。鶴屋南北といえば四代目をいうが、五代目は四代目のお孫さんにあたるひとで、『盟三五大切』にも出てきた、深川の二軒茶屋の息子に生まれているのである。役者から狂言作者に転向し、四代目の作品の改訂や補作をしたようである。2007年国立劇場開場40周年の初春公演に『梅初春五十三驛(うめのはるごじゅうさんつぎ)』を166年ぶりに上演しているが、五代目鶴屋南北(合作)作である。四代目鶴屋南北さんの『獨道中五十三驛』をもとにしている。

 

  • 四代目鶴屋南北さんの『獨道中五十三驛』は最近では、2016年の地方公演でも、猿之助さんと巳之助さんがダブルキャストで上演されている。『獨道中五十三驛』は南北さんらしく、十返舎一九さんの『東海道中膝栗毛』にお家騒動を加えて『獨道中五十三驛』としたのである。岡崎宿で化け猫がでてくるところから通称「岡崎の化け猫」と言われたりもする。観た人は、行灯に顔を突っ込み魚油をぺろぺろ舐める猫の顔が映りだされたり、化け猫の妖術によって娘がくるくる回されたり、飛んだり、転がったりとする場面が思い出されるであろう。

 

  • 梅初春五十三驛』のほうもその場面はもちろんある。さらにパロディ化されていて、八百屋お七を思わせる木戸開けの櫓太鼓の打ち鳴らしもある。『盟三五大切』なども、「忠臣蔵」という誰もが知っていた事実を念頭にいれそこに集約される観客の意識を違うほうから持って行くという発想は、さすが大南北(おおなんぼく)である。『梅初春五十三驛』の映像は、生中継で時間が長く、録画の設定時間を間違えたらしく途中で切れてしまった。山川静夫さんが案内と解説をされておられ今観ても参考になる。芝居の中に田舎芝居の劇中劇があって、そこは、日によって変わるらしくネタばれなしということで公開されなかった。劇場にてということである。

 

  • 以前はお正月にこうした一つの劇場での生中継があったが、今は各劇場からのダイジェスト版である。ところが、初春ということもあって、録画しつつこれを観る時間がなく、実際に劇場で観て映像はそのままということが多い。時間が経過しているから芝居のことは忘れていることが多い。今回も、芝居の内容よりも10年前の役者さんの演技に目がいく。特にもう観ることのできない十代目三津五郎さんの台詞や体の動かし方などに目を凝らす。幕間の田之助さんのお話で脇役のかたで楽屋にもどって身体を振ると衣裳がバラバラっと解けて、そのくらいゆったりと着られていたというのも面白かった。花柳章太郎さんの着崩しかたを写真で研究される役者さんもおられ、芝居をしてもそれ以上は着崩れない着方は難しいという話も聞いたことがある。

 

  • 若い役者さんの10年前も面白い。お化粧のしかたや動きなどこうであったのかとその変化がわかる。今の若い役者さんでも、自分より年上の役などで、出てきて、誰?と思わせるかたもいる。そのあとの演技までは続かないが、研究されたなというのは分かる。芝居のほうは初日であるから、数日の稽古である。今までの蓄積からすっとー動く役者さんの身体はお見事である。出ておられたのであろうが、現彦三郎さん、坂東亀蔵さん、萬太郎さんなどが録画切れで観られなかったのが残念である。
  • その他の出演/菊五郎、時蔵、菊之助、團蔵、権十郎、片岡亀蔵、秀調、松也、梅枝、松緑 、八代目彦三郎(楽善) etc

 

  • 四天王楓江戸粧(してんのうもみじのえどぐま)』は、国立劇場開場30周年の公演である。1996年、20年前ということになる。この時に出ている役者さんで、変ったなあと思わせる方は、亀治郎時代の四代目猿之助さんと、弘太郎さん。現在のお名前で書きますが、猿之助さん21歳で、花園姫を演じられていてこの姫が今のような活躍をするとは想像できない姫君ぶりです。歌舞伎の姫君はとんでもない行動にでますがその血を受け継いでいるのかもしれません。弘太郎さんは、13歳で懐仁親王で身分を隠している時は禿で可愛らしく、2014年の明治座では、坂田公時。

 

  • 段四郎さんの碓井定光は「しばら~く」と荒事で花道から登場しますが、段四郎さんの荒事はそこはかとない鷹揚さがある。猿翁さんとは太陽と月のような関係でおもだか屋をここまでにされている。国立から18年後の明治座での、役も交代を紹介する。辰夜叉御前、蜘蛛の精、平井保輔、良門(猿翁→猿之助)、小女郎狐(笑三郎→猿之助)、左大臣高明(歌六→彦三郎)、石蜘法印(猿弥→猿三郎)、花園姫(猿之助→笑野)、坂田公時(右團次→弘太郎)、和泉式部(田之助→笑三郎)、七綾姫(田之助→尾上右近)、碓井定光、渡辺綱、(段四郎→右團次)、卜部季武(段四郎→猿弥)、保輔の母(歌六→秀太郎)。変わらないのが、さぼてん婆の竹三郎さんと、和泉式部の妹・橋立の笑也さんと、頼光の門之助さんです。さらに国立では登場しなかった卜部季武の弟として團子さんが登場し活躍する。かなりの世代交代となっている。

 

  • 国立劇場のほうの録画『四天王楓江戸粧』から一通り整理しておく。昼夜通しなので7時間ほどの上演時間である。そのため映像は「戻り橋の場」までダイジェストでみせて、そのあと3時間ほどの映像となっている。天下を狙う左大臣高明は、懐仁親王(やすひとしんのう)を失脚させようと、死んでいる姉の辰夜叉御前を石蜘法印の術で生き返らせ、蜘蛛の魂をやどらせる。辰夜叉は夫を源氏に討たれ、自分も自害したのである。追ってきた渡辺綱を翻弄し、宙乗りで姿を消す。『将門』の滝夜叉をおもわせる。高明は自分が即位に必要な刀を、名刀・小狐丸を手本にして作れと刀工(実は大宅光国)に命じる。これは『小鍛冶』に通じそうである。

 

  • 坂田公時(金時)は、東下りの頼光から不思議な力をもった二本の矢を探すように命じられれ、母の住む足柄山にむかう。母は実は山姥であった。ここは『山姥』の挿入である。母は術を使い二本の矢を公時に渡すがその術は自分の死を意味していた。

 

  • 辰夜叉は平井保昌に紛失の宝剣を見つけることを命じ、見つからなければ頼光の首を差し出せという。保昌と保輔の母は、弟の保輔の首を頼光の代わりにすることを決める。保輔は刃ものを見ると体が固まってしまう奇病をもっている。そのため、兄の保昌は妻の和泉式部に梅の一枝をもたせ、その切り口で死ぬようにと暗示する。その奇病は暴れ者の保輔を封じる手立てをしてあったがそれを解いてやり、保輔は自刃する。保輔への想い人で和泉式部の妹・橋立は嘆き悲しむ。刃ものをみると気が狂う『蘭平乱心』と類似。

 

  • ここでだんまりが入る。名刀子狐丸が誰の手に渡るかである。だんまりは役柄を表すとともに次の話しの展開に便利な場面でもある。名刀小狐丸は卜部季武が手に入れ、さらに良門と七綾姫が赤旗を首にかけ垂らし、この二人は平氏であることがわかる。ただ説明なしで観ているだけでは誰が誰とわからないこともある。今回も役の字幕紹介があってそうなのだとわかったのである。(大宅光国、相馬良門、卜部季武、七綾姫、小女郎狐)

 

  • 和泉式部は、頼光の身代わりの保輔の首を辰夜叉の前に差しだす。首実験となるが、橋立と頼光の許嫁・花園姫が首との哀しみの対面となる。ここは『熊谷陣屋』の相模と藤の方を思い起こす。窮地に陥ったところに現れるのが碓井定光で『暫』の登場である。碓井定光によって辰夜叉は骸骨となり消え、高明も退散する。辰夜叉に宿っていた大蜘蛛が現れ、頼光、公時、定光が退治する。ここは『土蜘蛛』。

 

  • 「紅葉ヶ茶屋の場」は今までの流れから登場人物も変わり、四天王の一人、卜部季武と将門の息子の良門とその妹の七綾姫と小女郎狐の話しとなる。それも町人などにやつしての登場となる。季武は茨木五郎、その居候に良門の伝七、七綾姫は五郎の女房・おまさ、小女郎狐は後からの押しかけ女房・おつなとなっての、良門、秀武、七綾姫、小女郎狐が中心である。季武は、七綾姫と小女郎狐を女房とする。七綾姫と小女郎狐は酔いつぶれて寝てしまう。夢の中にそれぞれの父が現れ、ふたりの正体がわかり、季武はふたりを離縁する。ここで七綾姫は兄・良門と合う事が出来、赤旗を渡す。

 

  • 小女郎狐は季武が持っている名刀小狐丸を手に入れたかったのである。「狐忠信」が浮かぶ。良門は、雪の中に隠してあった名刀小狐丸を見つけ出し、宙乗りで下りてきた小女郎狐に花道の梯子の上から手渡す。感謝する小女郎狐。このあと、平家の良門と源氏の季武の争いとなるが、七綾姫と小女郎狐が間に入り、大団円となって終わる。主なる登場人物でのあらすじである。

 

  • もっと、他の歌舞伎作品を思わせるところがあるのかもしれない。それにしても南北さん散りばめてくれました。実際にはもっと長い作品だったのでしょうから、まだまだ何かが隠れているのかもしれません。二本の矢がどう使われたのかもダイジェストの部分だったのでわかりません。おそらく7時間にやっと短縮したのでしょう。さらに短縮したのが明治座での公演です。これまた思い切って短縮したものだとおもいます。明治座の『四天王楓江戸粧の感想はこちらで参考まで。明治座 11月 『四天王楓江戸粧』

 

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