国立劇場『通し狂言 世界花小栗判官』

  • 播州赤穂から歌舞伎の関連の場所としてもう一箇所、信太森葛葉稲荷神社へ向かった。安倍晴明の母・葛の葉のふるさとである。阪和線北信太駅に着くと「小栗判官笠かけの松」「照手姫腰掛けの石」の絵看板があり、想像外のお知らせである。外は夕暮れで神社とは反対方向なので後日調べたところ小栗街道(熊野街道)が近くを通っているらしいことが判明。小栗判官と照手姫が熊野へ向かった道ということになる。国立劇場での『通し狂言 世界花小栗判官』はどうなるであろうか。

 

  • 小栗物の歌舞伎作品『姫競双葉絵草子(ひめくらべふたばえぞうし)』よりとある。大きな流れとしては、足利義満の時代に足利家に倒された新田義貞の子孫が盗賊・風間八郎となって足利家に恨みを晴らす企てをするということである。小栗判官は将軍から照手姫との結婚を許されているが、父を風間八郎に殺され、足利家の宝も盗まれその詮議のため、照手姫とも生き別れとなる。

 

  • 照手姫は小栗判官の元家来の漁師浪七にかくまわれが、風間八郎の手がのびる。浪七は命をかけて照手姫を逃がすが、その後照手姫は人買いによって万屋の下女となり、そこで小栗と再会。さらに万屋の女主人お槙は照手姫の元乳母であった。万屋の娘お駒は小栗と祝言できるはずが照手姫の出現でそれもかなわず、誤って母に殺される。死してお駒の嫉妬と怨みから小栗判官は病持ちとなり、照手姫は小栗判官の乗る車を引いて熊野詣で。那智山で待ち受けていた風間八郎に捕らわれるが、熊野権現の霊験で小栗判官の病も本復し、重宝も手に入れ、風間八郎との対決は後日ということで幕となる。

 

  • <大詰>は別とし、盗賊・風間八郎が菊五郎さん、小栗判官が菊之助さん、照手姫が尾上右近さん、浪七が松緑さんで人物設定はわかりやすい。お槙は時蔵さんで足利家の執権・細川政元も。お駒は梅枝さんで、浪七の女房・小藤も。細川政元は白拍子となって風間八郎の策略を見抜き、ここが少し謎解き。小藤は夫・浪七と共に照手姫を守り、兄・鬼瓦の胴八に殺されてしまう。浪七宅の場は、可笑し味も出現させ息抜きの場でもある。

 

  • 最初の見どころは、小栗判官が馬さばきの名手で、碁盤の上で馬に乗って馬を二本脚で立たせるところである。馬との息もあって馬のあしらいかたを面白く見せてくれる。暴れ馬でそれをけしかける横山大膳親子(市川團蔵・彦三郎)の悪役の台詞のとめのにくにくしさもほどよい。小栗判官と照手姫はあくまでも美しくである。場所は鎌倉で

 

  • 場所は鎌倉、江の島と進み、浪七宅は堅田浦で琵琶湖の大津近くとなり季節は。立ち廻りは浪七の松緑さんが引き受け、笑いは、鬼瓦の胴八(片岡亀蔵)、膳所の四郎蔵(坂東亀蔵)、瀬田の橋蔵(橘太郎)のトリオである。万屋は青墓宿にあり、青墓宿は岐阜の大垣市青墓町にあった宿場だそうである。お駒が小栗判官に出会うのはの紅葉の中。母娘の悲劇の場となってしまう。

 

  • 熊野権現の霊力にすがって那智山目指す小栗判官と照手姫の花道からの出。。二人を待つ風間太郎は、自分が新田義貞の子孫であることを告げ小栗判官を谷底に突き落とせと。風間太郎の言うとおりにならない照手姫は木に縛られ『金閣寺』の松永大膳と雪姫を思わせる。時代も足利義満の世である。熊野権現の霊験たる三羽のカラスが現れ照手姫を助け、那智の滝の場面となり小栗判官が病も癒え宝も手にしていた。一同が居並び一件落着。那智滝の水しぶきがキラキラ光っている。

 

  • 登場人物の台詞も無理がなく、馬術問答も楽しく聴ける。権十郎さんの万屋の下男も勿体ないぐらいの出の少なさであるが、照手姫への思いやりがその身の哀れさをさそう。最初の場で殺される小栗判官の父の楽善さんの風格やそれに仕える奴の萬太郎さんなど、皆さん役に合うだけの台詞と動きが安心して観ていられ物語に入って行ける。『一條大蔵譚』での菊之助さんは出が若すぎ雰囲気で損をしていたが、優雅な小栗判官で魅せる。『ワンピース』の尾上右近さんは全く違う赤姫でその違いも楽しませてくれ、梅枝さんは、『京鹿子娘道成寺』の怨みも増幅して嫉妬も絡み怨念さが上手くでた。松緑さんは歌舞伎座に続く立ち回りで安定感あり。時蔵さんの女方と立役の細川政元の気品がいい。菊五郎さんの新田義貞の子孫の盗賊が大きく時代を超えた因縁が納得でき基本線がしっかりした。

 

  • いつもの国立劇場の初芝居の通し狂言であるが、早変わりもなく、主なるかたの何役もの受け持ちもなくあっさりタイプであるが、小栗物がこのように簡潔にできあがるのかと面白かった。やはり台詞術の流れにそれだけの技が加わっての構成と思う。それぞれの役者さんへの感想が沢山あるがこれにて締めとする。