歌舞伎座『楊貴妃』

玉三郎さんの口上から始まる。今回の背景は金屏風であった。中央に向かって次第に屏風の高さが低くなっていく。DVD『坂東玉三郎舞踏集3 楊貴妃』の『夕霧』の背景が金屏風で舞台一面の高さになっていたのを眼にしていた。場所はかつての銀座セゾン劇場なので、広さから考えての舞台づくりということであろうか。衣裳の色も白系の銀の感じである。9月は歌舞伎座の前での「雪之丞変化」の感じであった。

DVDの『楊貴妃』を観ていたのでそのこちらの気持ちと玉三郎さんの話しや生の舞台と映像にさらに自分の中の映像が重なるという時間空間であった。

京劇の独特の手は仏画からきているということで、玉三郎さんが中国で京劇に触れた時シルクロードの風を感じ、それはシルクロードを渡ってきた楽器を収集して出来上がった音楽であるということであった。

ヨーロッパでのバックステージの見学の事にも触れられて、もっと近づきたかった美しい衣裳のことなど。ファッション系のドキュメンタリーを観るのが好きなので先日観た『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が浮かぶ。インドの織物の色と刺繍、そしてそれらの布を重ねて洋服を作るデザイナー。歌舞伎の衣裳のようだとおもった。大きく映像に映し出される打掛、着物、帯、のぞく裏側の模様、重ねられた襟の色具合など、洋服にしたときの軽さと歌舞伎の衣裳の重さの違いでその模様などは自由自在である。玉三郎さんは様々な豪華な衣装を身に着けられることにも喜びを感じられていた。

楊貴妃』の衣裳となると刺繍である。そして長い黒髪に負けじと優雅に飾られた髪飾り。

今回の歌舞伎座映像バックステージでは玉三郎さんの楽屋にも。工芸品の部屋である。

楊貴妃』は、夢枕獏さん作で玄宗皇帝が亡き楊貴妃に自分の文を方士に届けさせるのである。方士は修業をして仙術を身につけ亡き人の魂と話しが出来るのである。舞踊集では彌十郎さん出十郎さんで今回の映像は平成29年の歌舞伎座で上演したもので中車さんであった。中車さんの方は仙人のイメージを強くしたのか老人となっている。それぞれの方士の設定にあった趣である。

楊貴妃が姿を現す時、「九華(きゅうか)の帳(とばり)」から出てくるとあるが舞踊集ではその様子を手のみで表現している。歌舞伎座では小さな東屋のようなところから「九華の帳」をそっと押し分けて現れるのである。具体的になるのであるが、最後姿を消す時も「九華の帳」の中へ消えていく。この最後は舞踊集で消える時は透ける幕の中に入っていきその姿が飛鳥時代の仏像のように見え幻想的で、こちらの方が好きである。

玄宗皇帝の言の葉は文箱に結ばれたひもで方士から楊貴妃に手渡される。映像ではそれを手にして舞うが舞台での玉三郎さんは手に何も持たない。すでにこちらの世界では見えていなくても見えているのですといわれているようである。

舞踊集では舞台の狭さから上手に動いてすーっとわからないように大きな扇を受け取り玄宗皇帝が作った曲に合わせて踊るが、今回は見えないように後見から受け取る形にしている。邪魔にならないように後見の姿もなるべく見えないようにして工夫していた。一人で舞うということでそうした工夫をいろいろ考えられたこともよくわかった。様々なことが浮かびたっぷり堪能させてもらえた。

いつかふたたび全てを生で『楊貴妃』を観ることができるであろう。『老松』も生で観たい舞である。

https://www.tjapan.jp/entertainment/17396921

追記  能の『楊貴妃』も基本に考慮されているので「九華の帳」は能の作り物から考えられたのだと気がつきました。能の『楊貴妃』も観てみたい。胡弓、筝、尺八などの楽器で大陸へと誘われますが筝といえば驚かされたことがあります。亡くなられた箏曲家の二代目野坂操壽さんと娘さんの野坂恵璃さんが25絃筝で伊福部昭さん作曲の『交響譚詩』を演奏されているのをテレビで観ました。伊福部昭さんが箏曲を作曲されていたことにも驚き箏曲の力強さにも圧倒されました。融合されると新しい世界が広がるのが素敵です。

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