映画『ハクソー・リッジ』そして「蘇る戦没学生の音楽作品」

映画『ハクソー・リッジ』(メル・ギブソン監督)は、人を殺す武器は持てないという宗教と自分の体験のに基づく信念のもとに、軍法会議にかけられながらも除隊を拒否しやっと衛生兵として戦場へ行き、傷ついた仲間を安全な場所へ運び命を助けた兵士の実話の映画化です。それが沖縄戦でのことだということを知り急遽見てきました。

意志を貫く青年も凄いですが、やはり沖縄戦がいかに棲ざまじい戦いであったのかということがあらためてわかりました。その前の大戦で戦争に行って心を病んだ父親の姿にも戦争の爪痕は残っており、アメリカ側から見た戦争ですが、何のために人間は殺し合わなければならないのであろうかと敵も味方もなくなって見ておりました。

その後、沖縄の戦争を描いた映画、『激動の昭和史 沖縄決戦』(岡本喜八監督)も見直しましたが、再度、映画としてよく残してくれたと感嘆しました。そして、全然違うきっかけから北野武監督の『ソナチネ』を見て、これは、ヤクザの世界のことであるが、北野監督は沖縄での戦争をも視野に入れて違う形で撮った映画なのではないかと思えました。死ぬことがわかっていながら沖縄に行くことになってしまう主人公。沖縄の美しい自然の中で悪ふざけをして愉しむ姿が可笑しくもあり悲しくもあるという死の匂い。何の表情も見せずに撃ち込むピストルの弾。エンドクレジットの後に映る、時間が過ぎ去り忘れられてしまった当時の釣り道具や舟の残骸の映像。

ハクソー・リッジ』を見たなら、日本側からの沖縄の映画『沖縄決戦』でも『ひめゆりの塔』でもいいですから見て欲しいですね。沖縄に住む人々や兵士がどう闘い亡くなっていったのかを。岡本監督が一番こだわったのは場面は戦闘場面ではなく、夜間の雨も中での群衆の撤退場面だそうです。この場面がなければこの映画を撮る意味がないとまで言われたそうです。そして是非見て欲しいのが『ソナチネ』です。ヤクザ映画と同じにするなというかたもあるでしょうが、設定は違いますが人間の虚しさが共有できます。 映画『沖縄 うりずんの雨』『激動の昭和史 沖縄決戦』

深作欣二監督が、『仁義なき戦い』シリーズで1作目の最初に広島のキノコ雲を2作目から5作目の最後に必ず広島の原爆ドームを映したのは、深作監督の中に燃えたぎる上に立つものへの怒りです。

沖縄の地に立った時、沖縄戦の映画をみているかどうかで感じ方が違うでしょうし、その後で沖縄の自然を満喫していただきたいです。<ハクソー・リッジ>は浦添市の<前田高地>だそうで『沖縄決戦』では、<嘉数高地>とか<棚原高地>などはとらえられましたが、<前田高地>は気がつきませんでしたので再度時間的経過などを確かめつつ見ようと思います。

かつて学徒出陣で戦争に行きやむなく命を絶った村野弘二さんのことを書きましたが、村野さんの作品が7月30日、東京芸術大学で開催されるコンサートで聴くことができます。   白狐の「こるは」

東京藝術大学130周年記念「戦没学生のメッセージ(スペシャル・プログラム)~戦時下の東京音楽学校・東京美術学校」

童謡「夕焼け小焼」(中村羽紅作詞)を作曲した草川信さんの長男である草川宏さんも東京音楽学校に在学し戦没され、今回『ピアノソナタ』が演奏され、その他の在学した戦没者の作品も披露されます。志なかばで亡くなられた若い人々の、生きておられればやりたかったことの作品が紹介されるわけです。入場券はチケットぴあでも購入できます。

村野弘二さんは作曲家の團伊玖磨さんと同期で、團さんは生きてもどられ、團さんの書かれた随筆『陸軍軍楽隊始末記』を映画化されたのが松山善三監督・脚本による『戦場にながれる歌』で4月にラピュタ阿佐ヶ谷で見ることができました。

戦争末期で音楽経験のない人がほとんどで、猛特訓の末戦場へて旅立ちます。教官とのやりとり、珍演奏に笑いも起こりますが、次第に過酷さだけが映しだされ、映画としての引っ張る力が単調化してしまうのが残念です。森繁久彌さんが中国人で娘の結婚のために踊るため京劇の衣裳での出演で印象を際立てますが唐突な感もあります。後半、松山善三監督のヒューマニズムが多くの出演者を活かしきれなかったところが見受けられました。(児玉清、久保明、加山雄三、加東大介、藤木悠、名古屋章、青島幸男、大村崑、桂小金治、千葉信夫、佐藤充、小林桂樹、森繁久彌)

映画としては、岡本喜八監督の『血と砂』のほうがエンターテイメント性が強いのに心に沁みる度合いが濃いです。音楽性からいっても。松山善三監督のほうは、真面目に多くのものを取り入れ拡散したように思います。岡本喜八監督は、ハチャメチャに撮っているようでいながら一人一人の人物像が生きていて、伝わってくるものがあるのです。  映画 『血と砂』

若人たちが戦争で出来なかったことの遺作が整理され発表され、今の人々とつながることによって鎮魂となれば、こちらも少し救われます。

映画『ハクソー・リッジ』から、戦争での若人の命が投影され、再び光輝くきっかけとなりました。映画館は若い人、中年、老年まで巾ひろいかたが鑑賞していたのが嬉しいです。捉え方はそれぞれでいいとおもいます。色々思い起こさてくれた映画でした。

 

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