映画『ナスターシャ』・フランス映画『白痴』・黒澤映画『白痴』(気まぐれ編)

映画からいろいろな方向に派生していくものである。(3)で記した有島武郎さんの旧宅が保存されているので写真を紹介しておきます。

旧有島武郎邸 (sapporo-jouhoukan.jp)

映画の中での有島武郎さんで記憶に残るのは、『華の乱』(1988年・深作欣二監督)です。主人公が吉永小百合さんの与謝野晶子を通して大正時代を描いたもので、松田優作さんが有島武郎でした。

坂口安吾さんの小説にも『白痴』(1946年)があります。こちらは短編なので読んでみました。

毎日警戒警報がなり時には空襲警報もなった。伊沢は大学を卒業し新聞記者になり、そのあと文化映画の演出家となりまだ見習いであった。彼が一室借りている建物の路地の奥に資産家の家があり、夫婦と夫の母親が住んでいた。その女房はもの静かで日常的な家事などは何もできず、しゃべるのがやっとであった。その女房が姑のヒステリーから逃れてか伊沢の部屋にきた。

伊沢は女房と肉体関係になり、近所からその女性を隠して暮らすようになる。女性は肉体関係にしか興味がない。空襲がひどくなり4月15日、どうにも家にいては危ない夜間大空襲となり近隣の皆が逃げた一番最後に伊沢は女性と外に飛び出し逃げまどう。逃げまどう途中、伊沢は女性に二人一緒だから自分について来いと声をかける。その時女性はうなずいて初めて自分の意思をあらわした。

雑木林の中に二人だけとなる。女性は眠っている。女性はただの肉塊にすぎなかった。ここから記憶の世界に入りそこから男は女の尻の肉をむしりとって食べるのである。男は女に未練はなかったが捨てるだけの張り合いもなかった。伊沢はとにかく彼女を連れて停車場を目指して歩き出すことにしようと考えて小説はおわる。

伊沢はうなずいてくれた女性とのあの一瞬にあこがれたのかもしれないがそれはもうおこらないのである。尻の肉を食べたところで反応はないのである。リアルな空襲の中を逃げる場面から伊沢の頭の中の世界が突然出現するのでとまどってしまう。

坂口安吾さんがでてくると、歌舞伎の『野田版 桜の森の満開の下』が思い出される。

その時の感想がこちらです。→ 2017年8月23日 | 悠草庵の手習 (suocean.com)

そこで、坂口安吾さんの『桜の森の満開の下』で、男は女を絞め殺したところまでを記しています。小説はそこが最後では無くて、彼は女の顔の上の花びらをとろうとするが女の顔は消えてしまい花びらだけしかありません。その花びらを掻き分けようとしたら彼の手はなく彼の身体も消えていたのです。これがわからなくて殺したところで終わらせたのである。(姑息でした。)

今回、『白痴』の尻をむしりとって食べるところで『桜の森の満開の下』の男はすでに鬼に食べられていたのだと確信しました。鬼ですからね、死んだかどうかわからないすばやさで食べることだってやるでしょう。坂口安吾さんの手法が少しわかったような。(このあいまいさ。)

歌舞伎の『野田版 桜の森の満開の下』がまた観たくなります。それぞれの役者さんの演技が走馬灯のように思い出されます。新作歌舞伎の面白さは古典では観れない役者さんが観れるという事であり、古典ではきっちり型にはまった役者さんが観れるという楽しさである。

驚いたことに坂口安吾さんの『白痴』が1999年(手塚眞監督)で映画になっていました。20周年記念ということで現在上映されていました。気まぐれではすまなくなりそうですので今回は挑戦をさけます。

黒澤映画『白痴』は、265分の長さがあったのだそうです。もしフイルムが残っていたら挑戦したかった。

追記: 『札幌芸術の森』に保存されているモダンな洋館の旧有島邸が黒澤映画『白痴』の大野家の外観です。室内での撮影があったのかどうかは今のところ確認できていません。

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