東京国立博物館・特別展『最澄と天台宗のすべて』

トーハクへは、上野公園の噴水のそばを通っていくのですが、今回は科学博物館への道をいきました。そして発見しました。

<多摩産木材を活用した園路舗装> 荒廃がすすむ多摩の森林の活性化保全、地域温暖化防止のために、間伐材を含む多摩木材を活用しているのです。木ですので腐ればまた取り換え間伐材の消費を促進するのだそうです。(東京都)

時には定番ではない道も歩いてみると違う出会いがあるかもしれません。

比叡山は観光の地としてツアーで行ったことがあるのですが、夕方について時間がなくて根本中堂の外観だけで、比叡山は修行の場で見せないところなのだと勝手に思ってしまいました。そのイメージが強く、その後、比叡山下の坂本は気に入り二回行きましたが、比叡山に行こうとは思いませんでした。

DVD『新TV見仏記 ⑦ 比叡山・大津編』で見どころ沢山なのを知り残念なことをしたと思っていました。

トーハク『最澄と天台宗のすべて』は展示物が充実していました。音声ガイドを借りまして、最初はそうですね、なるほどと納得していましたが、後半には猿之助さんの解説の声に頑張りますと誓いを立てて観てきました。予約制のためしっかり観れるので嬉しいのですがこれまた大変なんです。いつもは人がいっぱいで資料的文字系はパスすることが多かったのです。

今回は最澄さんの直筆もしっかりみました。三筆の一人である嵯峨天皇の直筆にはその文字の空間のバランス感覚に驚かされました。(三筆・嵯峨天皇、空海、橘逸勢)

最澄さんは桓武天皇、平城天皇、嵯峨天皇時代にまたがって朝廷の変化する時代に僧として生きられ、桓武天皇に認められました。

同時代には空海さんがいて、二大天才が同時代に存在していたわけです。空海さんは文筆がすぐれていて、文人の嵯峨天皇に好かれました。

そして今回の『最澄と天台宗のすべて』を前に、最澄さんに関する本として『雲と風と』(永井路子著)、『最澄と空海ー日本人のこころのふるさと』(梅原猛著)を読みました。さらに、『週刊 古寺を行く 延暦寺 10』をながめ、DVD『比叡山延暦寺 行と教学の霊峰 』(NHK)をも観て、かなり事前に最澄さんと延暦寺には触れておきました。

それだけに最澄さんが生きておられたころの展示は確認的要素がありましたが、死後の天台宗の流れは知らないことが多かったのです。第一会場は確認で、第二会場では、全国に散らばっている天台の至宝を目にすることができました。

比叡山延暦寺は、新しい宗教家、栄西、道元、法然、親鸞、一遍、日蓮らを輩出した勉学、修行の場でもあるのをあらためて紐解けた感じです。

司馬遼太郎さんの『街道をゆく 白河・会津のみち、赤坂散歩』で、「徳一」のところで、最澄と空海について書いてあり、そのことが頭にあって最澄という人を知りたいとはおもっていたのです。映画『空海』に少し登場しますが、最澄さんの映画はなく、宗教は解釈のこともあり難解で近寄りがたかったのです。とっかかりが見つからなかったので今回は最澄さんのことを知るうえで良い機会でした。

司馬さんの著書によりますと、僧・徳一は奈良の興福寺で学び、奈良仏教の堕落ぶりに批判的で会津で草庵を結び布教につとめ、慧日寺(えにちじ)という大きな寺を建て私学大学のようなお寺だったそうです。さらに、日本史上、最大の論争家としています。

徳一さんは、空海さんと最澄さんに論戦を挑むのです。最澄さんは真面目に論争に応じます。論争があまりに激しく、最澄さんの健康をむしばみ、死の遠因をつくったのではとまでいわれています。

「空海の場合、徳一の論争をたくみにかわし、むしろ徳一を理解者にしてしまったところがあり、このあたりにも、最澄の篤実さにくらべ、空海のしたたかさがうかがえる。」

この文章から、最澄さんのことが頭のどこかにありやっとすっきりしました。

ただこの論争は、最澄が記録していて後世にとっては大いなる幸いでもあると司馬さんはいわれています。

雲と風と』の著者・永井路子さんは、空海さんと比較しつつも最澄さんびいきのため、最澄さんの生真面目さが人が好すぎるとしています。会津の僧徳一との論争では、最澄さんの残された命の時間から、そんなことに時間をとられている場合ではないとやきもきしています。

最澄さんは、嵯峨天皇に東大寺での戒壇院での授戒だけでなく、延暦寺で修業した僧は延暦寺で授戒を受けれるように請願していたのです。最澄さんの後押しをするだけに、そんな永井路子さんの心情が読み取れて微笑ましかったです。願いが認められたのは最澄さんが亡くなったあとでしたから。

梅原猛さんのほうも客観的で、僧徳一との論争の長さはやはり最澄さんにとって法華経教学の理論を固めるうえで必要であったとしています。

徳一さんとの論争については展覧会では触れられてはいなかったとおもいます。(見逃していなければ)

沢山の仏像のなかでも楽しませてくれたのが十二神将立像(愛知・瀧山寺)の4体でした。その姿のポップさに、驚くやら、この仏師は異端児だったのだろうなあと感嘆しました。この仏像に関しては、みうらじゅんさんといとうせいこうさんの掛け合いの感想が聞きたいところです。

BS日テレの「ぶらぶら美術館」11月9日 夜8時 特別展『最澄と天台宗のすべて』の放送があります。展示物が多いのでどのように観られるのか、山田五郎さんのコメントもたのしみです。

展示会場では映像も多いです。制覇するためには最澄さんに劣らぬ真面目さと粘り強さが必要かとおもいます。

追記: 「東京国立博物館ニュース」によりますと本館14室で「浅草寺のみほとけ」を展示中(~12月19日)です。現在は聖観音宗ですが、中世には天台寺院としていて仏像13件17体を展示と書かれています。知っていれば観てきましたのに。期日的に観にいけそうですが。特別展では、国宝の『法華経』や『浅草寺縁起絵巻』も美しい状態で展示されていました。

追記2 深大寺の慈恵大師(良源)座像は巨大なのに驚きました。おみくじを始められたのはこの方とも言われています。加持祈祷の力もあったようです。

追記3 猿之助さんと春日太一さんの時代劇の映像の話面白かったです。猿之助さんとの共演者の演技に対する姿勢がよく語られていてさりげなく濃密な話を聞けました。監督・キャメラマン・スタッフの話も興味深かった。猿之助さんの冷静な分析力が冴えていました。

時代劇づくりの裏側のチケット情報 – イープラス (eplus.jp)(終了)

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