不易流行『遅ればせながら 市川弘太郎の会』

市川弘太郎さんの自主公演の感想のほうはさらに遅れに遅れてです。場所は池袋の東京建物 Brillia HALL(ブリリアホール)です。旧豊島区立芸術文化劇場のようです。

切符を購入するときから手違い。8月1日昼の部購入の予定が気がついてみれば7月31日の夜の部を購入していました。池袋駅周辺は行きつけていないので苦手なのです。予定していた駅の出口の番号が見つからず駅員さんに尋ね、駅から近かったので何とか到着です。

一席空きなので気分的にゆとりがあります。席に着くとアナウンスの声に反応しました。どうも松也さんの声に似ているのです。弘太郎さんと松也さんとつながらないのです。開演間近に「誰かわかりましたか。尾上松也です。」と。そもそもこの会は、弘太郎さんと七之助さんと松也さんが食事をしたとき、弘太郎さんの一番やりたいことは問われて『四の切』(「義経千本桜」)と答えられお二人が出演すると約束され、それがきっかけで実現に向かったのだそうです。松也さんは出演できないのでアナウンス係りとなりましたと。声でこういう内幕を聞くのも楽しかったです。

最初は『吉野山』で七之助さんの静御前です。改めて女形は色々細かい仕事があるのだなと感じさせてもらいました。自主公演ははじめてなのですが、観客の皆さんが歌舞伎通なのか拍手がピタッ、ピタッと決まっていて驚きました。弘太郎さんは基本的に芸に対しては真面目な方と思っていますが、今回もしっかり基本にそっておられたとおもいます。あがっている様子もなく真摯に向かわれていました。

次の演目『四の切』までの休憩時間が15分で、舞台装置大丈夫かなと気になりました。途中舞台から何か落ちる大きな音が。仕掛けもあるのでしっかりお願いします。やはり時間通りには無理でした。安全のためにもそれは必要な時間です。生の舞台は舞台の設置も大変です。

忠信の登場から始まり、静に二人目の忠信の詮議が任され、竹本の床が回ると拍手がおこり、葵太夫さんでした。贅沢です。観客の皆さん、よくわかっておられます。1992年の上演DVDでの三代目猿之助さんの時も葵太夫さんです。狐忠信の三段階段からの登場は半々呼吸ほど起き上がりが遅いかな。床にひれ伏して正体が静に見破られるとストンと床下に落ちて狐となってあっという間に床下から再登場。成功。

ここから初音の鼓の皮が父母であると子狐は語り親子の情を全身で表現し、欄干渡り。そして子狐は鼓と別れる名残り惜しさを切々と。泣きつつ格子窓に飛び込んで姿を消します。

その様子を本物の忠信が見ていて障子窓から姿を見せ、義経の心の内を聞き障子を閉めます。

義経の自分と狐の立場を重ねた言葉を聞いてか子狐は再び登場。欄間抜けです。舞台上に降りて所作台にスーと滑って止まるとき位置的に後ろすぎると思われたのか膝でスースーと前にでました。それをみて、弘太郎さん欄間抜け何回も練習されたなとおもいました。それでなければその距離感をすぐ察知して動けないとおもいます。初回の公演なのに律儀ですね。ただ慣れていないならなおさら定位置でないと次への動きが美しくならないともおもえます。

この後、義経から鼓を送られます。子狐は大喜び。そのお礼に義経を襲おうとしている悪僧達をおびき寄せ翻弄しやっつけ、自分の古巣へ帰るのでした。

何事もなく無事終わり何よりでした。改めて一つ一つのパーツが上手く重なり合って呼吸を合わせつつ作られていくのだと思い知らされました。そしてそこから物語が発生し観客を感動に導くのです。

今回は、七之助さんが約束通り静を受け持ってくれてよかったです。細やかな動きの中に芯があって、團子さんの義経を映えさせました。そして葵太夫さんのゆるぎない語り。おそらく支えてくれた舞台裏の裏方さんたちも『四の切』を熟知されている方たちだったのでしょう。駿河次郎が鶴松さんでつつがなくつとめ、亀井六郎の國矢さんが適度な軽やかさの雰囲気がよかったです。

今回の公演でこちらも『四の切』の骨格をもう一度確認させてもらいました。弘太郎さんはきちんと基本を重ねていくタイプなのかもしれません。今までのほかの役でもそう感じていました。安易に崩したりしません。土台をしっかりということでしょう。ケレンの多い澤瀉屋ではそれがかえって必須ともいえるでしょう。

舞台が幕となってのアナウンスで弘太郎さんは一回目は誰でもできると言われないように次をといわれていましたので、次はどんな土台を重ねられるのでしょうか。こうご期待です。

劇場の中は安心なのですが、行きかえりの移動がいやなんです。何ということか確率的に超低い体験をしました。電車はすいていたのですが、出入り口に吐いた人がいたのです。本を読んでいたので全然気がつきませんでした。若い女性が乗ってきて「何?」と足裏をみています。吐しゃ物を踏んだらしいのです。吐いた人は乗るときに吐き乗らなかったのでしょう。

私は一度外のホームに降り立ち思いをめぐらしました。お酒によることかどうかはわかりません。ただお酒は人を高揚させ楽しい気分にさせてくれます。それが新型コロナの突きどころでもあります。お酒愛好者のためにも、居酒屋さんのためにも、今までのお酒の飲み方ではない楽しみ方を見つけなくてはお互いの損失です。

そして地方公演の方々も安全に留意され無事幕が下せますように。

追記: <アーカイブ配信>不易流行 遅ればせながら、市川弘太郎の会 今年7月31日、8月1日に開催の劇場公演を映像化【Streaming+(配信)】のチケット情報(Streaming+) – イープラス (eplus.jp)

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