新橋演舞場 『石川五右衛門』

平成21年に新しい『石川五右衛門』として樹林伸さん原作で(脚本・川崎哲夫・松岡亮)上演されている。そのときも、秀吉が五右衛門の父であったということで驚いたが、その時は團十郎さんに見守られての舞台であった。

秀吉に助けられ、五右衛門が「葛籠背負ったがおかしいか~」と言って宙乗りをして昇って行くとき、その姿を團十郎さんがゆったりと大きな秀吉で見つめているいる姿は、父としての團十郎さんと役の團十郎さんが重なりじわーときてしまった。その時、今回はこの気持ちで良しとしようと思った事を思い出す。

今回は、辛口で申し訳ないが面白くない。フェイントもなく話しがどんどん進み、美しい舞台装置がこれでもかと続き、泣き所も嘘っぽく、五右衛門さんあなたは頂点に立って絶景かなと言いたかっただけなのですかといいたくなった。

茶々との関係は、秀吉を見返してやりたかっただけですか。初めから見初めてしまったのですか。しかし、鶴松を殺されて復讐に燃えますよね。唐の国で、義兄弟となるべく同士とも出会う。その弟もワンハンに殺される。それを倒してその後がまになるだけですか。<傾く>と言ったあなたは、権力者になっただけですか。

奮闘されているのに、話しの絡み合い、そうくるのかといった驚き、そうしたものが見つからなかった。別々に観れば、海老蔵さん、獅童さん、右近さん、笑三郎さん、九團次さん、猿弥さん、孝太郎さんら全て役づくりはしっかりされていた。しかし、その役の絡みに物語としても面白さがないのである。筋があってそこから飛び出して立体的に浮かび上がる登場人物の存在が薄いのである。

大道具さん達に守られた、体育系の芝居である。

<傾く>五右衛門は、先にいったい何を目指し、何を観客に伝えったかったのか。それを見せてもらいたかった。見つけられなかったこちらの間違いか。

国立劇場の伝統芸能情報館で、30分ほど<荒事>の映像を見た。前の又五郎さんが研修生に『車引き』を教えられている。口三味線で一つ一つの動作と形を指導される。「糸に乘るのが大事だよ。」 口三味線で、又五郎さん自身が形を作っていく。気持ちがいい。「糸に乘る」ということを、こちらも会得して観たいのであるが、いまだよく掴めない。いいなあと思った時、それが糸に乗っていたからなのかどうかが解らないのである。

團十郎さんも荒事について話され、「景清は子供ではありません。妻も子もある大人です。大人の風格が必要です。牢に繋がれていますので、痩せています。そのため青の痩せ隈が必要なのです。」痩せ隈を初めって知った。

先輩たちが研修生に隈取も教えていたが、その注意事項がなかなか理があり面白い。時間の都合で映像は途中であったが、荒事の積み重ねの時間的経過は、壮大であり、その都度その都度時代に洗われて積み重なって来た地層を呈している。それは或る面ではファンタジーでもある。

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