歌舞伎座5月『慶安太平記』『蛇柳』『め組の喧嘩』

『慶安太平記』は、<丸橋忠弥>で呼ばれる事が多い。徳川家綱の時代の油井正雪が幕府転覆を企てた慶安の変に加担した丸橋忠弥をモデルとした芝居である。

四代家綱の時代は大名などの取り潰しから浪人も多く、その不満を力として軍学者である油井正雪が駿府で、丸橋忠弥が江戸で蜂起することになっていた。その蜂起前の忠弥の様子と、妻の父に訴人され捕えられるところまでである。

お濠の前で中間が屋台酒を飲んでいて、茶碗酒のお変わりに一杯ではなく、茶碗に半分、半分と追加してもよく、そのほうが割安なのだそうである。そんな面白い会話も聴けた。忠弥は酒好きで、花道の出からしたたか酔っている。そこで、自分がどれだけの酒を飲んでるかがセリフとなっている。あちらで何合こちらで何合というので計算しようとしたが、判らなくなった。最後のほうに三升とあったので、三升以上は飲んでいるということであろう。忠弥の松緑さんの酔い具合が好い。堀に石を投げて堀の深さを測るのも悟られない酔っ払いの酔いに任せた不可解の行動である。

ここまでしているのに、なんで簡単に義父に計画を話すのかが納得できなかった。義父の団蔵さんとの間に打ち明けるに必要な緊迫感が無かったのである。この程度で話してしまうのかと不満であった。立ち回りは謀反人であるから壮絶さがあるであろうと予想したが、工夫された立ち回りでその通りとなったが、槍の名手ということであろうか、前の鴨居を持っての立ち回りはダレてしまった。あの部分はもう少し短くしたほうが、事敗れた忠弥に寄り添えたと思う。緩急にづれがあった。

『蛇柳』も同様にづれてしまった。期待していたのであるが、よく理解できなかった。内容は理解できなくても、色彩的に美しい舞台とか、音と動きに迫力があるとか、霊気が感じられるとか、何かを感じたかったがうーんという感じで、最後に海老蔵さんが、押し戻しで出てきた時、ぱっと明るくなり、さすが時代を通過してきた色彩美であると安堵した。<蛇>と<柳>。何か工夫が欲しかった。

『神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)』。通称『め組の喧嘩』である。これだけの若い役者さんの揃う『め組の喧嘩』は初めてである。皆さん、自分が一番格好いいだろうとばかりにイナセであり色気もでてきた。江戸の町火消が人気があったのが解かる。取的も負けてはいない。力士と鳶の意地を張っての喧嘩を描いたたわいない芝居であるが、江戸の風俗たっぷりの愛嬌のある演目である。

『幡随院長兵衛』の夫婦の別れと違って、め組辰五郎の菊五郎さんを女房お仲の時蔵さんが、なんで仕返しにいかないのかとけしかけるのが伝法である。芝居小屋前では大きな声が上がると何かあったのではないかと若い者の心配をしつつ、ここぞとなれば、頭の女房の腹である。力士側の左團次さん又五郎さんも大きく、梅玉さん、彦三郎さんの押さえも効き、団蔵さん、権十郎さんも熟練役者としての形を見せる。実際に血気盛んな若手の前で菊五郎さんは立ちはだかりしっかり舞台を締められ、<め組の大喧嘩>となった。

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