四国こんぴら歌舞伎(2)

「こんぴら歌舞伎20回目の記念公演」について間違いがありましたので、そのことは<追記:5>で訂正しました。→ 2022年3月9日 | 悠草庵の手習 (suocean.com)

テレビ録画の静止画面からですのではっきりしませんが、宙乗りの雰囲気だけ感じ取っていただければ。

金丸座は江戸時代の芝居小屋ですので、江戸時代は自然光を取り入れての舞台となります。そのため暗くするときは1、2階の雨戸が閉められるわけです。そうすると小屋は真っ暗闇となり、殺された清玄が亡霊となって現れると、キャーとの悲鳴とともに笑い声が起こります。

今は照明も使っていますが、初回は照明を落としてなるべく自然光を利用して上演されました。吉右衛門さんは、江戸時代に書かれた舞台や役者さんの様子や教えがやっと納得できたと語られていました。

再桜遇清水』は<桜にまよふ破戒清玄>とありますから、破戒僧・清玄のはなしなわけです。そのため清玄が桜姫の美しさに次第にのめり込んでいく場面ではお客さんはゲラゲラ笑っていまして映像を見ていましたら楽しそうです。

実際に観劇した私は、雨戸の閉まるのが楽しみで裏方さんの仕事ぶりに注目し、真っ暗闇になるのを体験でき、舞台から客席側に飛び出している「からいど」の使用も観ることができました。これは川に落とされたり、死体が投げ込まれたりというときに使われ、井戸のように小さいのです。

口上の時には枝垂桜の襖がバックで小屋に映えました。舞台と花道に挟まれているピンクの丸の場所が「からいど」です。

再桜遇清水』では時代が鎌倉で場所も鎌倉です。録画を観ていて、桜姫が北条時政の娘となっていたのですぐ『鎌倉殿の13人』が浮かんでしまいました。鎌倉の新清水寺で頼朝の厄除けの御剣奉納があるのです。その寺の僧が清玄です。最初の場面は歌舞伎『新薄雪物語』と重なります。

初演時は吉右衛門さんが二役で活躍したようですが、再演ということで皆さんが活躍される舞台に作り変えています。桜姫と清玄(きよはる)の逢引の手はずをする浪路(東蔵)や奴の浪平(現・、又五郎)、奴の磯平(現・松江)などです。

吉右衛門さんは、金丸座という江戸時代の芝居小屋で歌舞伎ができることに対して、イベントであってはならない、江戸時代の歌舞伎を考証できる機会を生かし、伝統芸能を守るのだという想いにあふれていました。

さて「清玄桜姫もの」でもう一つ観劇していたのが、2013年(平成25年)に国立劇場で公演された通称「女清玄」の『隅田川花御所染(すみだがわはなのごしょぞめ)』です。若手を引っ張っての福助さんの清玄尼でした。

これがあったので、「こんぴら歌舞伎」をもう一度考え、「清玄桜姫もの」をもう少し再考したくなったのです。

隅田川花御所染~女清玄~』は四世鶴屋北南作品ですからかなり入り組んでいて場所も移動し盛りだくさんでドロドロした場面もある芝居となっています。平家再興の話ともからまっていますが、入間家の二人の姉妹の話とし、特に長女・花子が中心と考えたほうがよさそうです。

花子は許婚の吉田松若丸を慕っていますが、松若丸は行方知れずで亡くなったとのことで出家して清玄尼となります。妹の桜姫にも許婚・大友常陸之助頼国がいますが、頼国は殺され、松若丸が頼国に成り代わります。それがわかった時、清玄尼は複雑な心情となります。

局岩藤という名前がありますが、草履が浮かびます。恋路の闇に迷うという金剛草履を清玄尼にはかせるのです。その手下が惣太です。岩藤の兄が平内左衛門で平家の残党です。惣太は松若丸の梅若丸を殺していて、清玄尼にもひかれているのです。

「鏡山」や「隅田川もの」などがかぶさってきているのです。清玄尼は惣太に殺されますが、もちろん亡霊となって現れます。そして桜姫の前で松若丸となってあらわれ、二人松若丸となります。二人の野分姫が浮かびます。

最期は、荒事のいでたちの粟津六郎によって清玄尼の迷いは打ち消されてしまうのです。

舞台としては、複雑さと、鶴屋南北の作品を演じるにはまだ役者さんが若かったという印象でした。いつの日か再挑戦していただきたいものです。

登場する場面や、セリフに出てくる地名が豊富で、経路の地図などを作って散策したくなります。汐入とか橋場などは、「千住汐入大橋」や「橋場の渡し」を思い浮かべます。

「清玄桜姫もの」としては『桜姫東文章』がなんといっても人気です。シネマ歌舞伎で上映中ですので一度は目にしておくことをお勧めします。

追記: こんぴら歌舞伎の22回(2006年)の一部演目もテレビで放送されていました。この公演も小屋の機能を上手く使い芝居を面白くしていました。放送された演目は、『浮世柄比翼稲妻』(「鞘当」あり)、『色彩間苅豆ーかさねー』です。これまた鶴屋北南の作品で、長い物語の一部分が復活されて上演されるようになったものです。恨みよりも人の想いが叶わぬ大きな力のなかで儚く散っていく感じで、これも小さな小屋だからこその浮かび上がる哀惜でしょうか。

追記2: 『浮世柄比翼稲妻』。名古屋山三(三津五郎)は下女・お国(現・猿之助)と雨漏りする長屋に住んでいます。山三宅へ傾城・葛城(現・猿之助)一行が訪ねてきます。貧乏長屋と花魁の豪華さがよく映えます。お国は顔にあざがあり山三への想いをおさえながらも山三の濡れ燕の着物を質から受けだしたりとけなげです。勝手な山三だなあと思わせつつ、色男ぶりを貫く三津五郎さん。三津五郎さんと猿之助さんの共演はもっと観たかったと思わされました。

追記3: 『鞘当』では天井から桜の花びらがまかれお客様は大喜び。狭い中に二本の花道。大きな劇場では味わえない役者さんの近さ。三津五郎さんの衣装の下の身体の細やかな動きが透けて見えるようでいて見せない技。それに対する海老蔵さん(不破伴左衛門)の荒々しさ。留女が亀治郎さんで女見得。これぞ吉原仲之町。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_3296-2-1024x556.jpg

追記4: 『かさね』。江戸時代は花道と舞台前面に並んだであろうローソクのあかりも今は電気ですが、ローソクの炎のゆらぎをあらわすこともできます。暗さとほのかな明かりが与右衛門(海老蔵)とかさね(現・猿之助)を儚い美しさで映し出します。これまた金丸座ならではの『かさね』です。かつてはとんぼを切る方も小屋ごとに専門がいたそうで、その技は高度であったようです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です