映画『ホワイトナイツ/白夜』『愛と喝采の日々』(1)

  • 昨年の11月に三浦雅士さんの講演『ベジャール/テラヤマ/ピナ・バウッシュ』の中で、どんな関連からであったのか忘れたが、映画『ホワイトナイツ/白夜』の最初に出てくるバレエがバッハの『若者の死』であるということを言われた。映画の記憶としてはダンスが良かったということは残っているがその他は記憶が薄れている。まあ見直せばよいと思って見返したら初めて観るようなハラハラドキドキであった。

 

  • ミハイル・バリシニコフが踊るバッハ『若者の死』は、ジャン・コクトー台本で振り付けはローマン・プティである。導入から画面に釘付けになる。そこから主人公は飛行機事故で旧ソ連のシベリアに不時着。主人公は奇怪な行動に出る。次第に明らかになるのだが、主人公はソ連からアメリカに亡命したバレエダンサーで、亡命者はソ連では犯罪者である。主人公はKGBの監視の下に置かれるが逃れて脱出を試みるというサスペンス的な緊張感である。

 

  • もう一人、アメリカ人でベトナム戦争で白人より黒人の戦死者が多いのに疑問を持ち脱走兵としてアメリカから亡命した男性がいる。アメリカではタップダンサーであった。彼はソ連の女性と結婚していて、この夫婦は主人公を監視しつつバレエ公演に出るように説得する役目を担わせられる。お互いに心が通じ、脱出を計画する。そのため監視カメラの前で二人並んで踊る場面がいい。タップに合わせた音楽を作り、さらに振り付けが二人を光らせる。

 

  • もう一人脱出に協力するのが主人公の元恋人である。彼女はバレエの相手役でもあり恋人だったので彼が亡命した後はKGBから尋問を受けるなど苦境を強いられた。そのため主人公には再会の時怒り心頭であったが、自由なバレエダンスを求める主人公のバレダンサーとしての気持ちを理解して協力するのである。この元恋人がヘレン・ミレンで彼女は実生活で、この映画のティラー・ハックフォード監督と結婚している。ミハイル・バリシニコフも実際にアメリカに亡命していてる。ソ連時代のエリートは許せる限りの自由と豪華な生活の保障があったが、それだけではないバレエに対する窮屈さがあったのであろう。

 

  • 映画はソ連ではロケできなかったが、レニグラードをこっそり撮影している。映画での車の移動はセットで、背景は実際のレニグラードの映像で合成している。批評家がこの合成が下手だといい、レニグラードの場面は全てヘルシンキだろうと言ったが、撮影した人に迷惑がかかるのでレニングラードを映したとは当時は言えなかったと映像特典で監督が語っている。そういう時代の映画でもある。

 

  • KGB幹部の役のイエジ―・スコモリフスキが上手い。世界的バレリーナをソ連で再び受け入れて舞台に立たせれば、その寛大さが賞賛され彼の手柄となる。その手柄を自分の物にできる絶好のチャンスである。必死である。一度舞台に立たせ、その後は尋問にするという計画である。この役者さん、この映画をたっぷりと盛り上げてくれる。アメリカ領事館へ主人公にピッタリくっついて向かい、メディア関係のカメラに微笑むのも見どころであるが、さらなる展開もありなかなか手が込んでいる。タップダンサーの妻役が、イザベラ・ロッセリーニで初々しくて美しい。

 

  • タップダンサー役のグレゴリー・ハインズも映画の中で、みすぼらしい小さな場所で『ポギーとベス』を演じていて、場面場面で見事なタップを披露する。ミハイル・バリシニコフが出るのでバレエ映画と思っていたら思いがけない展開が始まり、バレエ、タップ、バレエダンサーとタップダンサー共演のダンスという場面ありで驚いたことを思い出したが、再度観ても面白さは薄れなかった。

 

  • ティラー・ハックフォード監督は映画『愛と青春の旅立ち』(1982年)で興行的に大成功だったようで次が映画『カリブの熱い夜』(1984年)でミステリアスな展開をさせ、そして映画『ホワイトナイツ/白夜』(1984年)となる。『愛と青春の旅立ち』『カリブの熱い夜』も見直したが懐かしかった。そして、同じ<愛>でもバレエ映画となれば『愛と喝采の日々』(1977年)であろう。こちらの映画にはミハイル・バリシニコフが浮気なプリンシパルとして登場する。

 

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