11月23日 法真寺 『一葉忌』(1)

本郷の樋口一葉さんが利用されたという質屋伊勢屋さんを検索していたら、11月23日文京区本郷の法真寺で<一葉忌>があるというので散策がてら行ってみることにしました。

本郷通りをはさんで東大赤門の向かいの路地奥に法真寺があり、<一葉忌>と書かれた幕が入り口にありました。赤門前は「加賀鳶」で、道玄と捕り手との立ち廻りの場でもありますが、本郷通りに面していて立ち廻りのできるような空間がありません。

ところが、かつてはこの赤門は15メートルほど奥にあったのだそうです。これは地元の郷土史家のかたから受けた説明です。黙阿弥さんは空間のある赤門前をみていたわけです。

お昼過ぎに法真寺に着き、法要や幸田弘子さんによる朗読は午前中に終わられたようです。地元のかたからおしるこをご馳走になりました。一葉さんも、恋心をいだいたとされる半井桃水(なからいとうすい)さん手作りのおしるこをご馳走になっています。

行く前に知ったのですが、法真寺の隣に一葉さんは4歳から9歳まで住んで居て、一番心穏やかに過ごせた時期で、法真寺の腰ころも観音のことが小説『ゆく雲』に書かれているということなので作品を読んでみました。

出だしに「酒折(さかおり)の宮、山梨の岡、塩山、・・・・」と書かれてあって、<酒折の宮>は、甲府善光寺御開帳のとき、JR中央線の酒折駅で降りて、この神社に寄ってから甲府善光寺に行きましたので親近感がわきました。

小説の内容は、一葉さんの両親の出身地と同じ「甲府から五里の大藤村の中萩原」出身の青年・桂次がそこの造り酒屋に養子となります。養子先の娘と許嫁の中なのですが、東京に出てきていて、養子先の親戚に下宿しています。そこの娘のぬいは、実母が亡くなって継母という境遇で、父にも継母にも遠慮して波風の立たないように暮らしており、ぬいに恋心を持つのですが、養子先から早く結婚して跡を継いでくれとの催促で、帰ればもう隣のお寺の観音さまも見納めと思うと名残惜しいきもちとなるのです。

その観音様の様子が「上杉の隣家は何宗かのお寺さまにて寺内広々と桃桜いろいろ植わたしたれば、こちらの二階より見おろすには雲はたなびく天上界に似て、腰ごろも観音さま濡れ仏にておわします。御肩のあたり、膝のあたり、はらはらと花散りこぼれて・・・」と書かれています。

この観音さまを一葉さんも二階から眺めていたのです。一葉さんは、この住んでいた家を<桜木の宿>と呼びました。

小説のほうですが、桂次は婚約者がいやで、ぬいに自分の気持ちを打ち明けますがぬいはどうなるものでもないと感情をあらわしません。桂次はしぶしぶ田舎に帰りぬいに手紙をかきますが、そのうち時間がたつと年始と暑中見舞いの挨拶のみとなります。

「隣の寺の観音樣御手を膝に柔和の御相これも笑めるが如く、若いさかりの熱といふ物にあはれみ給へば」と観音さまはみているとして、ぬいは相変わらず父と母と自分の関係にこれ以上ほこびがはいらないようにと努力しているのでした。

残念ながら、桂次にはぬいを幸せにできる力がなかったのです。本堂の左手に観音さまは今も穏やかなお顔をして座っておられます。

一葉さんを忍ぶために、献花してお線香をあげる場所がありましたのでそこで先ず手をあわせました。

本堂の阿弥陀さまの前に一葉さんの写真が飾られ、和太鼓の演奏がありました。本堂の右側はステンドグラス風で光が入るようになっており、椅子が教会のような木の長椅子でした。<桜木の宿>の倉庫のなかで一葉さんは英雄豪傑伝や任侠義人の本をよんでいたそうですので、若い和太鼓奏者の打つ勇ましい太鼓の響きに喜ばれたのではないでしょうか。

そのあと文京一葉会の郷土史家のかたの説明つき一葉さんゆかりの散策に参加です。法真寺から始まって、菊坂住居跡から白山通りの一葉終焉の地まででしたが、途中公開していた旧伊勢屋質店で失礼させてもらいました。何回か来ていますが、写真や地図などを使っての詳しいお話でかつての街の様子も想像できて楽しかったです。

帰りに古本屋さんがあってチラッとのぞいたところ、『こんにちわ一葉さん』(森まゆに著)に遭遇。本当に「こんにちわ」と声をかけたくなるように一葉さんの日記と作品から一葉像を浮かび上がらせてくれ、『加賀鳶』から一葉忌につながるとは赤門の力はやはり凄いということでしょうか。

本郷菊坂散策 (1)

本郷菊坂散策 (2)

映画『日本橋』と本郷菊坂散策 (3)

上記の散策が今回は一葉さん中心で一本の道となりました。東大赤門近くの本郷には勉学と世に出ることを求めて、あるいは世に出た人を頼って人々が集まってきていたわけです。

4歳から9歳の時に本郷6丁目東大赤門前法真寺隣の桜木の宿 → (この間7回ほど引っ越しています) → 18歳の時に菊坂に → (吉原の裏の下谷竜泉寺町に) → 22歳の時に本郷円山福山町に(ここで亡くなります)

 

上記地図の赤枠が「東大赤門」、ピンク枠が「桜木の宿」、青枠が「法真寺」。

東大赤門

腰ころも観音

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