映画『シャーリー&ヒンダ ウォ―ル街を出禁になった2人』 『人生タクシー』からの継続(2)

映画『人生タクシー』からは、イラン映画を観て、イラン関係の本を読み、国立博物館へ行き、さらにトルコ映画を観ることになった。流れは次のようになる。

イラン映画『正倉院の世界 皇室がまもり伝えた美』(シルクロード)→迎賓館赤坂離宮東京ジャーミィ(モスク)→トルコ映画

映画『人生タクシー』のジャファル・パナヒ監督の他の作品では『オフサイド・ガールズ』と『チャドルと生きる』を観る。『オフサイド・ガールズ』は、女性はスポーツ観戦が法律で禁止されているのであるが、サッカー大好きな少女たちが、男装して何んとか観戦しようとするが見つかってしまい兵士の監視下におかれる。イラン映画はイラン国の事情がわからないからドキドキしながら見てしまう。少女たちは黙ってはいないし、それに真面目に答える兵士との会話にユーモアさえ感じる。

すったもんだがあり、観る方は、もっと厳しいことになるのではと心配になるが、一件落着してほっとさせられたりもする。ラストは、予想外のことが生じる。初めは少女たちに同情して観ていたのにもかかわらず、兵士に、あなたたちの今までの苦労は何なのよ、それでいいの、と声をかけたくなる場面で終わるのである。田舎出身の兵士が、都会の少女に翻弄されているようでもあり、兵士も普通の若者であったという可笑しさにさそわれる。少女たちのサッカーに対する熱さは今後も続くであろう。サッカー大好き少年の映画としては『トラベラー』(アッパス・キアロスタ監督)というのもある。

チャドルと生きる』は、なかなか事情が呑み込めないような展開である。黒いチャドルをまとう女性の行動が謎めいている。チャドルは原音に近いのはチャードルなのだそうで、半円形に仕立てられた一枚のヴェールである。イラン国内の女性は、人前では髪の毛と身体を覆う衣服の着用が義務づけられている。スカーフに丈の長いコートという着方をしている女性も多い。これらすべての総称が「へジャーブ」と呼ばれている。黒のチャドルの雰囲気はどこか謎めいていていて女性の行動も一層謎めく。

チャドルという歴史の古い衣服が、古い因習の重さをも表しているようで、それにに押しつぶされそうな女性が、一人でその殻を破るために右往左往しながらも前に進んで行く。女性の旅の規制など、女性たちが行動していく過程で予想のつかない現実があり、女性たちは何んとかそこを突破しようとしていて強い。

子供たちも自分の力で問題を解決しようと進む。そのひとつが『友だちのうちはどこ?』である。アッバス・キアロスタミ監督・脚本・によるジグザグ道三部作の一作目で、ジグザグ道は、映像の中に出てくる。このジグザグ道を主人公の少年は一生懸命走るのである。なぜ走るのか。教室で隣に座った同級生のノートを間違って持って帰って来てしまったのである。その子は、宿題をノートではなく他の紙に書いて先生に注意され、三回目は退学だと言われている生徒である。このノートがないと三回目になってしまうのである。

ノートを届けるため少年は走る、走る。そして友だちの家を探すのである。イラン映画はフェイントをかけられるところがあり、えっ、どうしてという箇所がある。それが次の展開ではホッとさせられるという状況になったりもするのであるが、この映画も、ハラハラ、ドキドキさせられながら、主人公の考えた行動に納得させられるのである。

柳と風』(脚本・アッバス・キアロスタミ/モハマッド=アリ・タレビ監督)、『運動靴と赤い金魚』(マジット・マジディ監督)も同じように子どもの一生懸命さに観る側の背筋が伸びる。もっと厳しい環境の中で生きている子供たちの映画もある。

映画からはどんな環境にあっても子供たちに勉学に励んでもらいたいという大人(映画人)の願いを感じる。字の読み書きができない大人も多かったのである。踊るようなペルシャ文字は魅力的である。

若者の映画では、音楽の世界に生きるドキュメンタリー風の映画『ペルシャ猫を誰も知らない』(バフマン・ゴバディ監督)がある。イランではコンサートなども許可制で、音楽も規制され、若者たちは逮捕されつつも自分たちの音楽を目指す。この映画ではイランで生み出される様々な音楽が味わえる。イラン人は詩を大切にし身近なものとしているらしく詩の世界に入りきれない映画もあるし、ミステリー映画もある。映画の事ばかりになり先に進まないので、観た映画名のみ記しておく。

そして人生は続く』(ジグザク道三部作・二作目)・『オリーブの林を抜けて』(ジグザク道三部作・三作目)・『クローズアップ』・『ホームワーク』・『桜桃の味』・『バダック:砂漠の少年』・『風がふくまま』・『ダンス・オブ・ダスト』・『トゥルー・ストリート』・『スプリングー春へー』・『カンダハール』(イラン・フランス合作)・『私が女になった日』・『少年と砂漠のカフェ』・『1票のラブレター』・『少女の髪どめ』・『風の絨毯』(日本・イラン合作)・『ストレイドッグス~家なき子たち~』(イラン・フランス合作)『ハーフェズ・ペルシャの詩』(日本・イラン合作)・『彼女が消えた浜辺』・『別離』・『ある過去の行方』・『セールスマン』(イラン・フランス合作)  

その他、イランの映画監督が外国で撮った映画で観た映画。『セックスと哲学』・『トスカーナの贋作』・『ライク・サムワン・イン・ラブ』(日本)・『独裁者と小さな孫』・『誰もがそれを知っている』・『明日へのチケット

この続きは来年となってしまう。紅白はたけしさんの『浅草キッド』だけ聴きたかった。シンプルでよかった。ひばりさんは古い映像で工夫してほしかった。人工的で悲しくなった。あとは音を消して映像をチラチラ眺めていた。歌を聴くよりもそちらのほうが面白かった。

 

映画『シャーリー&ヒンダ ウォ―ル街を出禁になった2人』 『人生タクシー』からの継続(1)

時間的に書き込みできず休んだところ、楽で他に時間を使うことができ、しばらく書き込みを止めた。気がついたら12月になってしまった。2019年も終わるのである。

映画『シャーリー&ヒンダ ウォ―ル街を出禁になった2人』 『人生タクシー』からの空白の時間のようであるが、実際にはこの映画につながっていたのであるから不思議である。

映画『シャーリー&ヒンダ ウォ―ル街を出禁になった2人』から2008年のリーマンショックに興味がつながる。リーマンショックとは一体どういうことだったのであろうか。2008年、アメリカで大手投資銀行リーマン・ブラザーズが倒産し、世界最大の保険会社ATGが経営破たんのため国有化などがおこる。この影響が世界金融危機へとつながっていくのである。

リーマンショック関連映画(DVD)を観る。『インサイドジョブ 世界不況の知られざる真実』(ドキュメンタリー) 『マージン・コール』(日本未公開) 『ウォ―ルストリート・ダウン』 『マネー・ショート 華麗なる逆転』 『リーマン・ブラザーズ 最後の4日間』(実録テレビドラマ)『キャピタリズム ~マネーは踊る~』(ドキュメンタリー)

頭脳明晰な人たちがお金もうけの手段として考えたことであり、いまだによく理解できないが、わからないようにお金もうけを仕組んだのである。それにハマってしまった多くの人々がマイホームから追いだされ、あるいは失業し、あるいは責任を取らずに逃げ、大儲けをした一握りの人もいたということであろう。

マイホームを購入するときローンを組む。その時支払い能力の審査がある。その審査が無いに等しいサブプライムローンというのがある。お金を貸して家を持たせる。その家を担保にまたローンを組ませたりもする。マイホームを持つひとが増え住宅バブルである。ただこのサブプライムローンには落とし穴がある。途中から支払い額が増えるのである。変動制であるがそのことをわかりやすく説明したとは思えない。持てないと思っていたマイホームが手に入るのである。そしてわけもわからずにローンが払えなくなって強制執行で追い出されてしまう。

さらに解らないのであるがこのローンが他のローンなどと組み合わせられ債務担保証券として売られるのである。さらにこの証券の価値がなくなった時のための保険がありそれも販売される。マイホームを購入できるだけの収入がない人も審査上OKでのマイホームブームであるが、内実を知らない投資家は証券を買う。値はドンドン上がっていく。これが破たんした時のための保険というのがあることによって逆転勝ち組になるのが、映画『マネー・ショート 華麗なる逆転』である。

特定の人が、このバブルに疑念を抱く。これは破たんすると予測して保険をかけるのである。家の所有者と関係のない多数の人がその家に保険をかけることができるのと同じで、その家が火事になると掛けた人は保険金を貰えるのである。火事になることを期待して掛けるのである。そしてついに破たんし、リーマン・ブラザーズは潰れ、保険会社ATGには税金がつぎ込まれる。

映画『マネー・ショート 華麗なる逆転』でもうけた人々は、それがどれだけの貧困を生み出してのお金であるか知っているので複雑である。ただこここまでの間、人々を手玉に取って手数料で大儲けしていた人達に対しての義憤もある。自分の先見の明に単純に喜ぶ人もあれば、やるせなさを感じている人もいる。

インサイドジョブ 世界不況の知られざる真実』(ドキュメンタリー)は、責任問題などにも言及している。そしてこれらの映画を観たあとで、BS世界のドキュメンタリーで『リーマン告発者の10年』の放送があった。リーマン・ブラザーズの不正を知り内部告発した人々の10年を追ったもので、彼らのその後は厳しい人生である。彼らは裁かれる者がきちんと裁かれることを願っている。正当な願いである。

今年の夏は、NHK・BSのドキュメンタリーにお世話になった。昭和天皇の初公開の秘録を始め、興味深い戦争の知られざる様子を知ることができた。きちんと資料を残しておいてくれた人、それを見つけ出してくれた人、そして番組として制作してくれた人々の仕事ぶりには知る喜びを与えてもらった。

さて、リーマン・ショックのもやもやした気持ちを少しすっきりさせてくれるのが、B級作品とみなされるかもしれないが『ウォ―ルストリート・ダウン』である。銃でバキュン、バキュンと復讐する。映画の中なのでお許しをというところである。ラストがしゃれている。銃は必要ないとマイケル・ムーア監督に怒られそうであるが。 

マージン・コール』は、リーマン・ブラザーズの社員の話しで、色々あってもやはり会社人間から抜けだせないということである。デミ・ムーアを久しぶりで観た。役としてはそれほどのインパクトはなかった。

キャピタリズム ~マネーは踊る~』(ドキュメンタリー)。マイケル・ムーア監督作品。切り込み方の発想がいい。行動してその中から派生していく方向性を大切にしているからである。家からの追い立ての強制執行にも立ち会っている。『ハドソン川の奇跡』の映画にもなったサレンバーガー機長が、パイロットの金銭的窮状を発言していたのには驚いた。マイケル・ムーア監督の作品のDVDはテレビ放送作品を含めてほとんで観た。これまた、アメリカの知らなかった世界をみさせてもらった。突撃取材の発想が凄い。

マイケル・ムーア監督作品『華氏911』『華氏119』は、フランソワ・トリュフォー監督の映画『華氏451』からと思われるが、観ていなかったので早速観る。SFで、本を読むことを禁止され、没収され焼かれてしまう。その取り締まる側の係官が本に魅せられてしまう。それが見つかるが、取り締まりの魔の手から逃れる。一冊本を丸暗記して本を守る人々の集まりに出会い参加するのである。この原作本は『華氏451度』でこの本が登場する映画がある。

映画『マイ・ブックショップ』である。小さな町で夫を亡くした女性が本屋を開く。その本屋の初めての客に本を選んで届けるように言われ、女性はその中の一冊に『華氏451度』を選ぶ。初めての客はその本を気に入り、作家・レイ・ブラッドベリの他の作品もと注文するのである。しかし、町の有力者が本屋開店を快く想わず何かと邪魔をする。小さな世界が世間によくある構図でもあり、本屋は閉じられる。しかし、本の縁はつながっていくという、なかなか秀逸な作品であった。

映画『i 新聞記者ドキュメントー』は、クリスマスプレゼントに値するドキュメンタリー映画であった。東京新聞社会部記者・望月衣塑子さんを追い駈ける。しっかりこれが映画として残されたことにひとすじの光を感じる。ここで一応、映画『シャーリー&ヒンダ ウォ―ル街を出禁になった2人』のひとつの着地点とする。日本映画で着地できたのが嬉しい。