「市川崑物語」

岩井俊二・監督・脚本・編集・音楽 「市川崑物語

岩井監督がいかに市川監督を敬愛しているかが伝わり、市川監督の仕事を知る上で大変参考になり、市川監督作品を見る上で多数の視点を貰える映画である。

市川監督は少年時代、チャンバラと絵を画く事が好きで、それが映画のアニメの仕事へと繋がり、さらには実写映画へと移行して行き、和田夏十さんとの二人三脚へと道は続くのである。

その中で、和田夏十さんの脚本ではない例外があるという。映画化されないで宙に浮いている脚本があって、市川監督も夏十さんも映画化されるべき良い本だと考えが一致した。それが水木洋子さんの「おとうと」である。この話は嬉しかった。さらに試写会のあと夏十さんが「ラストがいけないわね。なんであそこに音楽がないの」と。それは市川監督のねらいだった。弟を失った姉の孤独感、それを引き立てるためにドライに仕上げたのである。しかし夏十さんは音楽にこだわった。「やさしい音楽でしめくくるべき」。考え直した。ラストに音楽を加えた。キネマ旬報ベストワン。

岩井監督のこの映画の素敵なところは、写真とか映像を入れながら字幕が効果的に出てくるところで、そこがドキュメンタリーでありながらスッキリしていて新しく市川監督にふさわしい工夫のあるところである。