歌舞伎座9月『金閣寺』『鬼揃紅葉狩』

  • 御存知、初代中村吉右衛門さんの俳名をとっての「秀山祭」である。一代で中村吉右衛門という名前を世に残されたのであるから、凄いことである。その「秀山祭」が十一回目となるのであるから二代目吉右衛門さんの「秀山祭」にかける意気込みもうかがい知ることができる。役者さんも初役などで大活躍である。

 

  • 金閣寺』。三姫のひとつ雪姫を児太郎さんが初挑戦される。将軍・足利義輝の母・慶寿院尼を福助さんが舞台復帰での出演となり児太郎さんにとっても、嬉しさと緊張の舞台となりこの先忘れられない舞台の一つとなるでしょう。観客も児太郎さんが、雪姫を演じるたびにこの舞台のことを思い描くことになりそうである。

 

  • 慶寿院尼を人質にとり、雪姫に横恋慕するのが松永大膳の松緑さんでこれまた初役である。雪姫の夫・絵師・狩野之介直信が幸四郎さんで、演じられたような気がしていたが初役だそうである小田春永(信長)を見限って大膳の味方になる此下東吉(秀吉)が梅玉さんで胸を貸すかたちである。
  • 面白かったです。児太郎さんの雪姫はお姫さまの可愛らしさというより理知的な雪姫でした。自分がどう行動したらよいかを状況に合わせて判断していく。捕えられている夫・直信の命を助けるため大膳の要求を受けいれることにし、大膳に金閣の天井に龍の絵をかけといわれると手本がないと描けないと拒否。大膳が、ではと所持していた刀を抜くと滝に龍が映る。雪姫はそれが父を殺して奪われた名刀とわかり、父殺しが大膳であることを見抜く。そのことを、殺される夫に知らせるために縛られた縄をほどく方法として、祖父・雪舟が自分の涙で鼠に絵を描いた故事を思い出し、桜の花びらを集めつま先で鼠の絵を描き、絵の鼠が本物の白鼠に変身。鼠は縄を食いちぎり、雪姫は夫のもとに刀を持ってかけ出していく。途中ふっと刀に自分の顔を映して髪をなでつける。大膳の悪に翻弄されつつもひとつひとつ自分の意志で決めていく感じが爽やかである。

 

  • 夫・直信の幸四郎さんも縛られて引き出される出に憂いと品があり、雪姫が夫のために、自分を犠牲にしてもと想うのがうなずける。短い出の人物像の力量がでた。大膳は悪の碁石を沢山持っているような人物で、松緑さん手の内を見せるような見せないようなところがある。ゆうゆうと碁をうち、雪姫に自分の要求を次々と押し付け、さらに此下東吉にも難題を提示しその知恵者ぶりを確かめる。名刀の力で龍の手本を見せ、それによって自分の所業が雪姫に露見しようとそんなことではびくともしないでせせら笑うごとき底なしの悪である。

 

  • その大膳に味方するとみせかけて雪姫を助け、慶寿院尼を救いだす、実は真柴筑前守久吉のあざやかな梅玉さん。慶寿院尼の福助さんは将軍の母という気品と人質でもおそれない凛としていながら、穏やかなセリフでさすがお見事。兄にぴったり寄り添う大膳の弟の坂東亀蔵さん。味方とおもわせて春永側の彌十郎さん。此下家の家臣の橋之助さん、男寅さん、福之助さん、玉太郎さんもきっちりと主人に仕えていた。

 

  • 鬼揃紅葉狩(おにぞろいもみじがり)』。鬼女が美しい姫君に化けて登場し貴人をだまして襲うという解りやすい内容である。ところが姫の侍女たちも鬼女となり、あれっ!侍女たちまでも変身するのとおもった。鬼揃いとある。これは、中村吉右衛門劇団が1960年(昭和35年)に初演されたのだそうである。『紅葉狩』は黙阿弥作とされるが、萩原雪夫作となっている。

 

  • 平惟茂(これもち)が戸隠に紅葉狩りにくる。平家が東国で紅葉狩りとおもったら、この方信濃守で、関東で武勇として知られていたのである。さすが平家の勇者・惟茂の錦之助さん美しくさっそうと登場。従者は隼人さんと廣太郎さん。そこへ更科の前の幸四郎さんがあらわれる。戸隠山の鬼女である。初々しい姫かと思ったら、お化粧のしかたであろう。かなり意志的に罠にはめるぞうの姫の印象である。侍女は、高麗蔵さん、米吉さん、児太郎さん、宗之助さん。宗之介さんがこのところ躍進している。

 

  • 惟茂と従者をお酒と侍女と更科の前の舞で酔わせて眠らそうとする。更科の前の二枚扇もさらさらと、途中鬼女を表す表情も出の印象からすると強く感ぜず、様子をうかがうと予定どおりと去っていく。眠る惟茂たちを起こしに登場するのが、男山八幡の末社の東蔵さんと玉太郎さん。油断するなと舞いで知らせる。山神の印象が強いので少し物足りない。

 

  • そして現れたのが戸隠の鬼女たちである。侍女も鬼女となっているので、立ち回りの組み合わせも派手である。鬼女になる初役の役者さんもいるであろうなと思いつつながめる。最後は、男山八幡の神刀の力によって鬼女は惟茂に退治されるのである。女形の侍女までもが最後まで息を抜けない鬼揃いの形となった。

 

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