でこぼこ東北の旅(2) 映画『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』

旅の持ち時間の関係から、別行動となった友人達は、弘南鉄道で黒石へ行く。津軽フリーパスという弘前周辺の二日間乗り放題の切符があり、これは行動範囲から検討するとお得な切符である。帰ってからの友人の報告によると、黒石はガイドの説明もあり酒蔵見学もでき半日コースとして楽しめたようである。

こちらは、五能線に乗り秋田を通り塩釜・松島へ行く予定なので、時間まで五所川原散策とする。五能線も五所川原も二度目であるが、初めての友人にあわせる。五所川原には太宰さんを可愛がってくれたおばさんのきゑさんが住んでいた家があり、この家は大火で焼け、蔵が残りそこで暮らしていたことがあり、太宰さんもその蔵を訪れている。その蔵が解体再生されて、「思い出の蔵」として小さな資料館になっていた。 青森五所川原の町 

資料館に角樽(つのたる)が展示されており、きゑさんの娘さんの結婚の時のもので、金木の津島家から分家とある。意味がわからず係りのかたにたずねる。太宰さんの叔母のきゑさんは金木の津島家に娘さんたちと一緒に暮らしていたが、娘のリエさんに養子をむかえ五所川原に分家したのである。養子さんが歯医者で歯科医院を開業し、現在も人気の歯科医院とのことである。叔母のきゑさんが津島の名を残したわけである。

そんな話しから、太宰さんの場合も津島の名前は女性によって残されているという印象が強い。そして小説家太宰治さんは、娘さんの小説家津島祐子さんによって乗り越えられたと以前から個人的に思っていた。津島祐子さんとは小説家と言われる前に小さな文芸誌で作品に偶然出会った。この人は面白いと思った後で太宰さんの娘さんと知る。その後小説家として名前がでるようになる。

作家津島祐子さんは残念なことに今年二月に亡くなられてしまわれた。内面的に太宰さんに負けないだけの闘いをされて小説と向き合われていたようにおもえる。ここでも津島家は女性によって突き進んでいく。

友人も私も太宰さんの生き方には、三人の女性、小山初代さん、田部シメ子さん、山崎富栄さんとの関係から懐疑的な気持ちがある。小説家太宰治の名のもとに三人の女性が不当な扱いを受けているようにおもわれるのである。そのことを友人とふたり、かなり太宰さんを糾弾する。係りのかたも聞こえていたであろうから困ったことであろう。糾弾したとしても、太宰さんの血を授かった太田治子さんも、ご自分の道をしっかり歩まれているので、太宰さんの亡くなったときとは事情が違ってきている。

最後は係りの方も加わり、映画『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』のサチさんは素晴らしい女性で、あのような女性はいないという結論になった。太宰さんの作品をうまく組み合わせ理想の女性像をつくっている。なるほどこういう女性像をつくりあげれるのかと、その脚色と監督と俳優の組み合わせと映画の力に感嘆したのである。

映画『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』(2009年)

常識では推し量ることのできない作家・大谷(浅野忠信)の妻・佐知(松たか子)が、世の中から糾弾されないようにとった行動。居酒屋からお金を盗んだ夫を警察に突き出されるときに妻はどう行動したか。他の女性と心中未遂事件を起こし、殺人未遂容疑の疑いで警察に拘束されてしまう。そのときとった妻の行動は。夫が釈放されて帰ってきたときの妻の行動は、夫の食べている桜桃を一緒に食べる。そして発した言葉とは。

この映画を観たとき原作は忘れていたので、佐知さんの行動がミステリーのように想像外で新鮮で賛辞を送った。

<桜桃>は、『桜桃』にでてくるが、「子供たちは、桜桃など、見た事も無いかもしれない。食べさせたら、よろこぶであろう。」と思いつつひとりで食べ「子供よりも親が大事。」とつぶやく。

<タンポポ>は、『葉桜と魔笛』のなかの手紙の一節にある。「タンポポの花一輪の贈りものでも、決して恥じずに差し出すのが最も勇気ある男らしい態度であると信じます。」

ヴィヨンの妻は、夫と桜桃をたべ、タンポポ一輪受けとったのであろうか。こういうつまらないつながりなど考えさせない内容の映画であるのでご安心を。原作からこうもっていくのかと、うなってしまった。

監督・根岸吉太郎/原作・太宰治/脚本・田中陽造/出演・松たか子、浅野忠信、伊武雅刀、室井滋、広末涼子、妻夫木聡、堤真一

 

 

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