国立劇場 『南総里見八犬伝』

地味な『南総里見八犬伝』である。地味なというのは、<八犬伝>というと、八つの玉が怪しい光を放ち飛び交い、妖術が飛び出し、八犬士の熱い絆のもとに一件落着というイメージがあるからである。

今回の脚本は、戦後初の劇化を渥美清太郎さんが脚色されたものと、河竹黙阿弥さんが脚色された「犬山道節の白井城下の刀売り」をアレンジしての作品なのだそうである。犬山道節を中心に、里見家に仕えた縁の者と同じアザがあり同じ玉を持つ者が深き因縁として結ばれる。

道節は里見の身内で、関東管領・扇谷定正が父の敵であり、最終的には、この天下を狙う扇谷定正を討つことによって、里見家の怨みも晴らし、天下国家の安泰へと繋がるという形になっている。

術を使うのも道節だけで、道節も父の死後、山伏として修業したらしく、火遁れの術を会得したようである。この辺りが戦後に脚色された特色かなと思うのである。妖術ではなく訓練して会得した遁れの術である。小説『RDGーレッドデータガール』で面白かったのが、<陰陽師><忍者・忍びの者><修験者・山伏>の原点を教えられたことである。忍者というのは、情報を集めてそれを仕えている主人に教えることである。人を殺すのではなく、自分の身を隠すための術である。本来、<忍者>と<山伏>は違うのであるが、道節は敵のために修業したのであるから、この二つを兼ね備えたと思えるし、時代的にも人間離れした設定にはしなかったように思えるのである。その点が地味なという意味でもある。

富山で伏姫は、犬の八房に懸想のしぐさをされ、汚らわしいと八房を懐剣で刺し殺し自分も自決する。八つの玉が浮かび、その玉に里見家を救う事を願う。

扇谷に滅ぼされた里見家の家臣、犬塚信乃と犬川荘助は、信乃の叔父の家にいる。信乃は、亡き父から預かった宝剣の村雨丸を足利成氏に献上し時節を待とうとするが、この村雨丸はくるくると人の手に渡り、そのことにより犬飼現八との<芳流閣>の屋根上での立ち回りとなる。その時二人は因縁を知らないが、犬田小文吾によってお互いの関係を知る。

さらに小文吾は追われる二人を逃がし、自分は足利成氏を追放した馬加大記(まくわりだいき)に捕まるが、大記を敵とする女田楽師で剣の舞を舞う犬坂毛野に助けられる。小文吾の助力もあり、毛野は父の敵を討ち、小文吾と毛野は縁を確認する。

< 犬山道節の白井城下の刀売り>の場は、村雨丸を手にした道節と里見家と父の敵・扇谷定正との対面である。道節は刀剣売りに成りすまし、昔からの名刀の名を披露し定正に村雨丸を売りつける。定正は天下に名を響かせる村雨丸を買うと告げるや道節は村雨丸を抜く。村雨丸は雨を呼ぶ名刀であった。そこで道節は身分を明かすが、定正の軍に囲まれ、火遁の術を使う。そこで、犬村大角と出会い、犬川荘助、犬江親兵衛も駆けつけ扇谷定正居城に向かう。

扇谷定正居城で八犬士が揃い、定正を前に、定正の悪行を明らかにし、いずれ名刀村雨丸を持し、里見家再興を誓い幕となる。

このほか、信乃と浜路の恋、網乾左母二郎(あぼしさもじろう)による浜路惨殺、浜路と兄道節との出会い、八犬士のだんまりなどが導入されているが、無理のない八犬士の出会いから大詰めへと、江戸の戯作本を近代的感覚でまとめている印象を受けた。

菊五郎さんの道節が、貫録で八犬士をまとめ、時蔵さんが艶やかに剣の舞を舞いながら小文吾を助け敵を討ち、亀三郎さんが役に合う良い味を出した。梅枝さんと菊之助さんは予想通りの恋仲の二人で、色悪の松緑さんは、何かを掴もうとしているのか迷いを感じる。なかなか顔を出さない左団次さんの定正が待たせるだけに大きさを見せた。尾上右近さんの薄いピンク系の口紅に伏姫の儚さがあった。近頃お化粧研究している。

相変わらず個性的な演技を発揮される役者さんも揃い、房総、武蔵、古河、行徳、など関東一円の場所設定も楽しい。

本の『南総里見八犬伝』では、京都にいた六代将軍足利義教(よしのり)と関東管領としてして鎌倉にいた足利持氏(もちうじ)との間が不和となって合戦となり、持氏は将軍方ついたいた家来の上杉憲実(のりざね)にせめられ、鎌倉の報国寺で詰腹を切らされた」とあり、あの報国寺(竹の寺)でと興味をそそったが、深みにはまるのは避けることとする。

 

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