気ままに『新版 オグリ』

ヒップホップ文化のもやもや感が少し薄れ、スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』のことが出て来たので気ままに書かせてもらう。

猿之助さんと隼人さんが並んだ『新版 オグリ』のフライヤーを見た時、猿之助さんの鬘は今までのスーパー歌舞伎のイメージから納得できたのであるが、隼人さんのがわからなかった。地味系だなとおもったら、ヒップホップ系であった。舞台にオグリ6人衆が出て来て、玉太郎さんのキャップで、そいうことだったのかとパッと解明したのである。ストリートダンス映画を観ていてどうして気が付かなかったのであろうか。悔しい。

もう一つは、衣裳にフードがついている。これもストリートダンスには多い。さらにヒップホップ文化の誕生当時は、一人がMC、DJ、ブレイクダンス、グラフィティの全てやっていたという。グラフィティなどは、違法の場所にも描くので映画などではフードで顔を隠すためフード付きのパーカーを着ていることが多いのである。

フードを使ってダンスの振り付けを考えたら、振り付けを盗まれてしまうというのが映画『ボーン・トウ・ダンス』に出てくる。新しい振り付けはバトルの最重要課題である。映画『ユー・ガット・サーブド』でも盗まれていた。振り付けを盗まれるのでは、映画『ストンプ!』にも出てくる。<ストンプ>はアフリカで生まれたもので、それがアメリカの大学の友愛会で行われるようになる。足踏み、拍手、体を叩いて音をだしつつリズムをつくりながら踊るのである。なかなか勇壮である。

ストンプの映画は数が少なく『ストンプ!』、『ストンプ・ザ・ヤード』、『ストンプ・ザ・ヤード2』の3本を観る。『ストンプ!』はカナダ制作で高校生の年代であるが、脚本家はカナダでは高校生が踊っていて、アメリカでは大学生が殆どなのでその違いに驚いたとコメントしている。入り方もそれぞれである。

さて軌道修正し、『新版 オグリ』は、個人的興味ゆえにストリートダンスと重ねて観て楽しんだ。オグリに見いだされたオグリ軍団の仲間意識。オグリ自体が貴族社会から逸脱した人物である。馬を乗りこなすのは武士の誇りでもあったが、その能力さえもオグリには備わっていた。ただしその才能による自信過剰をなんとかしようとする人物(?)がいた。この方フットワーク抜群である。ダンスも踊れるかも。

愛し合うオグリと照手姫は離れ離れとなり、それぞれの旅をすることになる。その旅先で登場するのが二人組である。ストリートダンスのバトルでは、得意分野のダンスをしかけるとき、単独、コンビ、トリオでしかけ変化をもたせることが多い。全員でやるときは気持ちを一つにし、さらにそれぞれの持つ力を上手く発揮させること。これもバトルの重要な作戦でもあり、観客を楽しませることにもつながるのである。

新版 オグリ』でも、このコンビとトリオが流れの中に上手く取り入れられていて上手い使い方であると思った。衣裳も電飾つきの衣裳が出て来た時は、映画にもあったので笑ってしまった。もちろん立ち廻りでもこの組み合わせは使われる。

若い役者さんの活躍をみれるのも楽しみである。竹松さんは、歌舞伎『あらしのよるに』の<はく>が印象的であったが小栗一郎で活躍する。ぴったりである。博多座と南座は鷹之資 さんだそうである。どうなるのであろうか。これまた興味深い。

二郎が男寅さんで、どこか甘えん坊の雰囲気が次男坊ゆえであろうか。四郎の福之助さんの武骨さが出自と合っている。六郎の玉太郎さんが難しい役どころで、屈折した若者像を上手く出している。そしてきっちり若者に同化しているのが三郎の笑也さんと五郎の猿弥さんである。この六人を率いるのが猿之助さんの小栗判官と隼人さんの小栗判官のダブルキャストである。今、思った。猿之助さんのオグリの鬘、アフロヘア―をイメージしてるかも。そんなわけで色々想像豊かにしてくれる。

隼人さんのオグリは颯爽として仲間をひきつけ、遊行上人の猿之助さんに思慮深く導かれる。猿之助さんの遊行上人の雰囲気がいい。隼人さんの若いオグリを導くという印象が強く出た。時代の成り行きに懐疑的なオグリの猿之助さんは仲間を力強くひっぱる。隼人さんの遊行上人は、猿之助さんのオグリと共に自分も導く道を模索しているという感じである。そこの違いも見どころの一つであり、どう見るかは観客に任される。

小栗判官のお墓があるのが神奈川県藤沢遊行寺であるが面白いことを知った。河竹登志夫さんが書かれているのであるが、曾祖父にあたる黙阿弥が「阿弥」号をもらったのが、この時宗総本山遊行寺からだということである。

相模湖に行った時には小仏峠に照手姫の美女谷伝説があるのを知った。照手姫が小仏峠の麓で生まれていて、その美貌から地名が<美女谷>となったといわれていて、両親が亡くなって照手姫は<美女谷>から消えてしまったとあった。『新版 オグリ』での照手姫の運命はいかに。

照手姫は新悟さんである。新悟さんの照手姫の役にも、新悟さん自身にも自意識がみえた。あまり自分を押し出さない方だが、猿之助さんのオグリの時、凄い大きな声で台詞を言われて客席に笑いが起きた。意に介さずさらに貫いた。これは好い傾向であると思えた。次の国立劇場の『蝙蝠の安さん』の花売り娘では、細やかさが加わっていた。ひとつ突き抜けたかも。

今月の新春歌舞伎では、『新版 オグリ』の役者さん達は、あちらこちらの舞台で活躍している。悪戦苦闘している方もいるであろう。そろそろ心は、『新版 オグリ』への移行が始まっているのかもしれないが、今月の舞台、悔いのないように無事つとめられますように。

<ヒップホップ> →  2020年1月26日 | 悠草庵の手習 (suocean.com)

     

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