映画『赤い夕陽の渡り鳥』『黒い椿』

浄土平ビジターセンターで紹介されていたのが、小林旭さん主演の日活<渡り鳥シリーズ>の『赤い夕陽の渡り鳥』である。

浄土平を中間点とする磐梯吾妻スカイラインは、1959年(昭和34年)に開通し、映画『赤い夕陽の渡り鳥』は1960年7月封切である。磐梯吾妻スカイラインは、11月中旬には雪のため翌年の4月中旬まで封鎖となるので、この映画が磐梯吾妻スカイラインの宣伝に大きな役割を果たしたことになる。

クランクインが1960年5月31日、クランクアップが6月25日であるから一か月弱で撮った映画ということになる。映画の内容は、新しいバス道路が計画され、そこに温泉の元湯があり、その所有権を悪徳業者が狙っているのである。バス道路は地域の人のためであるが、悪徳業者に温泉の権利を渡すわけには行かないと所有者と悪徳業者の対立となる。当然所有者は善で、そちらには美しい若き女性が頑張っていて、その女性を助ける流れ者のナイトが現れるのである。このお二人が<渡り鳥シリーズ>のコンビ、小林旭さんと浅丘ルリ子さんである。

最初と最後に、吾妻小富士と磐梯吾妻スカイラインの映像がドーンと映る。監督は斎藤武一さんで、助監督に神代辰巳さんの名がある。このシリーズは映画『南国土佐を後にして』の好評からシリーズ化され、小林明さんの歌も登場する。主題歌「赤い夕陽の渡り鳥」、「アキラの会津磐梯山」。井上ひろしさんが「煙草が二箱消えちゃった」を歌う。「アキラの会津磐梯山」の歌が楽しい。小原庄助どんはでっかいことが好きで、朝寝朝酒酒樽あけて、あけた酒樽櫓に積んで、会津磐梯山と背比べをするのである。

ロケはどこで行われたかはっきりしないが、湖から磐梯山を望んだ映像もある。磐梯吾妻には、吾妻小富士の浄土平を中心とする、磐梯吾妻スカイライン、磐梯山を望む磐梯ゴールドライン、檜原湖や秋元湖をに向かう磐梯吾妻レークラインとかつて有料だった道路が三つある。2013年から無料となった。三つのラインがあるのを今回知った。恐らくはまだ出来てはいなかった磐梯吾妻レークラインのあたりの風景や道も多く使われたのではなかろうか。撮影は川島雄三監督と組んでいた高村倉太郎さんである。

小林旭さんと宍戸錠さんがトランプでの対決で、手品のような手の動きだけを交互に映すテンポ。小林明さんの格闘シーンのスピード感や、バックの斜めに入る空と山肌の稜線など筋よりそちらの方に目がいく。宍戸錠さんのスーツの着こなしが格好よく、主人公を助けたり邪魔したりと気ままに動く。浅丘ルリ子さんはあくまで愛らしく清楚である。

最初からツッコミ部分もあって、男の子が道から転げ落ちたらしく崖下で泣き声がする。その子を助けるため主人公・滝伸次は格好良く駆け降りるのであるが、ダメダメそんなに勢いよく下りては一緒に石も転がってしまい、少年にあたるかも。助けられて主人公と馬で自宅に届けられるが、あそこまで少年はどうやって行ったの。遠すぎる。

どの映画の時かわからないが、小林旭さんはスタントマンのかたが怪我をして見舞いに行ったら痛い痛いの声が聞こえそれからは、スタントマンをほとんど使わなかったそうである。

吾妻連峰、安達太良山、磐梯山と山あり、湖あり、沼あり、温泉ありの観光地へ主人公がギターを友に馬にまたがって流れ着くという破天荒な映画が、雄大な自然を上手く使い可能にした映画である。赤い夕陽の美しい自然の映像もある。磐梯の紅葉はこれから美しい時期をむかえる。この風景の中で旭さんの高い声が響くと赤さが増しそうである。

『黒い椿』は東映の時代劇映画。大川橋蔵さんの若さまが保養で伊豆大島に来たところ殺人事件が起こりその事件を解決するのである。<若さま侍捕り物帖シリーズ>の第九作である。監督は沢島忠さんである。殺人の疑わしき容疑者が多く、最後の最期に謎が解けるという内容で、見ているほうもそこまで引っ張られる。それと、疑わしくなるような、出演者の突然の怖い顔のアップがあって、結構混乱させられる。

若さまの大川橋蔵さんと島の娘・お君ちゃんの丘さとみさんが、出会うのが三原山の火口である。こちらも、大島ロケたっぷりの映画であるが、若さまの大立ち廻りはなく、思索する若さまである。お君ちゃんのお母さんが、江戸から来た侍と恋仲となり侍は江戸に帰ってしまい、お母さんはお君ちゃんを産むが侍はもどって来ず、三原山の火口に飛び込んでしまう。そんなお君ちゃんを若さまは何かと励ますが、大島を仕切る強欲な網元ととの関係など、お君ちゃんとお君ちゃんのお爺ちゃんは苦しい立場に追い込まれる。殺されたのが網元であるから、益々、お爺ちゃんとお君ちゃんは窮地に。若さまは救うことができるのか。

お君ちゃんの恋人役が坂東吉弥さんで、お君ちゃんがお母さんのことから島民から奇異の眼で見られていて、その状況を打破して結婚するだけの覇気がない。若い頃の吉弥さんを見ることが出来た。

若さまは<椿亭>に泊まっていて、そこの女主人お園・青山京子さん(小林明さんの奥様ですね。偶然です。)がお客あしらいがなかなか上手である。番頭・田中春夫さんは、真面目でそこへ、怪しげな兄が密航してくる。油商人の新三・山形勲さんも怪しい。そして、鎮西八郎為朝の子孫という名主の千秋実さんが御用の役目も仰せつかっていているが混乱させるだけである。そんなこんなで混線しているが、若さまはきちんと犯人をみつける。

溶岩流が冷えて固まったごつごつした柱、岩の切り立つ海岸や美しい波打ち際、さらに、地層がずれてむき出しになった美しい断層の断面の壁は大島ならではの風景で映画の中でも映し出されている。椿の咲き誇る道はセットであろう。

いつもの明るい役とは違い嘆き通しの丘さとみさん。橋蔵さんの笑顔と青木京子さんの艶やかさがないと暗いだけの映画になってしまう。若さまと御神火様は、お君ちゃんとお爺ちゃんを守ってくれる。大島の自然たっぷりの映画である。

『黒い椿』は1961年(昭和36年)公開で、『赤い夕陽の渡り鳥』の一年あとである。まだまだ映画が娯楽の中心の時代であろう。

伊豆大島 (三原山)  伊豆大島 (椿)

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