『太鼓たたいて笛ふいて』(the座 第48号)

太鼓たたいて笛ふいて』のパンフレットは、こまつ座の出している2002年7月の「the座 第48号」である。このお芝居は何回か上演されているので、その度に違う資料なども載せているようである。「the座 第48号」には、演劇評論家の大笹吉雄さんが連載で「女優二代 鈴木光枝と佐々木愛 第13回」も載せている。

劇団文化座の代表として係ってきた鈴木光枝さんと佐々木愛さん親子の歩みを書き記しているらしい。この第13回は火野葦平さんの『ちぎられた縄』を文化座の創立15周年記念公演で上演した事から書き始められている。『太鼓たたいて笛ふいて』の舞台を見たとき、この大笹さんの連載は素通りしていた。NHKスペシャル『従軍作家達の戦争』で火野葦平さんのことを知らなければ、永井荷風展に行かなければ見返すこともなかったであろう。

『ちぎられた縄』は火野葦平さんの二作目の戯曲で、沖縄がまだ米軍の占領下にあった頃で、火野さんの弟さんが沖縄線で戦死しているため強い関心があり、沖縄の文化を取り入れた戯曲を書いたようである。この芝居は大変評判を呼び、文化座の旗揚げにカンパした花柳章太郎さんも補助席でみたという。鈴木光枝さんは新派の井上正夫さんに弟子入りしている。

『ちぎられた縄』は本土の作家が初めて沖縄のことを取り上げた戯曲で意欲作であったが、大笹さんは、作者の“二度と戦争があってはならない”のテーマが明確に打ち出されていないのと、人物の描き方に突っ込み足りぬところがあって惜しいとされている。しかし、この芝居の好評判で文化座は経済的に助かったらしい。

今は沖縄に「国立劇場おきなわ」もあり、東京の「国立劇場」でも琉球舞踏は見ることが出来るが、芝居の中に琉球舞踏がでてきたのは火野さんの戯曲が初めてなのかもしれなし、沖縄文化というものを考えさせる作品でもあったのであろう。

時代の中で自分の小説のテーマを庶民の生活の中に模索しつつ突き進んでいた火野さんは、死者たちはまだまだ語りたいことがあるのだと伝えに来たような気がする。

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