初笑い・前進座『一万石の恋』

前進座の『一万石の恋 裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇』を観たいと思っていましたがやっと浅草で観劇できました。今年の初芝居で初笑いとなりましたが、いつものことでちょっと余計な口をはさみますので悪しからず。

山田洋次監督と前進座のタッグは二回目です。前回は『裏長屋騒動記 落語「らくだ」「井戸の茶碗」より』でした。

今回の<恋の仮名手本篇>というのが気になります。一幕目から<仮名手本>というのが納得できました。そして一万石という弱小藩の藩主・赤井御門守の恋が裏長屋の騒動記となるわけです。今回は落語の『妾馬(めかうま)』を土台にしているということです。

近年は『八五郎出世』の演目で語られるます。それは最後まで語られないからです。落語を簡単に紹介します。裏長屋に住む孝行な娘・おつるが赤井御門守のお目にとまり男子誕生となります。おつるは赤子を兄に見せたいと対面を殿に願いききとどけられます。兄・八五郎は無事おつると赤子と会うことができます。長屋の生活しか知らない八五郎のお屋敷での破天荒な言動が可笑しさをさそいます。殿様にも気にいられ、士分にとりたてられるのです。

そのあとは、名前も改まった八五郎が殿の可愛がる馬に乗って使いに出かけることになりますが、馬術の知らない彼は急に駆け出した馬のたてがみにしがみつきます。屋敷の者にどちらへ行かれるのかと聞かれ、前にまわって馬に聞いてくれというのですが、ここは蛇足として省略されることが多いのです。

もう一つの聞き所は八五郎の妹・おつるに対する情愛です。母の言葉を伝えつつ幸せな様子のおつるに安心するのです。

今回の芝居ではこの落語設定を大きくひっくり返しました。お鶴には好きな人がいるのです。赤井御門守の恋、一万石の恋はどうなるのでしょうか。そして、裏長屋の人々の活躍はいかにとまあこんな具合に話はすすみます。

これはこれなりに笑いもあり結構なのですが、どうせなら、お鶴の名前をお軽にしてほしかったです。赤井御門守は芝居好きです。おかるの名前にビビビビーっと電流のくるのは間違いなしです。

それと『妾馬』が基本にあるなら、八五郎を途中で妹想いの兄にさらにひっくり返してほしかったです。母親と八五郎はぐうたらで長屋ではよく思われていない親子なのですが、そこが弱いのでどうせなら妹の本心がわかりそれじゃと妹のためにと八五郎が一肌脱ぐという変身ぶりにし、大家さんはじめ長屋の人々も力を貸すという盛り上がりにもっていってもよかったのでは。母親はそのままでいいです。

ひっくり返してまたひっくり返すというのもありではないでしょうか。それくらいやってもできる力量の役者さんたちなので、もったいなくおもえたのです。

<仮名手本>にはやはり前進座ならではの設定だと感心しました。ベンベンも笑えました。ただお小姓さん、襖をしめるときは中腰ではなく座ってからお願いしたいです。きちんとしているからこそさらにベンベンに笑いが増幅すると感じます。

それと長屋の皆さんの木遣りのときには、あちらこちらから調達した印半纏(しるしばんてん)などを着てはいかがでしょうか。酒屋、米屋、大工など。お祝いなので、裏長屋の人々の心の表し方も必要かと思った次第です。

音楽が素敵でした。始まりが江戸っ子の人情味をあらわすような明るさを押し出してくれるようで、途中の打楽器と尺八も場の雰囲気をかもし出してくれてよかったです。

前進座の90周年を寿ぎ、座員の皆さんの修練のほどを鑑賞しつつ笑いながら、ああじゃらこうじゃら突っ込みを入れつつ楽しませてもらった初芝居でした。

突っ込みをいれたからとて壊れるような芝居じゃないですから安心し、自分の好みの変更芝居に役者さんたちの動きを浮かべつつ書いています。

カーテンコールの後の写真タイム。今年も写りの悪いスマホとのお付き合いです。真ん中のご機嫌なかたが一万石志摩波藩の救い主です。そして、お殿様が後ろむきになるとお鶴ちゃんのお母さんがあらわれます。ウソかホントウか確かめたい方は機会がありましたら是非劇場にてお確かめください。

落語『八五郎出世』の生は志の輔さんで聞いています。

2021年『一万石の恋 ―裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇』 (zenshinza.com)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です