映画監督 ☆川島雄三☆  『銀座二十四帖』

川島雄三監督特集を池袋の新文芸座で上映している。先週は時間が取れず悔しい想いをしたので、今週は通い詰めである。2本立てなのでこれまた嬉しい限りである。<喜劇>から<夜の世界>から<男女の超難解な色模様>から<町の活写>から、様々なから、から、からが、川島流に撮って行く。粘つく情もさらりと流し、流す涙も意地に変え、気障な旅人関所を通し、素人離れの歌と語りに色を添え、俯瞰で写す町にうごめく人間模様の出来上がり。

『銀座二十四帖』

空から銀座を写す。タイトル画の時から、森繁久彌さんの「銀座の雀」の歌が流れる。それが郷愁をさそう声と歌い方である。ところがそれが終わると、森繁さんのナレーションが入る。「素人ばなれした歌をお聴かせして・・・」とか何んとか、そして銀座の説明に入るが歌とは反対に明るさがある。この辺が森繁さんのテクニシャンというか、技である。語りでも自由自在である。「銀座の一晩の電気の消費量が、秋田市の一日分・・・・」。こういうことを何気なく挿入する川島監督の手法。気が付けばいいし、気が付かなければそれもよし。考える時間は与えない。抒情に浸る時間は与えない。今回、川島監督の映画を数本まとめて見て、テンポ、リズム、流れ、動線が面白かった。この「銀座の雀」の挿入歌は、キャバレーでの歌い手が歌い、流しが歌いと数回出てくるが、歌われるのは、この曲だけである。最初に印象づけておいて、あとは映画の流れの一部として使うのであるが、最初にインプットされているから歌は歌で複線の一つの流れのように錯覚してしまう。こういう歌の挿入効果も初めてである。邪魔せずにスーッと入ってくる。森繁さんの使い方が、森繁さんの上をいく監督の技である。

川島監督自身が、原作から離れ、筋はどうでもよく、銀座を画きたかったとされているが、森繁さんは銀座の街の風景のみのナレーションで、登場人物の心情には入ってこない。森繁さんのナレーションの部分だけを切り取って写せば昭和30年代の銀座の街のドキュメンタリー映画になるかもしれない。では映画はどんな話かというと、ミステリーの部分を設定している。ある美しいご夫人(月丘夢路)が、自分が少女時代に描いてもらった肖像画を他の売り物の絵と一緒に画廊に展示するのである。<G・M>とイニシャルがあり 、夫人はその人の記憶がはっきりしないが、淡い恋心を抱いたひとのようである。その絵を巡って、銀座の悪を叩き出そうとする花屋の主人(三橋達也)が動き出す。花屋は自分の知っている人とその絵を描いた人が同一人物なのかどうかも知りたいのである。次第にその絵を描いた人物の詳細が判ってくるのである。

日活のトレードマークのアクション映画の要素を入れつつ、大阪から出てきた夫人の姪(北原三枝)のアプリな女性も配し、銀座の昼のデパートの様子や、銀座の夜なども写される。確か衣裳のかたの名前もタイトルに出てきたと思う。このあたりも川島監督のこだわりであろうか。月丘さんの着物姿に魅了され、北原さんのスタイルの良さは映画『風船』の時と同様、斬新なデザインの衣装が長身に映える。浅丘ルリ子さんが、花屋に雇われている事情のある少女たちの一人として出られているが、北原さんと比較すると、こんなに可愛らしい少女と大人の女性との違いであったのかと驚いてしまった。

月丘さんは、父の代からの知り合いが営んでいる料亭に身を寄せている。その料亭の橋のそばで、絵を描いている大阪志郎さんはどういうわけか、銀座の色々なところに姿を現す。刑事さんかなと思わせるが、飄々として刑事らしくないのがまた楽しい。夫人に近づきたくて、自分が描いたのではないのに、自分が描いたとしてマスコミに発表するメチャクチャな画家が阿部徹さん。話はかなりおふざけであるが、時々そこに、銀座紹介の森繁さんの声と映像が加わり、上手く流れていくのである。

一つ残念だったのは、この夫人は嫁ぎ先の鵠沼に娘を残してきていて、その娘に会いにいくのであるが、会うのは湘南の海なのである。鵠沼のその頃の住宅地の方を写しておいて欲しかった。銀座再発見 での、岸田劉生さんの画いた、鵠沼の坂道の風景が写ったかもしれない。<鵠沼>と科白に出てきたとき期待したが残念ながら湘南の海岸だけのロケーションであった。

『銀座二十四帖』の<二十四帖>に関しては、「銀幕の東京」(川本三郎著)のなかで、<銀座八丁に加え、西銀座と東銀座を入れて二十四丁になった拡大された銀座をさしている。>としている。その他、この映画に出て来る場所の詳しいことを知りたいかたは川本さんの本を読まれ参考にされるとよい。

原作・井上友一郎/脚本・柳沢類寿/撮影・横山寛/出演・月丘夢路、三橋達也、河津清三郎、北原三枝、大阪志郎、阿部徹、岡田真澄、浅丘ルリ子、芦田伸介

銀座4丁目の三原橋地下に昨年(2013年)3月31日まで「銀座シネパトス名画座」がありました。その最終章の企画として、<銀幕の銀座 懐かしの風景とスターたち>と題し上映してくれ、最後まで楽しませてもらいました。その時に見た映画について書いてありますので興味があればクリックしてみてください。

映画館「銀座シネパトス」有終の美 (1) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(2) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(3) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(4) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(5) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(6) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(7) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(8) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(9) 映画館「銀座シネパトス」有終の美(10)

 

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