茅ヶ崎散策(2)

鎌倉で思い出しました。夏目漱石さんが円覚寺で参禅しましたが、そのときのことは『門』に書かれていて、『門』にでてくる釈宜道が釈宗活さんのことで、宗助は宜道さんあての紹介状をもって寺を訪れ、宜道さんによって老師とお会いします。らいてうさんはこの宗活さんのもとで「見性(けんしょう)」といわれる悟りの一つに到達しています。不思議なつながりです。森田草平さんとのことでは、らいてうさんは漱石さんを快くおもっていなかったようです。  東慶寺の水月観音菩薩

さて二回目の茅ヶ崎散策には、「開高健記念館」をいれ、そこから海岸にでて適当なところで高砂緑地に向かい、市立美術館へもより駅にむかうコースを考えました。

「開高健記念館」は開館日が週3日ほどでバスを使うことにしましたが、開高健記念館前には停まらないバスに乗車したので、一番近いバス停を降りる時に運転手さんが道を教えてくれ助かりました。

開高健さんならではの言葉の石碑やモニュメントがあります。「入ってきて人生と叫び出ていって死と叫ぶ」「明日世界が滅びるとしても今日あなたはリンゴの木を植える」

可笑しかったのは家のサンルームから外にでて玄関のほうへ降りてゆく階段があるのですが、その階段の石が、火口から飛んで来てそのままの石というようなごつごつした石で、足元が危なっかしくあえて危険につくってあるようで、これは下駄で呑気に降りれない石段だと思わず開高健さんの怪しげな笑い顔を思い浮かべました。「遠い道をゆっくりとけれどやすまずに歩いていく人がある」

書斎から見える庭には越前スイセンがあります。ベトナム戦争の取材を終えた冬、越前岬の深い雪のなかで、灯の様に咲く越前スイセンに強い感銘を受けたのがこの花との出会いのようです。

柳原良平さんのイラストと開高健さんのキャッチコピーのトリスウイスキーの広告も多数展示されていますが狭いのがちょっと残念でした。映像の笑っていながら眼が笑っていないところが、開高さんの見て来た深淵を覗きみるようでしたが、つりのときが一番幸せな表情です。

お隣が「茅ヶ崎ゆかりの人物館」になっていて、茅ケ崎ゆかりの土井隆雄さん、山本昌さん、加山雄三さん、桑田佳祐さんなどの関連するものが展示されていました。新しくて明るくて、休憩室に茅ヶ崎関連のコミュニティ雑誌もあり閲覧させてもらいました。

面白いのを見つけました。小津安二郎監督の甥御さんが撮影を見に行った時の文で、見ているとをお風呂を沸かしていて、気に入った湯気がでず何回も同じことをやっていてあきてしまったというのです。これには笑ってしまいました。小津監督が俳優さんだけではなく湯気とも格闘していたのです。

森田芳光監督も茅ヶ崎出身でした。函館を舞台にした映画を4本も撮られているので、海の近くに親近感があるのかもしれませんが、湘南の海とは違うなあとおもわれたかもしれません。でも湘南の森田監督の映画はまだみていません。あるのでしょうか。漱石さんの『それから』を期待せずにみたところ、松田優作さんが思いがけずはまっていて驚いたことがあります。

気持ちのよい時間のあと、係りのかたと少し話しをしましたら、小津監督の定宿がまだ営業しているということで、このまま海に出て海岸線を歩き、サザンビーチのモニュメントのあるあたりから駅に向かう途中であることを教えてもらいました。小津さんのことは調べていなかったので朗報でした。

海にでたところその砂山の感じに、映画『長屋紳士録』の飯田蝶子さんと少年がおにぎりを食べる場面を思い出し、きっとここの海岸線で撮ったのだろうと確信しました。この砂浜の山の感じなのです。ここと決めました。八木重吉さんの「あの浪の音はいいなあ 浜へ行きたいなあ」 の浜でもあります。  映画『長屋紳士録』と『日本の悲劇』

サザンビーチのCのモニュメントを背に国道にでて、途中昼食をとり、小津監督の定宿「茅ヶ崎館」に向かいます。この宿は、南湖院の国木田独歩さんを見舞った田山花袋さんなども滞在し、なんといっても小津監督の『東京物語』などの映画作品のうまれた場所です。宿は民家の住宅街にこじんまりとはまりこんで暖簾が静かにゆれていました。ここから浜へも散策にもいかれたのでしょう。

最後は再び、高砂緑地から市立美術館へ。今回は開館していることを調べてありました。

青山義雄展 「この男は色彩を持っている ーマティスが認めた日本人画家ー没後20年」

初めて目にする画家でした。残念ながらこの人だけの色というのがわかりませんでした。歩き疲れた者にとってはじーっと見つめるというよりも、ふわっとながめる感じの絵でした。

茅ヶ崎関係の本が展示されていて、長谷川時雨さんの『近代美人伝(上)』がありました。貞奴さんのところだけでも読んでくださいとありました。ほかの本もながめ読まずにきましたが、今思えば読んでくればよかったとおもっています。いずれ手にしましょう。いずれが多すぎますが。

森まゆみさんの『断髪のモダンガール』に<読書案内>があり、数えますと88あります。(上)(下)とか全集もありますから何冊になることでしょう。

菱沼海岸からサザンビーチを歩いたわけですが、東方面の鵠沼(くげぬま)海岸あたりも歩いてみたいと思っています。

茅ヶ崎は芸能の街で、壮士演歌手の添田唖然坊さんが住んで居たり、友田恭助さんと土方与志さんが子供芝居「南湖座」をはじめたりもしています。イサムノグチさんも小学校時代ここで過ごしていました。なかなか盛りだくさんの散策となりました。

 

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