歌舞伎座八月『加賀見山再岩藤』

さて女中のお初となりますと歌舞伎では『加賀見山旧錦絵』(かがみやまきょうのにしきえ)です。多賀家に仕える女たちの争いでもあります。かつては御殿女中の宿下がりの三月に上演され、自分たちと同じ屋敷の奥の話しなので御殿女中たちに人気があったようです。

局岩藤は、御用商人の子である中老尾上をさげすんでみています。さらにその尾上が多賀家の宝である蘭奢待(らんじゃたい)の名木と朝日の弥陀の尊像をあずかることになったのですから岩藤にとっては許しがたきことです。当然難癖をつけます。

中老なら武芸くらいはたしなんでいるであろうと自分と立ち合えと岩藤は尾上にせまります。そこへ尾上の召使であるお初が登場し主人の代わりに立ち合い岩藤を負かしてしまうのです。尾上一筋のお初です。

尾上が上使に蘭奢待の箱を提出するとその箱には片方のぞうりが入っています。岩藤はその草履で尾上を打つのです。(草履打ち) 恥辱と失態から尾上は自害しますがその時岩藤が尊像を盗むのです。使いに出されていたお初がかけつけ事の次第を飲み込み、尾上のを仇をとり岩藤は亡くなります。多賀家の家宝二品も戻りめでたしめでたいです。

そのお初が二代目尾上となっていて、死んだ岩藤の怨念が亡霊となって姿を現すというのが『加賀見山再岩藤』(かがみやまごにちのいわふじ)です。八月歌舞伎座第一部ではと、<岩藤怪異篇>としてダイジェスト版としての上演でした。

さらに猿之助さんが休演ということで巳之助さんが代役となり異変続きの上演となり、さらに猿之助さん復帰ということで<岩藤怪異再篇><岩藤怪異旧篇>のようなややこしいことになりましたが無事に千穐楽を迎えられめでたしめでたしです。

私が観劇したのは巳之助さんのほうでした。六役早替りなんですが、六役を一回づつ早替りではないのです。一役を何回かということなので、全部で何回早替りをしたのでしょうか。巳之助さんの一番の手柄は代役を早変わりしたことでしょう。

舞台上の早替りも違和感なくスムーズで、こういう内容だったなあと三代目猿之助さんの舞台を思い出していました。体格の違いはありますが。

先代の雀右衛門さんの尾上は儚く、こちらもお初と一緒に守ってあげなければという気持ちにさせました。当代の雀右衛門さんが二代目尾上ということで時間の流れの不思議さを感じてしまいました。

多賀家のお家騒動から5年がたちますが、またまた怪しい雰囲気です。領主の多賀大領(巳之助)が側室のお柳の方を寵愛し、正室梅の方(巳之助)はないがしろにされてしまいます。それどころか、お柳の方の兄の望月弾正(巳之助)や蟹江兄弟がお家乗っ取りを考えています。

梅の方の味方は、大領をいさめて勘当された花房采女、鳥居又助、安田帯刀、安田隼人(巳之助)、奴伊達平(巳之助)、局浦風などです。又助の忠義をみて弾正は又助にお柳の方がいなくなれば万事うまくいくから彼女を殺害するように仕向けます。又助は図られて誤って梅の方を殺めてしまうのです。

二代目尾上は今は大領の妹の花園姫に仕えています。尾上は初代尾上の墓参の後、岩藤の死骸が捨てらた場所で菩提を弔いますが散らばっていた岩藤の骨が集まり(骨よせ岩藤)、岩藤の亡霊(巳之助)となって現れ、恨みをはらすと告げます。さらにかつての局の姿となってこれからの仕返しを楽しむようにふわふわと空中を飛び去っていくのでした。(岩藤の舞台だけでの宙乗り)

ここまでで大体の登場人物が揃いました。この後は実は何々でしたという展開や、再びぞうり打ちなども加わり、消えたはずの岩藤の亡霊が執念深く現れたりし展開がはやいです。最後はめでたしめでたしとなります。

多数の役をするとき動きの少ない役のほうが難しいと思いました。雰囲気をその存在感で表さなければならないからです。領主の多賀大領、正室梅の方などです。早変わりのため梅の方などは顔の作りが険しく、側室柳の方と比較するとこれは側室になびいてしまうと思えます。工夫が必要でした。あとは上手く演じ分けられていました。

しっかり役柄にあったおもだか屋の役者さんが固め、手慣れた裏方さんが動いてくれたからの進行だったのでしょう。

花園姫が誰なのかわかりませんでした。男虎さんだったのですね。『京人形』での井筒姫も若い女方さんを思い浮かべてもわからなかったのですが玉太郎さんでした。小栗党、変身しつつ修行中ですね。鷹之資さんも鳥居又助役に代役早変わりでした。小栗党の活躍も今後楽しみです。何事も修行あるのみです。そのことによって観るほうは楽しさを増やしてもらえるのですから。

お宝ですが、朝日の弥陀の尊像は二代目尾上におくられました。この朝日の弥陀の尊像もまた紛失するのですが、新しい家宝も登場します。金鶏の香炉です。これも盗まれます。朝日の弥陀の尊像の力で岩藤は消えますが、その威徳にも限界があり、さらなる鬼子母神の尊像の登場となるのです。

歌舞伎のお家騒動に欠かせないのがこのお宝たちです。これも注目していると登場人物の善悪、流れなどがみえてきます。キーワードの一つです。

お柳の方(笑也)、蟹江兄弟(亀鶴、猿四郎・鷹之資の代役)、花房采女(門之助)、安田帯刀(男女蔵)、局浦風(笑三郎)、局能村(寿猿・めずらしくお局役)

追記: <めでたし、めでたし>と書いたら、デルタ株が打ち返してきました。手ごわい感染症です。歌舞伎座はことを明らかにして公演の対処方法が早いので、世のなかの動きが歌舞伎座にも到達したかと参考にしています。無症状の陽性者がいること、ワクチンを接種しても感染はあるということです。感染された役者さんたち、歌舞伎オンデマンドを鑑賞し、早く回復されますよう応援します。

追記2: 『演劇界』10月号の『加賀見山再岩藤』の舞台写真は巳之助さんです。立派に務められた記録ですね。

追記3: 来年の九月は、吉右衛門さんが復帰され穏やかに秀山祭が開演されることを祈願いたします。

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