『従軍作家達の戦争』

NHKスペシャル『従軍作家達の戦争』。

8月は知らずにいた事が明らかになり、考えさせられる時期でもある。

火野葦平さんが1938年に小説『糞尿譚』で芥川賞を受賞する。その時、火野さんは日中戦争のさなか中国の戦地に兵隊として従軍しており、そこで小林秀雄さんを迎えて授賞式となる。以前から報道記者ではない立場の人に、戦場と兵隊の様子を知らせる必要性を感じていた軍部の報道担当官は、これに目をつけ火野さんを報道部に配属する。火野さんは軍事手帳に小さな字で日々の記録をしたため、太平洋戦争末期まで書き続け、その軍事手帳は20冊にもなる。それをもとに「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」の三部作を書き、銃後の人々と兵隊との連帯感を深めベストセラーとなる。しかし、当然そこには軍部の大きな制約があり、火野さんが手帳に書いた全てを小説に書けたわけではない。戦後、火野さんはその事で苦悩する。

作家の従軍記が戦争高揚のプロパガンダとして非常に有効と考えた軍部は菊池寛さんを通じて、多くの作家を戦地に従軍作家として送り出す。普通の日常とは違う戦地である。庶民の生活を冷静に見つめ小説という作品に作り上げていた作家も、戦地を目の当りにすると感情的になり、戦後批判を受けるような従軍記を発表することとなる。

火野さんはその後、戦中と戦後の価値観の違いや、自問自答の狭間の中で自らの命を絶つこととなる。火野さんの遺品の中に、『麦と兵隊』の原稿があり、そこには書く事の出来なかった、手帳に書かれた事実の記録文章が貼り付けられていた。作家であれば多くの作家が受けたいと思う<芥川賞>。その文学的権威ゆえに翻弄される事になった一人の作家の苦悩と、本当に書きたかった作品の原型が静かに伝わる。

戦争は芸術も庶民の楽しみも、お国のためとして規制し、統制していくのである。