『伝統芸能 華の舞』(北とぴあ)

一 楠木正成二題 能楽 独調 『楠露(くすのつゆ)』、素踊り 『楠公

(なんこう)』

二 歌舞伎十八番の内 『鳴神(なるかみ)』

楠露』も『楠公』も明治時代に入ってからの新作ですが『太平記』がもととなっているのでしょう。『楠露』は松尾芭蕉の句「撫子にかかる涙や楠の露」からとっているようです。芭蕉さんは、戦いの跡地などで詠嘆されていますから桜井(大阪府)でも楠木正成(まさしげ)・正行(まさつら)親子の別れを想い一句詠まれたのでしょう。

楠露』は、謡一人、打楽器一人でという演出です。耳慣れていないので、残念ながら詞が聴き取れませんでしたが、声と鼓だけでこれだけ劇場を音の振動で揺るがせられるのだと感じ入りました。

楠公』は、桜井の別れと、楠木正成が「湊川の戦い」で討ち死にするまでが素踊りでの上演です。これは、十代目三津五郎さんのDVDで何回も観ていますので今回はどう踊られるのか楽しみでした。

始まって演者が舞台にいません。正成が弓の弦をほどき弓に張り、矢を放つという場面も過ぎてしまいます。仮り花道から右近さんの正行の登場です。というわけで、三津五郎さんの素踊りは頭から消しました。

右近さんは身体のバランスも良くしっかりしていました。後の続く廣松さんは家臣の恩地満一ということでしょう。正成の右團次さんも登場し、息子にお前は父亡き後朝廷に仕えよと教えさとします。お互いに涙する親子。そして、家臣に励まされ泣く泣く正行は父のもとを去っていきます。右近さん、右團次さんの実の親子出演の情愛の場というところの見せ場です。

後半は、合戦の場となり、軍兵も出てきて群舞となります。さらに弘太郎さんの佐馬頭直義が登場し合戦の激しさを展開します。群舞が立ちまわり的要素もあり躍動的で、前半と後半の変化もわかりやすくなっています。

鳴神』は、笑三郎さんの絶間姫が初役ということで楽しみでした。右團次さんとは澤瀉屋での修練の仲間でもありますから、初コンビとは思えぬ息の合い具合でした。想像していたより好い舞台でした。朝廷からの厳命とはいえ鳴神を破戒させたことに手を合わせて謝る絶間姫が印象的でした。そんな経緯など知る由もない右團次さんの鳴神の怒りは爆発です。

歌舞伎座では色欲、殺人、亡霊などなんでもありですのでそういうものと思っていましたが、会館などの劇場で鑑賞しますと歌舞伎ってこんなに色香が強かったのかと面白い体験でした。

なまけものの白雲坊の廣松さんと、黒雲坊の弘太郎さんも好い間で可笑しみを加えます。

チームワーク抜群の一座かとおもいます。

追記: 第8回『部屋子の部屋』の配信を観まして、私の間違いを訂正しておきます。『楠公』で廣松さんは正行の叔父さんでした。右團次さんが女方だからと言われて、やはりそうかとおもいました。そうなんです。動きが女方に近いので、家臣なのでひいているのかなとおもったのです。

色々参考になる体験談でした。21世紀歌舞伎組になった時、皆さん、猿翁さんに頼りすぎていたなと正直思いました。大きな幹のそばにいる場合の貴重なお話でした。(右團次、右近、弘太郎、笑三郎)