歌舞伎座6月歌舞伎『御所桜堀川夜討』『鎌倉三代記』

雀右衛門さんの快進撃です。立役に吉右衛門さん、幸四郎さん、仁左衛門さんをむかえて、しっかりした舞台を展開してくれました。その間に挟まって、猿之助さん松緑さんが健闘され見どころのある芝居を見せてくれました。

御所桜堀川夜討 弁慶上使』は、弁慶が生涯に一度だけ契りをむすんだ女性とおもいがけないところで遭遇し、そのときできた娘を忠義のために身代わりとして殺してしまうのです。

弁慶は、義経の正室・卿の君(平時忠の娘)が懐妊したため、頼朝から首を討つよう命令されていました。おさわは腰元となってつとめる娘・しのぶが犠牲となることを拒みます。その理由が、顔を見ていない父親に会わせるまではという理由でした。ところが、その父親であり夫である弁慶にしのぶは殺されてしまうのです。

弁慶も身代わりになるのが自分の娘とは知らなかったのですが、おさわの娘を守る様子を陰で聴いていて知るのです。弁慶の表と裏の心のうち、おさわの夫が解ってもその手で娘を殺されてしまう悲しさ、喜びと悲嘆が同時に訪れるのです。そのあたりを、吉右衛門さんの荒事風の弁慶と、雀右衛門さんのおさわで、それぞれの気持ちの変化をじっくりとみせてくれます。

竹本に乗った雀右衛門さんの動きから目が離せませんでした。気持ちと動きがしっくりとしていました。

脇を又五郎さん、高麗蔵さんが手堅く押さえられ、米吉さんの娘・腰元しのぶが目が見えなくなって父の顔もわからず、可憐な哀れさが、時代に翻弄される悲しさを際立させました。

鎌倉三代記 絹川村閑居の場』は、三姫の一つ時姫の出てくる作品です。お姫様でありながら、恋に対しては一途で大胆なところがあるのです。そこを、お姫様の様相は崩さずに表現しなくてはならないのです。何をしてもお姫様なのです。

<絹川村閑居>というのは、三浦之助義村の母・長門が病床の身で住んでいるところです。源頼家に仕える三浦之助は味方が劣勢なので母・長門に別れにきますが門前で気を失ってしまいます。

ここに三浦之助の許婚である時姫が長門の看病のため来ていて、倒れている三浦之助をみつけます。時姫の出と、三浦之助を介抱する動きが重要で、かいがいしくもお姫様である品と色香と恋する一途さが、雀右衛門さんは芝雀時代よりも芸道が太くなっています。ここも目が離せませんでした。

ところがこの一途なお姫様は、三浦之助の敵側の北條時政の娘なのです。このお姫様の気持ちは三浦之助と佐々木高綱によって利用されてしまいます。佐々木高綱は『盛綱陣屋』で自分の贋首を息子に自分の首だといわせたあのかたです。

ここでも、自分と似ている百姓・藤三郎を自分の影武者として時政に近づけさせ、時政はそれを見破って、藤三郎と女房・おくるに時姫を連れ戻すようにと命じるのです。高綱は今度は、自分が百姓・藤三郎になりすまし、時姫の前にあらわれますが、時姫は父のもとにはもどらないことを宣言します。

しかし、三浦之助はさらに、自分のことを想うなら父・時政を討てというのです。時姫は承諾します。そこへ藤三郎実は高綱があらわれ、高綱の計略だったことをあかします。可愛そうな時姫。そしてもう一人は藤三郎の女房・おくる(門之助)は百姓であった夫が武士となって死ねたことは誉であるといって自刃します。これまた時代に翻弄される身の処しかたです。

時姫さんはそういうことは考えてはいません。一途ですから、恋の一字しかありません。三浦之助を相手に恋のクドキ。父・時政と三浦之助の間に立っての苦悩のクドキ。それでも、選ぶ道は恋の道で、そこを演じきるのが時姫役者さんなのです。

三浦之助の母・長門もしっかりもので、母のことなど心配する時かと息子とは会わないのです。秀太郎さんが、しっかりこの場は押さえられます。三浦之助も色々な役割があるのですが、手傷をおっていますから、大きな動きをせずに堪えつつ、心の内を隠さなければなりません。松也さんは、美しい若武者の姿、形はいいですが、この難役が身につくにはもう少し時間が必要です。

策略家の高綱の幸四郎さんは、藤三郎になりすまし、実はで高綱の大きさをみせられました。この大きさに見合う、時姫役者として雀右衛門さんは最後まで通されました。

最初に、阿波の局(吉弥)と佐貫の局(宗之介)と富田六郎(桂三)が出て、六郎が捕えた高綱はよく似た百姓・藤三郎で顔に入墨を入れられ侍に取り立てられ時姫を連れ帰るように言われ、自分たちも時姫を連れ帰る役目をおおせつかったことをかたり、高綱と藤三郎の関係を説明するかたちをとっています。

それにしてもややこしい話で、時姫は三姫の一つといわれて観てきましたが、今回やっと筋道がたち、雀右衛門さんの時姫を楽しむことができて良かったです。

北条時政は徳川家康、佐々木高綱は真田幸村、三浦之助義村は木村重成、時姫は千姫をモデルとしているそうです。

 

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