歌舞伎座4月『実盛物語』『黒塚』『二人夕霧』

実盛物語』。『源平布引滝』は、「義賢最期」「御座船」「実盛物語」と続いている。「御座船」は上演されることがまれで、この三作をつないでいるのが小万という女性である。死してまで切られた自分の腕を自分の息子の太郎吉に託し、葵御前の窮地を実盛を通じて救うのである。実盛は、後になってこの腕について物語り、そこからまた意外な展開となる。

「義賢最期」は、源義賢の壮絶な最期が描かれており、妻の葵御前は九郎助に託され、白幡は九郎助の娘・小万に託される。小万は「御座船」で、深手を追いつつも白旗を口にくわえて琵琶湖に飛び込み泳いで逃れようとする。途中、御座船にたどり着こうとするが、その船は平宗盛の船であった。同行していた斎藤実盛は、その白旗を握りしめた女から白旗を取ろうとするが女は白旗を放さない。実盛は女の腕を斬り落とすが女も腕も湖の底に沈んでしまう。

その腕を、九郎助と孫の太郎吉が拾いあげ家に持ち帰る。ここで、小万の腕は着くべきところにたどり着いたといえる。太郎吉が白旗を握る指をときほぐし白旗は葵御前に渡される。そしてこの腕はさらに義賢と葵御前の間に生まれ赤子の命まで救うのである。その赤子が、後の木曽義仲である。

実盛(仁左衛門)は、瀬尾十郎(歌六)と共に、九郎助(松之助)がかくまっている葵御前(米吉)が男の子を生んだなら殺す役目でやってくる。九郎助の女房・小よし( 齊入)は赤子が生まれたと抱きかかえてくる。それは、女の腕であった。瀬尾はあきれるが、実盛は、唐国でも后が鉄の柱を抱いて鉄の玉を生んだという話を披露し、瀬尾を丸め込む。ここで、実盛が平家につきながら源氏の味方らしいということがわかる。

瀬尾は去り、実盛は「御座船」での女の腕を斬ったことを物語る。仁左衛門さんの実盛は、そうかそうであったかと自分でも得心しつつ物語られる。小万(孝太郎)の死体が運び込まれる。孝太郎さんが死体のままということはないわけで蘇生する。そして、息子の太郎吉(寺嶋眞秀)に一言語ろうとしてふたたび息絶える。

蘇生させたのは実盛で、小万の念力を感じたからであろう。芝居はこのあとさらなる展開をみせ見せ場となる。時代物では子供が親の主従関係から犠牲となることが多いが、『実盛物語』では太郎吉が首を討つという結果となり、さらに実盛は太郎吉に自分が白髪になった時、合戦の場で会おうと愉快そうに馬上の人となる。

小万は、実盛に遭遇したことによって、自分の役目を全うさせることができたわけで、実盛によって木曽義仲誕生の物語も出来上がるわけである。仁左衛門さんは、実盛の懐の大きさと太郎吉への情愛をまじえつつ手の内のしどころを展開され、颯爽とその場を後にするのである。実盛を取り巻く役者さんたちも手堅く上手くはまってくれていた。

黒塚』。これは、以前に書いた時と同じ気持ちなのでその感想を参照にされたい。歌舞伎1月 『黒塚』

さらにつけ加えるなら、猿之助さんが、中腰で膝を曲げての姿勢を維持しつつ軽やかな足取りで踊られるのには改めて感心してしまった。怪我のこともあってか、鬼女になってからの動きがバージョンアップされたように思う。今できることは全て出しきるといった感じであった。今回は、阿闍梨が錦之助さんで、強力が猿弥さん。山伏大和坊が種之助さんと山伏讃岐坊が鷹之資さんの若手である。

錦之助さんを先頭に数珠の音もかなり強く響き、猿弥さんのあの身体がどうしてあのように動けるのか不思議であるが、そうしたことが重なっての靜と動の変化のある『黒塚』となった。

二人夕霧』<傾城買指南所>とある。伊左衛門(鴈治郎)が遊女夕霧(魁春)に先立たれ、今は二代目の夕霧(孝太郎)と夫婦となり、傾城買いの指南所を開いていると言うのであるからこれは喜劇かなと思ったところが、死んだ夕霧があらわれ伊左衛門としっとりと踊るのである。夢の中かと思ったら夕霧は生きていたのである。そこで二人の夕霧の対面となり、すったもんだの末、最後はめでたしめでたしなのであるが、喜劇性が上手く収まってくれなかった。

その場その場を面白く盛り上げようとするのであるが、和事の流れるようなちょっと肩透かしのような面白味が上手く出ず、ドタバタとした流れになってしまったのが残念である。和事でさらに喜劇性となると想像以上に難しいのだということを感じさせられた。

若手の萬太郎さんと千之助さんが頑張られたが、舞台を盛り立てる役というのはなかなか大変なものである。もっと経験が必要であろう。これを機に舞台の一つ一つ大切されて、さらに和事を意識されて励んでほしいとおもった。芝居全体にもう少し工夫が必要のようである。(彌十郎、團蔵、東蔵)