歌舞伎座6月歌舞伎『曽我綉俠御所染』『名月八幡祭』

曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ) 御所五郎蔵』は両花道を使っての、御所五郎蔵と星影土右衛門の出会いがあり、それぞれの子分を加えたつらねがあり男伊達の見せ所でもあります。

この場面は、台詞と立ち姿が良いかどうか試されるところで、御所五郎蔵の仁左衛門さんに並んでの男女蔵さん、歌昇さん、巳之助さん、種之助さん、吉之丞さんがしっかりした子分でした。若手の皆さんも安心して観ていられる姿、形になってきました。星影土右衛門の左團次さんの何かありそうな雰囲気と、臆病な子分たちも好調です。この二組の一発触発のところを収めるのが、甲屋与五郎の歌六さんできっちり収めます。

星影土右衛門の家来のほうが出番と台詞が多いです。それは、御所五郎蔵の女房・皐月の雀右衛門さんが傾城になっており、星影土右衛門が皐月を我が物としようとしているからです。五郎蔵は皐月のことを信頼していて、土右衛門に好きなようにしろと啖呵をきりますが、土右衛門とその家来のいる前で皐月から退き状をつきつれられたのですから逆上してしまいます。皐月を待ち伏せして、間違って主人の惚れている傾城・逢州(米吉)を切り殺してしまうのです。

逢州の身請けのお金を工面するため、心の内を隠しつつ愛想尽かしをする雀右衛門さんと男の顔をつぶされた仁左衛門さんの対比に躍動感があり侠気の華やかさがありました。その間に坐す左團次さんが鷹揚に構えているのが、一層男と女の心情を複雑にしています。

米吉さんも絶対評価では、『弁慶上使』でのしのぶとは違う傾城に変身していましたが、仁左衛門さんの怒りを静める大役なので、相対評価では少し辛い点数となります。点数よりもやれるということほうが幸せなことと思います。

 

名月八幡祭』は、祭りの中を狂って女にだまされた男が復讐する話です。場所は深川で、芸者・美代吉の笑也さんに惚れた、越後から反物の行商にきている真面目で仕事一筋の縮屋新助の松緑さんが美代吉に翻弄されてしまうのです。

新助は仕事を終え越後に帰ろうとしますが、お得意の魚惣の猿弥さんに祭りを見てから帰るべきだと引き留められます。ところが、魚惣は、引き留めるのではなかったと後悔するようことが起きてしまうのです。美代吉は悪い人間ではないがあの女には深入りするなとも忠告していました。

松緑さんは、低姿勢で信用第一にお得意を大事にし、それでいながらしっかり品物を売っている行商人だということがわかり、だまされたと知るや狂気してしまうのももっともだという人物像を上手く表現されました。

美代吉には、ばくち好きの船頭三次という情人の猿之助さんがいます。さらに旗本である藤岡慶十郎の坂東亀蔵さんがいます。この藤岡から国元へ帰るからと手切れ金を百両渡され、新助の女房になると約束した美代吉は、あんな田舎者とわたしがなんでと一時の気まぐれの本性をあらわしてしまうのです。田畑を売った新助には行き場がありません。本気にするとはと軽くあしらう美代吉と三次。

田舎と深川の色町の金銭感覚の違いをあらわした作品でもあり、その辺も伝わってきます。笑也さんには、台詞に深川芸者の男勝りな言葉もでてきますので、もう少し気風の良さと粋さが増して欲しいです。藤岡は、包容力がありさっぱりした旗本で亀蔵さんの台詞もいいので、顔のつくりがもう少し優しさがあってもいいようにおもえました。

猿之助さんの三次は、美代吉からお金の代わりにもらった簪を挿し、遊びにいくところに無頼さの色気がありました。

松緑さんがこういう役にあっているとは思いませんでした。ただ、3月の歌舞伎座での『どんつく』で表情や顔のつくりから違う面がでてくるのかなという感じはありました。そんな松緑さんや猿之助さん、猿弥さん、亀蔵さん、さらには、竹三郎さん、母役の辰緑さんに囲まれ、国立劇場歌舞伎俳優養成所出身の笑也さんが大きな役に挑戦され、芝居としても面白くなったことは、観ているほうとしても嬉しいことです。

 

 

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