無料配信・国立劇場『通し狂言 義経千本桜』

こちらは、『通し狂言 義経千本桜』の忠信・知盛・権太の三役に菊之助さんが挑まれるということでAプロ、Bプロ、Cプロに分れての一か月公演の予定であった。場所は小劇場ということで全てを観るのは無理だなと思っていた企画である。

時間短縮ではあるが無料舞台映像配信で観劇できたのは幸いであった。そうした中で魅了してくれたのはBプロのいがみの権太である。台詞といい動きといい、特に椎の木の場の悪でありながら粋さがあり恰好好いのである。最後の死に際をみて、『仮名手本忠臣蔵」の四段目の菊之助さんの塩冶判官が観たくなった。

勘三郎さんが勘九郎時代に出された本『勘九郎ぶらり旅 ~因果はめぐる歌舞伎の不思議~』がありまして、昨年の暮れそろそろ処分しようかなと読みはじめたら面白くて処分するどころではなくなった本である。本は時間が経ってみると新たな発見が生じる。開かないで処分するのがよい。その発見とは、「はじめ」にで梅幸さんの判官について書かれてあった。

「僕は、子供の頃から梅幸おじさんの判官が大好きで、自分が舞台に立っていない時でも、いつも目を皿のようにして、その優雅な所作を見ていたし、素晴らしい口跡(こうせき)に聞きほれていた。」

その判官役を勘九郎さん自身が歌舞伎座で演じた時泣いたと言う(平成10年3月)。三段目で本蔵に抱きとめられ刀を投げつけてチョンと幕になったあと。「終わったら、涙が自然に出てきた。尊敬していた、あの梅幸のおじさんが演じた役を、この僕がまったく同じ舞台で、しかも同じ板の上で演らせてもらった喜びと、演れた感激で、目頭がジーンとしちゃってさ、知らず知らずのうちに涙が出た。」

菊五郎さんの判官は印象に強いが、梅幸さんの判官は実際に観たかどうか記憶にない。昨年、『にっぽんの芸能』で七世尾上梅幸さんを紹介していて『判官切腹の場』も紹介してくれて録画が残っていた。『魚屋宗五郎』の二世松緑さんと梅幸さんの夫婦役も素晴らしかった。九世三津五郎さんやなかなか映像では観られない七世門之助さん、二世助高屋小伝次さんも出られていた。魚屋宗五郎の酔っぱらいに合わせる梅幸さんはもちろんのこと皆さんの動きが自然で見事である。

判官切腹の場』は十三世仁左衛門さんが由良之助で、判官が由良之助を待つ気持ちが目の動きなどで丁寧に表されている。秀太郎さんの力弥がこれまた絶品。判官が由良之助に仇討を伝えそれを受ける由良之助との緊迫感とマグマの一瞬はぴかっと光が走る。これらが頭に浮かび、菊之助さんの判官が観たいと思ったのである。菊之助さんは新しい事にも挑戦されているのでまた違う判官になるのではと期待がたかまるのである。

その一つに新作『風の谷のナウシカ』がある。『風の谷のナウシカ』は、前半はアニメ映画を見返して観劇したので、なるほどこう歌舞伎化されたのかというのがよくわかった。後半はかなり難解で登場人物をとらえるのに苦労した。観劇した後で、漫画のほうを購入したが、そのまま開かずにいた。この巣ごもり時間に読むことができた。モノクロなので想像力全開で舞台のナウシカの青い色の衣裳などを思い出しながら、そうかそういう事かと何んとか全体像を掴むことができた。

アニメ映画が強いので、前半一つだけ不満があった。風を感じられないことであった。その工夫がもう少しほしかった。ナウシカは、王蟲(オーム)や巨神兵と心を通わせ、彼らが自分の役目をわかっているかのようにその役目追行してくれて浄化の犠牲となってくれることに涙する。その事をわかってあげれる人としての役目がナウシカだったのである。芸術、芸能、文化とは様々な感情を呼び起こし、考えさせ、力づけ、共に涙するそんな役目がある。

追記: さまざまに頑張っているのに新型コロナウィルスに感染して非難されたり、死にいたったり、自死するようなことになったら仇討を託したくなる。相手は幕府。それで駄目ならお岩さんになって出てくるしかない。『四谷怪談』の初演を『仮名手本忠臣蔵』とつないで舞台にかけた江戸歌舞伎は凄い。ゾクゾクする。

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