DVD『PARUCO歌舞伎 決闘!高田馬場』から(1)

PARUCO歌舞伎 決闘!高田馬場』は2006年、PARCO劇場で公演された、作・演出・三谷幸喜さんの新作歌舞伎である。忠臣蔵でも知られている堀部安兵衛が、中山安兵衛時代におじの助太刀のため、決闘の場・高田馬場へ走りに走った物語である。2時間ノンストップで演じられた熱い舞台である。

出演・市川染五郎(現幸四郎)、市川亀治郎(現猿之助)、中村勘太郎(現勘九郎)、市川高麗蔵、澤村宗之助、松本錦吾、坂東橘太郎、市村萬次郎、等

幸四郎さん、猿之助さん、勘九郎さんのお三方は襲名前であのころから現在に至るまで走り続けていますなと改めて感じさせられた。ここからは現お名前で記します。サービス精神満載のDVDセットで、本編140分、特典映像71分の二枚組である。観れなかった者にとってはお得感満載のDVDでありました。

長唄、常磐津、鳴り物の位置を舞台の後ろの上部に位置させている。これは三谷文楽『其礼成心中(それなりしんじゅう)』でもやっていてその録画映像を観たとき違和感があったが、歌舞伎のほうはそれが感じられなかった。三谷文楽のほうは2012年に公演されていて、映像で観たのが三谷文楽のほうがずーっと先になってしまったためかもしれない。

PARUCO歌舞伎 決闘!高田馬場』の舞台映像面白かったです。坂東妻三郎さんの映画『決闘高田の馬場』をイメージしてこの作品が作られたそうで、走る!走る!走る!ひたすら安兵衛は走る。まさかまさか、この映画を有料動画配信で観ることができたのです。これも嬉しかった。

映画での安兵衛は長屋の人々に好かれ、心にかけてくれる。歌舞伎のほうはさらに長屋の住人(大工の又八、にら蔵・おもん夫婦、洪庵先生、おウメ)と深くつながっている。そして、長屋の住人が知らなかった安兵衛の過去が小野寺右京によって知らされる。長屋の住人は命を懸けてさらに安兵衛を応援し、おじの決闘の場、高田の馬場へかけつけさせるのである。

幸四郎さん二役、猿之助さん三役、勘九郎さん二役で早変わりもあり、歌舞伎では考えられない、あるいは演劇ではありえない演技方法が炸裂していて観客を喜ばせる。

DVDでは三谷幸喜さんと幸四郎さんお二人で舞台映像でコメントもされている。それがまた役者さんの演技に対する考え方や人物像なども想像でき、稽古の様子が見えてきて笑わせてもらう。台本が途中までしかできていなくて稽古途中から役者さんに合わせてでき上っていったようである。猿之助さんははじめは一役だったのであるが、次の出番まで間がありすぎ、面白い人なのでさらに役を増やされる。

そのことにより、立ち役と女方という歌舞伎独特の形が歌舞伎をまだ観たことがない人にも体験できることとなる。さらに勘九郎さんも二役となる。舞台では勘九郎さんの見事なアドリブの動きがあり笑わせるが、猿之助さんにばっさり遮断され突っ込みがなくて残念そうに舞台からそでに去っていく。

衣装は役者さんがそれぞれ発注され、どうしてそんな衣装となるのか三谷さんでさえ驚かれていた。想像していた人物像とかなり違った人物になったようである。幸四郎さんの二役目の衣装もその例で、三谷さんが幸四郎さんにこの役については特典映像のほうで説明しておられる。そこから幸四郎さんが考えた役の人物の衣装がこれかということで、三谷さんと幸四郎さんの頭の中を見るようで楽しい。

三谷さんのコメント、質問、状況説明らの楽しいのは、歌舞伎のことはわからないので教えてもらうというスタンスである。初歩的なところから突っ込んでくれるのでかえって演劇と歌舞伎の違いや、歌舞伎役者さんの歌舞伎に向かう変人ぶりがみえて可笑しさが増すのである。

歌舞伎音楽についても舞台上の印象を話すとすぐ工夫してくれてその引き出しの多さに驚かれている。稽古の時、浄瑠璃から三味線、つけうちまで入れながら役者さんが一人で演じていて何をやってるのかわからなかったが音が入ってこうなるのかと納得されたようである。という感じで話されるのでその話をこちらも新鮮に受け取れて芝居が出来上がるまでの経過がわかるのである。

唄の詞に「歌舞伎座、国立なんのその、コクーン歌舞伎をはすにみて」とあって、勘三郎さんがコクーン歌舞伎をやっていたのである。勘九郎さんは勘三郎さんに台本を見せろとせまられたが絶対みせなかったそうで、舞台をこっそりみにきていたとか。勘三郎さんの様子が話だけで浮かびます。コクーン歌舞伎は『四谷怪談』でした。

幸四郎さんの渋谷の路上でのポスターの撮影から、テーマ音楽の亀染勘幸ヴァージョンのCD収録の様子もみられ、とにかくこれでもかというサービスぶりで、たっぷり堪能させていただきました。これだけ楽しませてもらえるDVDもそう多くはないとおもいます。

2006年で時間がたっているのにその熱さは今も同じですね。皆さんこの時期なので、もっと心のマグマはぐらぐらと燃えていることでしょう。

追記: 映画『決闘高田の馬場』(監督・マキノ正博、稲垣浩のクレジット)は1937年に公開された『血煙高田の馬場』を1952年に改題して51分に短くしたものです。

追記2: 人気者堀部安兵衛さんの八丁堀の碑関係はこちらでどうぞ。

『堀部安兵衛武庸之碑』 と細井広沢 – 中央区観光協会特派員ブログ (chuo-kanko.or.jp)

碑の地図はこちらで   PORTAL TOKYO 東京ガイド 中央区 堀部安兵衛武庸之碑

追記3: 高田馬場近い西早稲田にある碑の地図はこちらで。都電荒川線早稲田駅からが近いです。水稲荷神社内にあり詳しくは水稲荷神社で検索をどうぞ。

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