ドキュメンタリー映画『薩チャン正ちゃん』まで (3)

1954年(昭和29年) 『日の果て』(山本薩夫監督) 『ともしび』(家城巳代治監督) 『どぶ』(新藤兼人監督) 『太陽のない街』(山本薩夫監督)

日の果て』   梅崎春生さんの小説が原作である。ルソン島で絶滅しそうな状況の一隊が飢えに苦しむが、上官は切り込み隊の任務を命令。途中兵隊たちは脱走してしまう。花田軍医(岡田英二)は地元の女性(島崎雪子)と一緒にいてもどるようにという命令にも従わない。宇治中尉(鶴田浩二)が再度もどるように伝え従わないなら殺すように命令される。花田軍医はもどる気はなく宇治中尉は病に倒れてしまう。宇治中尉も次第に戦争の虚しさから自分を解放することを決心するが、お互いの誤解から銃弾に倒れてしまう。脱走ではなく自分を自由の身にするのだという主張は戦争映画では少ないであろう。

ともしび』  1950年代初めの貧しさと闘う子供たちと教師の物語である。何とか子供たちに学ぶ楽しさをと教え方を工夫し情熱を燃やす教師とその教え方が思想的にアカだときめつける教育者と村人たち。試行錯誤する若き先生たちが受ける試練である。松熊先生(内藤武敏)は学校を去るが子供たちは生徒大会で意見を出し合う。いづれ自分たちの村を住みやすい場所にすると希望を語り合う。

香川京子さんが生徒の一人の姉として出演。インタビューで語る。新東宝でデビューして3年目、本数契約で会社の本数をこなせばフリーで出演できるようになり『ともしび』が独立プロ初めての仕事。鍬の持ち方から苦労。戦中派で勤労奉仕もしたがサマにならなかった。社会の一員として社会を知らなければ、社会人の一人として生きなければとフリーになってわかったと。

どぶ』   川崎のカッパ沼の近くのバラックに住んでいる人々のところに、少し頭の回転が違う女性・ツルがあらわれる。トクさんにパンをもらいトクさんは好い人と思ったのであろう。トクはピンと同居していてそこにツルが同居するのであるが、ピンが学生でその学費がなく学校をやめなくてはならないとのウソの話しをする。ツルはまかせておきなと川崎の駅にたち客をとるのである。乙羽信子さんの演技がオーバーで観ていてやり過ぎと思わされたが、ラストでその突飛さに監督の計算があったのだと思わされる。

ツルはカッパ沼部落に来た時自分のこれまでの経験を話すが、その過程で悪い病気をうつされそれが脳にまわっていたのである。そのことをツルは知っていた。それを隠してツルは本当の自分をみせずに闘っていた。死に顔が美しく生きていた時の白塗りのツルと対比させている。ツルが書いたという小説が皆を泣かせる。

太陽のない街』  → https://www.suocean.com/wordpress/2020/05/25/

1955年(昭和30年)  『ここに泉あり』(今井正監督) 『姉妹』(家城巳代治監督) 『』(新藤兼人監督)

ここに泉あり』  高崎でオーケストラの楽団を作ろうと奮闘する人々のはなしである。食べるのもやっとで世話役の井田(小林桂樹)は家庭崩壊寸前。楽団員の指揮者の速水(岡田英次)は仲間の佐川(岸恵子)と結婚するが、妻は才能があるのに子育てと生活のため自分の音楽活動がさえぎられ夫婦間がぎすぎすする。そんな中で励まされるのは演奏に行った場所での聴いてくれる人々である。山の生活に帰りもう生の演奏は聴くことがないかもしれない子供たち。閉ざされた生活をしているハンセン病の人々。そしてかつて合同演奏会を引き受けてくれた山田耕筰さんが心配して訪ねてくれ励ましてくれる。

希望をもったり失ったり。現実との相克が仲間たちとのいさかいなどを含めて描かれている。演奏のために楽器を抱えての旅は自然をまじえリアルに映し出される。その中で、映画を観る者も演奏場面を楽しませてらう。

ピアニストの室井 摩耶子さんも本人役で出演されていて今も99歳の現役ピアニストということである。まさしく<ここに泉あり>。

姉妹』  性格の違う姉妹が、成長していく物語である。父は発電所勤務でやはり家は貧しいのである。そんな中、姉妹(野添ひとみ、中原ひとみ)は山から町の伯母の家に下宿し学校に通う。妹はお金持ちの友人と友達になったり、姉は結婚問題があったりと様々な人々の生活と環境に触れ、自分の道を見つけ出していく。自分の見た目での世の中の矛盾にぶつかっていく妹の元気の良さが印象にのこる。

中原ひとみさんは、この映画で注目され映画『純愛物語』(1957年・東映・今井正監督)へとつながっていくのであろう。

純愛物語』についてはこちら→https://www.suocean.com/wordpress/2012/06/16/ 

https://www.suocean.com/wordpress/2012/06/20/

ドキュメンタリー映画『薩チャン正ちゃん』で中原ひとみさんと江原真二郎さんご夫妻は朗読を担当されている。

』   観始めからよくわからない展開となる。強盗できると思えない人が郵便車を襲うのである。2人の女性と3人の男性の5人組である。次に5人の出会いと強盗までにいたる経過が描かれる。5人(乙羽信子、高杉早苗、殿山泰司、浜村純、菅井一郎)は終戦で仕事もなく生命保険の外交員の募集をみて集まった人々である。集まった人々は全員合格となり、昼食に玉子どんぶりが並んでいる。このどんぶり物がいかに人々が飢えていたかを主張している。

5人は営業成績も悪く6か月の試用期間も終わりに近づきピアノの音が流れる家の前の空き地に集まっている。音楽担当が伊福部昭さんでこのピアノの音楽だけにしている。そこで5人は1人の男性の情報から郵便車の強盗を計画するのである。戦争中映画の脚本を書いていた男性がいる人物設定も面白い。強盗は自分たちにとっては自殺であるの結論。

5人それぞれの家庭事情も描かれる。2人の女性は未亡人で、女性一人の願いは、のびのびになっている子供の手術を受けさせること。もう一人は子供が二人いて電気も止められている。この女性は子供たちと心中してしまう。その遺書が4人に向けて書かれていて新聞に載る。

多くのベテランの俳優さんが出演していて出演時間は短いがそれぞれの人間像をしっかり表現している。保険の勧誘をうけるクリーニング店の左卜全さんのアイロンの扱い方などはきちんとサマになっている。

独立プロ映画に出演されている俳優さんたちの中にはその後の任侠映画などでもおなじみの人たちも多く、こういう仕事で腕を磨かれていたのだと納得する。

書き込むために見直すと新しい発見があり、膨らみ、時間がかかってしまう。

追記: 『ここに泉あり』に出演されたピアニストの室井 摩耶子さんの本を二冊読ませてもらった。とても楽しい方で思いもかけない飛び方をされる。その中で、黒澤明監督の映画『わが青春に悔なし』で原節子さんのピアノを弾くシーンの手は室井摩耶子さんであると知る。さらに、ダスティン・ホフマン初監督の『カルテット!人生のオペラハウス』にも少し触れられている。前作二本は再度演奏場面を注意深く観ることにし、三本目は初観しなければ。室井 摩耶子さんの本も読みやすいので三冊目に入る。

    

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