仲代達矢・役者七十周年記念作品『左の腕』

左の腕』は松本清張さんの原作で、柳家小三治さんの朗読をCDできいたことがあります。淡々と語られていき、卯助とおあき親子にきびしい世間の風がすきま風のように忍び寄り、その風は強くなりつつあり立っていられるかどうか危ぶまれる状況となります。卯助は違う風にすっくと立ち向かい、その風によって救われるのです。この後半をどう持っていくかが重要な所でしょう。

小三治さんの朗読も無名塾の『左の腕』も後半まで上手くもっていき情を持って卯助を浮かび上がらせ、左の腕のもの悲しさを表していました。

舞台は江戸時代で、料理屋・松葉屋の裏口の土間と板の間です。舞台装置のこの板の間の板の感じのリアルさがよかったです。よく磨かれているが長い時間が経った板の感触がしっかり伝わる細やかさがありました。

その土間を借りてお昼の弁当を食べている飴細工売りの卯助。疲れの見える年齢です。飴細工の屋台を背負いつつ一日中売り歩くには重労働の年齢になっていました。そんな時、おあきに惚れている板前の銀次が女将さんにおあきをお手伝いとして働けるように紹介してくれます。女将さんは、卯助も一緒に下働きとして雇ってくれます。卯助親子にとってそれは大助かりなことでした。

時代物にはこういうささやかな庶民の幸せに横槍を入れる人物が登場します。それが目明しの稲荷の麻吉です。人の弱みを嗅ぎ付け脅しやたかりをくわだてるあさましい人間です。麻吉は卯吉の布を巻いた左の腕に目をつけるのです。

後半の展開は松本清張さんの推理小説をおもわせ、違う世界から卯助に光を当てるという形をとります。仲代達矢さんはその変化をしっかりと見せてくれます。かつての仲間の熊五郎の語りとその雰囲気も役によくでていて、それを黙って聞く卯助の存在感はそこにいるだけで大きさを感じさせます。

この世の中で生きずらい人を救ってくれるのは、やはり人なんだという当たり前のことを再認識させてくれました。ただそれがもっとも難しい時代となっているのを知らされている今の時代でもあります。

ロビーに展示されていました。

プログラムに下記の記念誌がついてました。仲代さんのお顔の絵は、隆巴さんが描かれていて、よく特徴を捉えられています。

演劇、映画、テレビの仕事を合わせると膨大な量の仕事をされています。それも全力でぶつかられた仕事ばかりです。今もその道は続いているのです。

松本清張原作作品では、テレビで『砂の器』と『霧の旗』に出演されたようで、『砂の器』はレンタルでも観れますので鑑賞する予定です。

1010ギャラリーでは『仲代達矢七十周年記念展』を開催されていたようですが3日~9日までと短く、残念ながら見ることができませんでした。

その分、日光街道の千住を少し散策してきました。

追記: テレビドラマ『砂の器』は田村正和さんとの共演でした。田村正和さんのテレビドラマはあまり見ていないのですが、『告発〜国選弁護人』はレンタルで選び、気に入りました。松本清張さんの作品をもとに、国選弁護人である田村さんが事件の真相を解明していき弁護するのです。どうして国選弁護人をするようになったかという背景もあり演技としてもいじりすぎない好演でした。あの『砂の器』がお二人の共演でどんなことになるのか楽しみがふえました。