木のまち鹿沼(1)

栃木県鹿沼市も「木のまち」といえるということを行ってしりました。この町は、版画家の川上澄生(かわかみすみお)さんの市立美術館があることを知っていたのでピンポイントとして押さえていました。

川上澄生さんの作品「初夏の風」は、棟方志功さんが油絵から版画に変更するきっかけとなったという話しもあり興味あるかたでした。さて、調べてみますと、鹿沼市は祭りの<屋台>が展示されている場所があり、かなり山奥らしいですが、天狗で有名らしい<古峯神社>もあるらしく、この三か所を起点に計画しました。

<古峯(こみね)神社>のご朱印は種類が多いらしいのです。その時の書き手によって変わるらしいのです。この日に行きますが行かれますかと誘った友人は予定があり同伴できず残念でした。

鹿沼の町は、JR日光線鹿沼駅と東武日光線新鹿沼駅に挟まれていて、ちょうど中間あたりに見たい場所が集まっています。

JR鹿沼駅から歩いて20分のところに<鹿沼市立川上澄生美術館>があり、明治時代の洋館のような建物で、今回の「身近に楽しむ木版画 ー川上澄生・頒布会とその時代ー」は、洋風の小物などを題材としている作品も多かったのでの入場するのに雰囲気が合っていました。戦後、コレクターや愛好家に版画頒布会を開催した作品が中心です。

洋灯(らんぷ)、グラス、硝子瓶や明治時代の人々をモデルとする作品などが多く、色使いが明かるく、淡さとはっきりした色の調和が好もしい感じです。複雑な彫りを感じさせない単純化されて見えるのも川上さんの作風でもあります。

川上澄生さんは、宇都宮中学校の英語教師になってから本格的に木版画制作を始めています。戦争が始まると軍国主義の風潮を嫌って学校を退職、木の活字を彫ったり、絵本の製作などをします。1994年(昭和19年)の『明治少年懐古』を刊行し、少年時代の思い出を木版の挿絵と文で表現しています。その後、一時は、奥さんの実家の北海道苫小牧中学の教師となり、戦後宇都宮にもどり宇都宮女子高等学校の講師となり、宇都宮を終焉の地としています。

戦後、教え子さんたちが中心となり版画頒布会を組織されたようです。

『明治少年懐古』の文庫本を美術館で見つけました。作家の永井龍男さんが川上澄生さんが自分のことを<へっぽこ先生>と称したの受けて書かれた『へっぽこ先生』のエッセーが最後に載っていました。その中で「私は私を喜ばせ、また楽します絵を作っている」の川上さんの言葉を引用し、<短いが、川上澄生の作品の根本を語るに、これ以上適確な言葉はあるまい。>としていて、まさしくその通りで、少年・川上澄生の感性が素直に楽しめ、その当時の少年を身近に共有でき、ほっとさせてくれる作品です。

「俥屋さん」(人力車に乗る様子)、「へっつい直し」(煮炊きするかまどをなおす人)、「でいでい屋」(雪駄をなおす人)

桶屋さんの仕事、米屋のお米をつく仕事、九段坂の車を後ろから押すため立ちんぼをしている人、銀座で十二カ月分の種類があるお汁粉さん。

郵便屋さんが縁先で一服して一日5里は歩くというはなし。当時家の郵便箱は黒い四角いもので上に三角形の帽子がついていて、流行っていた『ふいとさ節』に「四角四面の郵便箱はね(ふいとさ)恋の取持ち丸くする(よいとふいとさ、おーさ、よいとふいとさ、ふいとさ)というのがあったと書かれています。子供が大人の流行り歌を自然に覚えてしまった時代です。

羽織り袴の小学生が、羽織の紐の先を前で結びくるりと後ろへまわし首にかけたり、袴の下から股引きがみえないようにたくしあげたりと、どんなときにもおしゃれを見つけ出す子供の姿も書かれていて微笑ましいかぎりです。

進む先に暗い時代があろうことなど考えもしない、明るい光を目指す子供の純真な観察眼にもどって書かれた短文は名文で、立、横、斜めの彫刻刀の彫りが心地よい音を伴って木版画を眺めてしまいます。

書き終わって思い出しました。澄生少年は写真屋で写真を撮った記憶で嫌になったのが、「立たされて居る時後から鉄のやっとこのようなもので頭を動かしたり曲げないやうにはさまれることだった。」と書いています。この<鉄のやっとこのようなもの>は、六本木のミッドタウンウエストにある、「フジフィルムスクェア」の写真歴史博物館で展示されていました。博物館といってもフォトサロンと同居した小さな場所ですが、写真をとるためにはかなり長い時間を要したらしく、下から伸びた棒に首をささえる丸い部分がついていました。

これを見ていたので、澄生少年の気持ちがよくわかりました。坂本龍馬さんの立ち姿は、木の台によりかかっている写真で龍馬さんらしく格好つけているなと思いましたが、もしかすると、長時間立ったままでは大変なのでこの姿になったのかもしれないと思った次第です。記憶がよみがえりました。

   鹿沼市立川上澄生美術館

  

木のまち鹿沼(2) | 悠草庵の手習 (suocean.com)

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