12月歌舞伎座『新版 伊達の十役』(4)

早変わりは高尾太夫の霊が現れる所から忙しくなります。高尾太夫の霊は妹の(かさね)にのりうつり与右衛門に殺されます。はやわざにどうなっているのとおもわれることでしょう。当然影武者がいるのですが、その役者さんも動きが綺麗で、猿之助さんだと思って鑑賞してもいいくらいでした。

とくれば『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)~かさね』の幸四郎さんとの累を思い出しどうするのか期待するところですが、『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)~かさね』と『伊達の十役』の累とはもとの設定が違うのでさらりとかわされました。さすが思い切りが良いです。

いよいよ渡辺外記左衛門と民部之助親子が仁木弾正の悪事を問注所で裁いてもらい勝訴します。負けた仁木弾正は外記左衛門を待ち伏せして切りつけるという場面があるところですが、今回はそこはなく、民部之介が仁木弾正を見事に討つのです。

民部之介は門之助さんで、巨大なネズミと対峙します。いくら若い民部之介の門之助さんでも巨大ネズミには勝てません。ではどうして勝てたのかといいますと、与右衛門の生血は仁木弾正の術を破る条件がそろっていて、与右衛門は自刃し、その刀をネズミに投げつけます。巨大ネズミから仁木弾正が現れ、民部之介が討つのです。

これで八汐、仁木弾正は討たれました。では栄御前はといいますと足利家の乗っ取りはできなくなります。

細川勝元が現れ、鶴千代に家督相続の許しがでた書状が外記左衛門の寿猿さんに渡されるのです。これで、めでたし、めでたしです。

1986年の『伊達の十役』と十役が一つ違っています。それは、赤松満祐がなくて三浦屋女房が入っているのです。

赤松満祐は仁木弾正の父で、赤松家に伝わる旧鼠の術を弾正に授けるのです。その場面はないので、三浦屋女房にしたのでしょう。

三浦屋女房は、高尾太夫をかかえている廓・三浦屋の女房なわけです。そこへ、頼兼がやってきます。頼兼の履物が、高価な香木の伽羅(きゃら)でできているのです。三浦屋女房はその履物をお盆にのせて大事にあつかうのです。その場もありませんし、頼兼が姿をあらわしてもそのまま連れ去られますし、伽羅の下駄はどこじゃです。

しっかり三浦屋女房が盆にのせてでてきました。伽羅の下駄を猿之助さんが自分でもってこられたのですから、こうくるのかと参りましたような次第です。

無い無い尽くしでありながら充分に満足させてくれた『新版 伊達の十役』です。

もう少し『伊達の十役』のほうに触れますと、赤松満祐は野ざらしのロクロとなっているのですがその眼には鎌が刺さっているのです。この鎌が重要な役割を果たし累も鎌で殺されるのです。この赤松満祐がでてこないのですから鎌もなしとなります。しかしきちんと話は出来上がっています。

それから京潟姫が登場します。鶴千代の母は亡くなっていて、そのため乳母の政岡が鶴千代を守っているのです。京潟姫は頼兼の新たな許嫁なのです。演じているのが先代の門之助さんです。息子さんが局でお父さんがお姫様です。歌舞伎の面白いところです。親子で恋人になったりもしますし、考えてみれば不思議な世界です。女形の芸があるからでしょう。

時代の流れの中で培われてきたわけで、『新版 伊達の十役』が出来上がったのも時代の流れの一つの産物です。

それにしても、今回、何かまだ仕掛けがみえないところで仕組まれているような気がします。考えすぎでしょうか。第六感でしょうか。

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