歌舞伎座  猿若祭二月大歌舞伎 昼の部 

今月は、「猿若祭二月大歌舞伎」ということで、京で評判をとった歌舞伎踊りが江戸にきて江戸歌舞伎390年ということらしいです。

猿若江戸の初櫓』は、出雲の阿国と猿若が江戸にやってきて、江戸の地で猿若座の櫓をあげることができた経過を、田中青滋さんが、浅草で中村座の櫓をあげた初世中村勘三郎を主人公として創作した長唄舞踊です。その初演が江戸歌舞伎360年の1987年歌舞伎座で、今年はそこからさらに30年が経過して江戸歌舞伎390年となるわけです。

出雲の阿国(七之助)と猿若(勘九郎)が江戸に出てきます。そこで、将軍への献上品が狼藉者により立ち往生しているのと出会います。献上者である材木商の福富屋(鴈治郎)が困っているのを助け、猿若は若衆たちに献上品を運ばせます。それを奉行の板倉勝重(彌十郎)が知って、猿若たちの芝居小屋の櫓あげを許可するのでした。

そこまでを軽快に話が進み、お礼の踊りを明るく艶やかに勘九郎さん、七之助さん、若衆の児太郎さん、橋之助さん、福之助さん、吉之丞さん、鶴松さんが踊ります。猿若祭に相応しい、江戸時代の旧正月をも兼ねたような華やかな舞台です。

大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)』は、初めて観る芝居で、頼朝の旗揚げを軸にしていて、文覚も出て来て、さらに長唄『黒髪』が劇中にでてくるという興味深いお芝居です。ところが、どういうわけか、この『黒髪』の部分だけ不覚にも瞼が閉じられていました。というわけで、観なくては話しになりませんので、一幕見で見直しました。

寺子屋であるが、手習いしているのは若き娘ばかりです。ここは伊豆下田の正木幸左衛門(松緑)の寺子屋です。そこへ若い娘・おます(七之助)が姉(児太郎)に連れられて寺子屋入りしようとやってきますが、幸左衛門の女房・おふじ(時蔵)に追い返されてしまいます。

姉妹は途中で帰宅する幸左衛門に会い、幸左衛門は藪の中の小屋で待っているようにと告げます。この幸左衛門女好きで、寺子屋の娘たちに筆の手習いか、色事の手習いかわからない状態で女房のおふじはやきもきして離縁状を書きますが、一向にに効き目がなく、幸左衛門に丸め込まれてしまいます。

そんなところへ、箱根地獄谷からきたという出家僧・清左衛門(勘九郎)が一夜の宿を求めます。中に通し食事と酒を出すと、おもむろにどくろを出し、これは義朝のどくろでこれに酒を注いで飲んではどうかと持ち掛けますが、幸左衛門は取り合いません。

実は、幸左衛門は頼朝で、清左衛門は文覚上人で、お互いに探り合いをしているのです。そしておますは北條政子で姉は義朝の忠臣の娘・清滝で、暗闇で頼朝に渡す北條家の重宝・三鱗(みつうろこ)を間違って文覚に渡し、自分が政子であることも知らせてしまいます。

次第に情勢は変わっていきます。女房のおふじは、頼朝の命を狙う伊藤祐親の娘の辰姫だったのです。辰姫は父に背き夫頼朝の平家打倒源氏再興の志のため、夫と政子との結婚を許します。ところが、納得していたはずの辰姫は夫と政子の仲に嫉妬の炎を消すことが出来ず、その苦しみを髪を梳きつつ長唄『黒髪』で表現します。ついに嫉妬心は、頼朝に託された三鱗を池に捨てようとしますが、三鱗が手から離れなくなってしまいます。その妄執を文覚が祈り消しさり三鱗を手から放してやります。

幸左衛門に仕えていた下男六助(亀寿)と大家・弥次兵衛(團蔵)は祐親側の家来で頼朝はこれらの人々を倒し、北条時政(勘九郎)を迎え、文覚から平家討伐の院宣も手渡され、目出度く源氏の旗揚げとなるのです。

色好みの幸右衛門の柔らかさと頼朝の武士としての緊張感を松緑さんがおもいのほか大きく変化させ面白さをだされた。姫としての政子の七之助さん、それを補佐する清滝を児太郎さんがこれまた貫禄を出して受け、勘九郎さんは清左衛門と文覚の台詞まわしがよく、北条時政の引き締めた雰囲気がよい感じです。

すべての人が実はとすっきりと変わる中で、時蔵さんがおふじから黒字の着物の辰姫となり荒れ狂う妄執が表出されることによって、人間の一筋縄ではいかない感情が彩りを添え芝居にひねりをいれてくれます。

長唄舞踊『黒髪』の原点がこの作品にあったとは。この作品は江戸庶民文化の円熟期の時代、1760~1800年頃のもので<天明調>といわれるらしい。

四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)』は、伝馬町の牢内の様子がわかり、これを愉しみにされている観客の声をききました。個人的には、観ているので一度観ればよいかなという感じでした。ただ、菊五郎さんが歌舞伎座で富蔵を演じるのは20年ぶりということですので、この年代の方々が中心になって演じることはすぐには無いでしょうから、次の世代がしっかり江戸の風俗のひとつとして継承する大切な機会ともいえます。

黙阿弥さんが、実際にあった江戸城の御金蔵破りを題材として、牢の様子も実際に関係していた人から資料を手にして書かれ、当時の江戸っ子の評判となったようです。

野州無宿の悪党・富蔵(菊五郎)が主筋の浪人藤岡藤十郎(梅玉)さんと会い、江戸城の御金蔵破りの話しを持ちかけ実行し成功します。ところが、ふたりともそれぞれ捕らえられて小伝馬町の牢に別々にいれられてしまいます。富蔵は入った大牢で二番手として勤めますが、磔刑ときまり、囚人たちのお題目におくられて出牢します。藤十郎もまた磔刑のため出牢し、ふたりは顔を合わせるのでした。

御金蔵破りという大盗賊なのですが、御金蔵破りの場面はありませんので、悪の感じの薄い、富蔵と藤十郎の人間性を見せる白波物といった感じです。とにかくこの芝居に出演される役者さんの数が多いのです。一同にこれだけの役者さんが揃うのがみどころともいえます。

扇獅子』は鳶頭の梅玉さんと芸者の雀右衛門さんで艶やかにあっけなく終わってしまいました。

久しぶりの一幕見でした。やはり二回観ると筋が頭の中でしっかりします。

 

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