浅草映画『太陽のない街』『陽気な渡り鳥』

映画『太陽のない街』(1954年)は山本薩夫監督の社会派映画で、独立プロの作品である。1926年(大正15年・昭和元年)の共同印刷労働争議を題材にした徳永直さんの小説を原作にしている。明治憲法下であるから労働争議に対する弾圧も厳しい。

大同印刷の工場の大きな建物の外には長屋が並んでいる。大同印刷に勤めている人々の家族が住んでいる。長屋の家の中は気の毒なくらい貧しさがわかる。従業員38名の解雇に対しスト中で女子は従業員は小間物の外商をして生活と組合運動をささえている。

高枝も病気の父と妹・加代との生活を守りつつ、争議の手伝いもしている。父は長く会社には世話になっていたので高枝の行動を苦々しくおもっている。父が機械で指を失った時、会社は何もしてくれなかったではないかとさとす。

仲間のおきみは、5人の家族を抱え、カフェに働きに出ている。そのことを責める女性の組合員もいるし、それをかばう組合員もいる。頑張っていたおきみも家族のために玉ノ井に身を沈めることとなる。

会社の社長宅が放火される。加代は自分の恋人の宮地が血気早まったのではと心配するが心配は当ってしまう。高枝は放火を疑われて検挙された仲間のために宮地に自首をすすめる。加代は妊娠しており、宮地は加代の事を高枝に託す。炊き立てのご飯を食べ宮地は自首する。

その後も闘争は苦難の連続で、高枝の恋人・萩村も会社の雇った組の者に暴力を受け大怪我をする。宮地は警察で痛めつけられその苦しい中で加代と浅草木馬館で木馬に乗って笑いあったことを思い出す。木馬館はセットである。なんとも虐げられた人々のささやかな楽しみの場所というのが切なさをさそう。

宮地の恋人ということで加代も警察に連れていかれ痛ましい状態で戻され亡くなってしまう。18歳であった。萩村が検挙され、父は自ら命を絶ち、高枝は絶望の淵をさまようように組合の大会に参加していた。組合は、ストをしている者と、新しく雇われた者とで意見が分かれて混乱し、旗の奪い合いとなった。争議派の次の世代の若者が争議の象徴である旗を奪い取り、高らかになびかせるのを見て、高枝にやっと笑顔がもどるのである。

独立プロ映画特選としてDVD化されている。特典映像でサード助監督だった橘祐典さんが語られている。長屋は巨大なオープンセットで、駒沢オリンピック競技場ができる前の空き地に作られた。エキストラの人数が多く、撮影の最後の方はエキストラに払うお金がなくエキストラがストライキをするような状態だったと。オープンセットでなければこれだけのリアルな動線は映せなかったかもしれない。群像劇でもある。

編集助手の中に、岸富美子さんの名前があった。何かのきっかけで、「あっ!この人は。」と目に留まるのは嬉しい事です。様々な経験をした映画人の力が集結した映画だったのである。  劇団民藝『時を接ぐ』 満映とわたし』の嵯峨野時代』 

高枝(日高澄子)、加代(桂通子)、父(薄田研二)、高柳(二本柳寛)、宮地(原保美)、おきみ(岸旗江)(多々良純、北林谷栄、東野英治郎、宮口精二、新欣三、加藤嘉、殿山泰司、安倍徹、清水将夫、三島雅夫、花沢徳衛、西村晃、原泉、小田切みき、赤木蘭子 等)

映画『陽気な渡り鳥』(1952年・加藤康監督)は、美空ひばりさん主演の歌謡映画ともいえる。浅草が出てくる映画は、1951年、1952年、1953年に結構多い。浅草の出てくる美空ひばりさん主演の『お嬢さん社長』は1953年である。1954年に『太陽のない街』が、1955年に『青春怪談』がある。

みどり(美空ひばり)は3歳の時お父さんが戦争に行って便りが無く、預けられた保育園から子供のいない夫婦に引き取られるが、その夫婦に男の子が生まれ邪険にされてしまう。

お芝居を観るのが好きで保育園を尋ねた帰りに一度観た事のある一座と遭遇し一座の小屋を尋ね、置いて貰えないか相談するが一座もやっとの収入で無理であった。行くところが無いので楽屋の張りぼての馬の中で寝てしまう。芝居小屋の売り子の仕事をもらい歌を披露する。優しい座員の奇術師・春江(淡島千景)と弟子の三平(堺俊二)が次の興行先にみどりを荷物と一緒に運んでくれる。

一座の内部分裂もあり、吉澤(阿部徹)と光代(桜むつ子)は一座のお金を持って逃げてしまう。春江とその恋人・(高橋貞二)らの座員が残り、みどりもひょんなことから、歌で一座を助けることとなる。みどりは一座の看板にまでなり東京の浅草の劇場に立つことになる。

浅草六区のみどりの看板を見て悪巧みを考える吉澤。そのバックに浅草松竹映画劇場浅草日活劇場が映る。吉澤はみどりのニセの父親を仕立て上げる指示の場所の背後に花やしきの観覧車、さらに浅草本願寺の境内となる。邪険にした育ての親もしゃーしゃーとでてくる。吉澤はみどりを腕ずくでさらおうとする。逃げるのが国際劇場の裏で国際劇場はやはり大きい。助けたのが本当のお父さんであるがお互いに知らない。

彼女はもう父親はいらないという。それを聞いていた父親は帰ろうとするが、保育園の先生と会い、みどりと再会する。みどりも本当の父とわかり一座で一緒に暮らすことになりめでたしめでたしである。

一座は最初は桜むつ子さんの女剣劇の場面で、肩もろ肌脱いで、着物のすそは翻りなるほどこれが女剣劇のお色気かと思わされる。後は淡島千景さんの舞台場面が多い。ひばりさんの狐忠信の場面が少しと最後は松竹歌劇団の踊りの応援でひばりさんの歌とステップを踏む場面を多くしての幕切れである。やはりその堂々ぶりには驚いてしまう。

ひばりさんは、トップスターを歩み始めてどう進むべきかの迷いがあったのではないだろうか。『鞍馬天狗』などの演技と比べると硬い。次の段階への狭間か。仕事なら大人として受けるという甘えのない心情が感じとれるが深読みか。

(斎藤達雄、桂木洋子、望月優子、河村黎吉、坂本武 / 殺陣・堺俊二)

追記: 友人がダンサーの菅原小春さんを教えてくれた。身体の軸の移動とキレのよさが魅力的。映画『ジョーカー』のホアキン・フェニックスが他のジョーカーと違うのは、あのダンスというかステップと両腕の動きでジョーカーの誕生を表現。

追記2:『陽気な渡り鳥』の映像に、国際劇場裏の場面で『昭和浅草映画地図』には日輪寺も書かれている。この屋根がそうであろうかとはっきりとしたことがわからない。神田山日輪寺は、かつてその名を目にしていたが調べなかった。 将門の人気 かなり経ってから思いがけない出現である。

追記3:『太陽のない街』の長屋の玄関の柱に大山阿夫利神社のお札が貼ってあった。かなり時間が経った感じである。大正時代にも庶民信仰として盛んだったのでしょう。それをきちんと作り上げる美術さんの意気込みも素晴らしい。映像は様々な技術を映し込んでいる。今のような時期だからこそ、先輩たちの技術や芸、演技などを学ぶ方法を若い人は模索して聴いて置くことが必要なのではないでしょうか。こちらもそのお裾分けをちょこっと触れれると嬉しいのですが。