ヒッチコック映画『鳥』と『マーニー』(2)

  • マーニー』(1964年)はヒッチコック映画では人気度がそれほど高くないようであるが面白かった。女性が歩いている後ろ姿。左腕脇に黄色のバックが抱えられている。右にはスーツケース。髪は黒。黄色のバックがアップされる。観客の目をひき大切なものが入っていることを察知させ、さらにその女性は何者か、観客は黙って彼女の後をつける。そして、その後の彼女の行動を覗き見る誘惑の中にいる。

 

  • 彼女は会社の金庫から多額のお金を盗んでいた。何回もやっているようである。ショーン・コネリーが演じるマークは、マーニーが自分の会社の社員として雇う。盗難にあった取引き先で彼女を見かけていた。マーニーはそれを知らない。マークは彼女に盗癖がありそれが病気のようであり、どうしてそうなったのか興味を持つ。マークはその原因となる過去を究明するのである。

 

  • マークは言う。このままだと刑務所か乱暴されて身の破滅となるだけだと。それでもマーニーは結婚してまで自分を守ってくれようとするマークを拒否して自由を求める。マーニーは赤の色に異常な反応を示す。その場面は赤の色が画面一面に重ねられる。これは、『裏窓』(1954年)で、主人公が殺人者から身を守るとき焚かれるカメラのフラッシュの時にも出てきた手法である。そしてマーニーの実家を訪ね母親から明らかになる過去。原作では、一人の女性に二人の男性という関係だそうだが、映画では、マークの死んだ妻の妹が加わり、二人の女性に一人の男性という設定である。

 

  • ショーン・コネリーのマークがさすが頼もしくて格好良い。そのマークを拒否してまで自由を求めるマーニーの謎を観客は知りたいと思う。マーニーの美しさに加えて病理的疑問からマークがマーニーに魅かれたことは、マーニーにとっては幸いであったし、サスペンスとしても面白くなった。美人女優の起用の多いヒッチコック監督は、当然男優人も美男子が多い。しかし脇俳優もしっかりと計算している。脇役の女優陣がベテランの演技力をみせてくれる。『ロープ』の家政婦、『裏窓』の看護師、『』のミッチの母親、『マーニー』のマーニーの母親などもその例で、ユーモアを加えてくれたり深みを出してくれたりしている。

 

  • 映画『ヒッチコック』では、ヒッチコック監督が『サイコ』(1960年)の女優を誰にするか決めかねている。グレース・ケリーなら何を演っても許されるのにとつぶやき、妻に王妃なんだから無理よと言われる。最終的に妻のジャネット・リーはどうと言われて決まる。ヒッチコック監督の机の上に女優のポートレートが重ねられている。妻はその写真の一枚に、自分のイヤリングの一つを置く。その写真がグレース・ケリーの写真で、グレース・ケリー大公妃の出演依頼を暗示しているようにも思える。出来るものならやってみたら。

 

  • 映画『ヒッチコック』(サーシャ・ガヴァシ監督)は内容も興味あるが、ヒッチコック監督役のアンソニー・ホプキンスと妻・アルマ役のヘレン・ミレンの演技上のぶつかり合いも見どころであった。

 

  • 女優グレース・ケリーのことは今までもにも多少見聞きしたことがある。両親に認められることを願っていたが、特に父親が女優という職業をよく思っていなくてグレース・ケリーの努力を認めてくれなかったというようなことなど。ドキュメンタリー映画『グレース・ケリー 公妃の生涯』(ジーン・フェルドマン監督)ではそうしたことまでは触れず父母の生い立ちや、グレース・ケリーの生涯を個人的波風は少なく公的に追っている。

 

  • 喝采』(1954年・ジョージ・シートン監督)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したグレース・ケリーは、モナコ大公レーニエ3世と出会い結婚(1956年)へと進むのである。映画『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』(オリヴィェ・ダアン監督)では、モナコ大公妃になってからの1961年から1963年までの大公妃の身に起ったこととして描かれている。

 

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