歌舞伎座『二人椀久』『京鹿子娘五人道成寺』の二回目

参りました。良い意味でこんなに変わってしまうのかと。

先ず席に座り、あれっ!と思ったのが緞帳です。緞帳に<LIXIL>とあり、私が京橋のギャラリーで見た和紙展はこの「LIXILギャラリー」だったのです。

舞い扇も和紙からできています。紙は折ると折り目がついて閉じたり開いたりします。布は折っただけでは折り目がつきません。

一度目の『二人椀久』のとき、花道での舞い扇が無地の裏表色違いに見えたのですが、椀久と松山のときは金の三日月のような絵が入っていて、二人でその扇を眺めるのですが、扇に月夜が映っているような感じで、これは椀久が木に隠れたときに取り変えたのか、それとも、花道での扇を私が見誤ったのか、二回目はしっかり見定めようと思って見ましたら、前回と扇が違っていました。銀をちりばめたような模様が入っていて、今回はそれに合った雰囲気でした。

勘九郎さんの椀久には涙ぐんでしまいました。椀久は全く他の人が入れない世界の中にいました。前回もそれはありましたが、その非じゃありませんでした。自分だけの世界のなかで動きにまかせて自分のリズムで踊りつつ漂っているのです。

松山が出てくるのは決まり事でわかっています。今回は椀久に呼ばれて松山が出現するのだという事を教えられました。椀久に松山を出現させる力があったということです。椀久に呼ぶ力がなければ松山は出て来ないのです。言い方を変えれば踊り手に力がなければ松山は出てこないのです。

玉三郎さんの松山が静かにゆったりと現れました。それが当たり前のように。当たり前じゃないんですが当たり前であるということが大事なんです。上手く云えませんがそこは感じるしかないです。勘九郎さんが感じさせてくれたのですが。

そして二人だけの世界の中で、時には軽やかに楽しそうに踊ります。前回は、ちょっと待って、この踊りこんなに暗かったかなあと半信半疑だったのですが、そうですこの感じですとやっと、勘九郎さんと玉三郎さんの『二人椀久』として味わうことが出来ました。時間が経過すれば変わるとは思いましたが、こんなに満足でき堪能でき愉しめる世界になっているとは。やはり日を置いて二回観るにしておいて良かったです。

そして扇を二人で眺めつつ、玉三郎さんが、花びらを扇からつまんで飛ばすような仕草があり、扇の柄と関係しているのかなとも思いました。

現仁左衛門さんが襲名のおり<仁左衛門展>がありまして私が見ている時お弟子さんでしょうか、『二人椀久』の扇を今はこれではないのでと取り換えにこられたことがあります。「早く気がついてよかった」と安堵されていて、やはり踊っていかれるうちに踊りの世界と合うものを選ばれていくのかなと思ったことがありました。

書いていると、前回観た『二人椀久』も捨てがたくなります。こうやって、組む方によってその踊りの世界ができ上っていくのかと前回の踊りも、何かいとおしくなります。でもそれは、より作り上げられていく世界が上を目指しているからでしょう。

これが、玉三郎さんの若い役者さんや芸能者の育て方です。自分が愉しんで踊れたり演じたりできる世界まで引っ張て行き、その世界でゆうゆうと愉しんで踊られるのです。

松山を出現させた椀久、松山を愉しませることができたのか。勘九郎さん前回より松山を受け入れる態勢十分です。並んで背中合わせに座り、お互いの手が並びます。あの手重なるのであろうかと視ていましたら、お互いの肩と背が押し合いをしてそして手が重なりました。

ここは手が重なるところですから、ではないんです。お互いの心の流れがなす所作なんです。参った、参ったです。20日弱でこの世界になるのかと、椀久に連れられていった幻の世界でした。長唄もやはり素晴らしい。踊りと一体でした。

京鹿子娘五人道成寺』は、それぞれの持ち場が明らかになり、一人での『京鹿子娘道成寺』の踊りと重なって整理されあそこは、誰と誰が組んで、ここは玉三郎さんがということが浮かんできます。女子会はもちろん楽しかったですが、それぞれの踊りの輪郭がはっきりしてより立体感のある道成寺になっていました。

花道の出は七之助さんで花道のスッポンから勘九郎さんが出て二人で踊り、勘九郎さんが消えて七之助さんが所化との問答へ。所化の亀三郎さん、萬太郎さん、橘太郎さん、吉之丞さん、弘太郎さん等が声もさわやかに白拍子花子の美しさを楽しんでいました。

烏帽子を受けとり、そこからは玉三郎さんです。烏帽子も和紙で出来ているのではないでしょうか。赤の衣装から薄桃色の衣装に引き抜きされて、本舞台が玉三郎さん、勘九郎さん、七之助さんで花道に梅枝さんと児太郎さんと。児太郎さん、国立劇場との掛け持ちでした。

勘九郎さん・七之助さんと梅枝さん・児太郎さんが本舞台と花道の位置を取り換えます。そのあたりもさらさらと動かれて交替して綺麗です。

花笠踊りは児太郎さんで花笠も和紙なのではないでしょうか。恋の手習は玉三郎さんで、あの手ぬぐいの材質は何なのでしょうか。柔らかさからすると綿ではないでしょう。そんなことも気になりました。手ぬぐいの扱いが優しく美しく色っぽく品があり千変万化で、玉三郎さんにあやつられる幸せな手ぬぐいです。

羯鼓(かっこ)は息のあった勘九郎さんと七之助さん。そして、紺と紫の混ざったような衣装の梅枝さんが雰囲気を替え、引き抜きで白地になり、五人の鈴太鼓。前回はここが印象的だったのですが、それぞれ踊り込んできたからでしょう、そこまでの踊りにきちんと起伏が残り、やりましたねと語り勢いを付けつつ、さあー最後の仕上げにいきましょうかと暗黙の了解という感じで鐘入りに向かいます。女子会美しくて恐ーい。

鐘の上は、玉三郎さんと勘九郎さん、下の段差に七之助さん、梅枝さん、児太郎さんでした。ずっと愉しくて指で拍子をとりつつ観ていました。

休憩時間に久しぶりで舞台写真を見にいきましたが、皆さんいい表情をされていました。記念に玉三郎さんを真ん中に鈴太鼓を持って座っている微笑ましい娘五人の写真を購入してきました。

これで、勘九郎さんの椀久、玉三郎さんの松山、玉三郎さん・勘九郎さん・七之助さん・梅枝さん・児太郎さんの白拍子花子しっかり記憶の一ページに納めました。

頭の中で『京鹿子娘道成寺』の音楽と映像が断片的に回っています。

 

 

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