前進座・DVD『残り者』・『前進座90年の夕べ「温故創新」』

残り者』は2020年10月に前進座により公演されたものです。原作が朝井まかてさんの『残り者』です。新型コロナの影響で行きはぐれてしまいました。それがDVDとなりました。

「配役・スタッフ」「あらすじ」「かいせつ・みどころ」などは下記から検索してみてください。

2020年前進座錦秋公演『残り者』 (zenshinza.com)

検索すると色々でてきますが、それでいながら余計なことを書きたくなるのは老化のためでしょう。『新TV見仏記』でみうら・いとうベストコンビが、柿木に柿が一つ残っていると何か言葉にしたくなるのは老化だねといっていました。納得です。

上野東照宮のお狸様は大奥で暴れていたことがあるそうで、それならやはり大奥最後の日に残った5人の女性と5人を遭遇させた猫・サト姫様のことを話したくなりました。

原作『残り者』も面白かったのですが、舞台はそれをさらに血の通った立体化をしてくれまして(実際は映像ですが)想像していたよりも好い舞台となっていました。サト姫様が文字の物語よりも大活躍で、猫ゆえに勝手気ままな所があり、それでいて動物の人に対する敏感さもありできちんと登場させたのは大成功でした。サト姫様役の毬谷友子さん(客演)の動きが軽く、お化粧も衣装も個性的で何とも言えない雰囲気をかもし出してくれました。

5人の役柄も一人一人はっきりと印象づけてくれ、大奥の中で手わざで身を立てているそれぞれの立場がしっかり伝わってきました。原作を読んでいなくてもこの女性たちが家とも思っていた大奥から放り出されることになってもしっかり生きて行けたのはこの最後の日に出会えたことが大きな力となっているのがわかります。

サト姫様は、天璋院の飼い猫で大事にされていてその猫が声はすれども見当たらないので探すということから出会いがはじまるわけです。サト姫様は、わがままな猫であるようでいて、新たな世界へ出発するために5人の<残り者>の背中を押していたのです。

大奥の中にいるといっても仕事が違えば、噂では聞いていても実際には出会えないわけです。短時間にそれぞれの立場が違えば見方も違うということが明らかになっていき、天璋院づきと和宮づきでは江戸と京のちがいもあるわけで、5人の中に一人和宮づきの女性が加わったことでこれまた面白さを複雑にしてくれました。

その役どころが上手く演じ分けされていて、場面転換もスムーズに流れ良質の舞台となっていました。

一人一人の役者さんがこの役のために今まで修行されてきたのではとおもってしまうほどストンとはまっていました。こちらもおそまきながら約10か月後にして満足できすっきりしました。

もう一枚のDVDは、2021年4月2日有楽町のよみうりホールで行われた前進座90年の記念イベント『前進座90年の夕べ「温故創新」 ~よみがえる名作名場面とクロストーク~』です。

劇団員の方が撮影したのでしょう。手作り感の一生懸命さが伝わる映像です。

総合司会が劇団員の小林祥子さんと早瀬栄之丞さんです。第一部は「よみがえる名作ゼリフ」で過去に上演された舞台の名作のセリフを現在の劇団員の方々が動きを加えたりして紹介してくれました。これは舞台の一部分が浮かび上がるようで素敵な構成でした。

『母』では、小林セキさんを演じられた主演のいまむらいづみさんがお元気にセリフを語られました。第二部の進行役の葛西聖司さんが「いまむらいづみさんのお元気な姿を拝見しただけでこの場に来た甲斐がありますよね。」と話されて皆さん拍手されていました。

第二部は「クロストーク」でゲスト進行役の葛西聖司さんが写真や映像を見つつ、藤川矢之輔さん、河原崎國太郎さん、浜名実貴さんを交えて、前進座の90年を振り返りました。舞台の観劇は少ないのですが、映画は観ていますのでそのあたりになると思い出話やエピソードなどは興味深く聞かせてもらいました。世代的に記憶にあるのは藤川矢之輔さんでした。事情通の葛西聖司さんのソフトな進行が、90年という前進座の長い道のりを楽しく紹介されていました。

こういう時期でなければDVDとして残されなかったかもしれませんので、そういう意味では、どんな時も記録は古いものから新しいものを生み出していく礎となるのだということを感じさせてもらいました。

10月からは山田洋次監督による90周年の錦秋公演が開催されます。

2021年『一万石の恋 ―裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇』 (zenshinza.com)