「芸人たちの芸能史」(永六輔著)

黒柳徹子さんのエッセイをもとにした『トットてれび』(NHK)という番組を楽しみにして見ていた。途中から見はじめたのではあるが、『夢であいましょう』の生の収録の様子などはみることができた。

リアルタイムで『夢であいましょう』を見ていたころはタイトルの出だしから、今日はどんな工夫なのであろうかと毎回楽しみであった。今日は渥美清さんの名前があるから中島弘子さん絶対笑わせられるななどと終わりに期待し、坂本スミ子さんが出てくると大人の女性を感じ、黒柳さんの変身に笑い、ジャニーズの踊りを楽しみにし、気に入った今月の歌が終わるのが残念であったり、時には今日は退屈だったと気乗りしないときもあったりの30分であった。

その番組の裏の様子がテンポよく伝えられ、黒柳さんと向田邦子さん、渥美清さん、森繁久弥さん等とのあいだがらも、ほどよい距離感で伝えてくれた。

そのテレビの創成期に欠かせないかたである、永六輔さんが亡くなられた。病気でありながら仕事を続けられラジオをやめられたときは、身体的にかなり負担な状態になられたのであろうかと残念であった。

放送作家であり、作詞家であり、様々な芸能を紹介し、旅で出会った人々の生活の様子を伝えたり、本もたくさん出されていたりと、自分の想いを様々なエッセンスを加味して伝えられたかたである。

本の一冊に『芸人たちの芸能史 河原乞食から人間国宝まで』がある。大宅壮一さん監修の<ドキュメント=近代の顔2>となっている。47年ほど前に書かれたものである。

この本での芸能史は、永さんならではの構成である。芸能史の研究家ではないので独断と偏見にみちているが、芸能を差別することはしないし、区別もしたくないとしている。

「第19回NHK紅白歌合戦」の進行状態を軸に、あらゆる芸の話がでてくる。相撲、野球、プロレスのスポーツからバレエ、落語、漫才、奇術、ボードビリアン、浪曲、活弁、新派、新劇、新国劇、宝塚、前進座、歌舞伎、色物、民謡、歌謡曲ら、出演歌手の流れにそって色々な芸や芸人さんの話に飛んでいく。歌詞の関係からだったり、歌い手の歌い方の根底にある他の芸との関係からの流れなどたしかに独断ではあるが、それだけに面白い。

この紅白の行われたのが東京宝塚劇場である。そこから掛け小屋、日本最初の様式舞台新富座の話になり唐十郎さんの状況劇場のことへと流れていく。

ダンサーが出て踊れば、新舞踏家の石井漠さんが出てき、桂小南さんの電気踊りの話となり、桂文楽さんが前座時代師匠の着物に電球を仕込む手伝いをしたという話となる。

江利チエミさんが八木節をうたう。そこから東京音頭の話となり、ロサンゼルスでチャプリンが先頭で踊っている写真を見たとあり、チャプリンさんの好奇心におどろく。

興行師との関係、戦争時代の芸人等あふれる知を、紅白歌合戦の現場と合体させ、言いたいことはきちんと主張する。

襲名というのは珍奇な行事であるが、芸人が変身してしまうという事実がある限りあらゆる批判を耐え抜いていくであろうとしていている。こちらも襲名の多さにまたかと思ってしまうが、そのあとの変身、化けるという楽しみがあるから許せるのである。そして、若くして大きな名前を襲名すると、その重みに悪戦苦闘する芸人さんの姿も観させてもらうこととなる。それはそれで芸人さんたちにとっては苦しい息切れするような道である。

永さんはさらに、「僕たちは芸の血筋を楽しむと共にそれに挑戦する芸人達を大切にしていきたいものである。」と血筋をもたない芸人を拒否したり差別してはならないとする。

芸能史を通じて、伝統芸能のほかにも素晴らしい芸能はあるわけで、自分が観なければならないもの、受けつがなければいけないものは自分で訪ねていって観て伝えるというポリシーを表明され、その通り実行され続けた。

ご自分自身をも差別したり区別されたりしなかった。病気になられ、動くこともしゃべることも不自由になられたが、それをさらけだし、現場に執着され自分の目で観ることを貫き通されたのである。そして、苦しいときこそ笑いが必要であるとした。これは難しいことである。映像の映し方によっては、そんなに大変な状況ではないじゃないと感じられてしまい誤解されたりもする。じっくり伝えたいということでテレビではなくラジオを大切にされたともいえる。

この本のあとがきに次ぎの文がある。

「僕が観なければいけないもの、受けつがなければいけないものを訪ねて歩きたい。そうすれば、この次にこうした本を書くにも浅い知識の上の独断と偏見に頼らずにすむ。」

これが<浅い知識>なら、それこそ<浅い知識>にたいする独断と偏見である。

 

合掌。

 

「第十九回紅白歌合戦」(1968年)

紅組司会・水前寺清子/白組司会・坂本九/総合司会・宮田輝

(紅組) 都はるみ、佐良直美、ペギー葉山、小川知子、ピンキーとキラーズ、ザ・ピーナツ、三沢あけみ、伊東ゆかり、西田佐知子、九重祐三子、中尾ミエ、島倉千代子、江利チエミ、青江三奈、中村晃子、園まり、岸洋子、梓みちよ、扇ひろ子、越路吹雪、水前寺清子、黛ジュン、美空ひばり

(白組) 三田明、布施明、千昌夫、ロス・プリモス、ブルー・コメッツ、西郷輝彦、フランク・永井、東京ロマンチカ、水原弘、菅原洋一、ダーク・ダックス、三波春夫、北島三郎、アイ・ジョージ、美川憲一、舟木一夫、春日八郎、デューク・エイセス、村田英雄、バーブ・佐竹、坂本九、森進一、橋幸夫

 

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