映画『ラ・ラ・ランド』

映画『ラ・ラ・ランド』は、かつての映画に対するオマージュで溢れている映画です。観た人の観た映画によってあの映画ねと想起させます。

ミュージカル映画に対して自分の中で混濁した部分があって、『メリー・ポピンズ』に到着した時、一枚のチラシから、千葉文夫さんというかたの話しを聞く機会にめぐまれました。聞き手の方がいるのでトークショーといっていいのでしょう。

話し手の千葉文夫さんも聞き手の郡淳一郎さんも全く知らない方です。そのチラシは「千葉文夫のシネマクラブ時代」とあり、千葉文夫さんというかたは、早稲田大学の教授で今年の春大学を辞められ、最終講義の最後『踊る大紐育』の I’m so lucky to be me を口ずさんで終わったということで、『踊る大紐育』に反応しました。

世の中がゴダールとか言っているときに、アステア&ロジャースなどについて語っておられてもいたようなのです。これは面白いかもということで参加したのです。

三つの映像を見せてくれまして、一番目が、アステアとロジャースの優雅なダンス場面でした。完璧なんです。カメラに納まって踊るということは、計算尽くされた動きでないとできないと思います。ステップを踏んですっと横に飛んだとしてもその一歩は決められた通りでなければ映像からはずれてしまいます。

千葉文夫さんも、この二人を乗り越えられないでしょうと言われていましたが、本当です。私の中にミュージカルといえば、フレッド・アステアやジーン・ケリーなどの歌と踊りが古典のごとく光輝いていて、それが新しいミュージカルを弾き飛ばしてしまうようなのです。千葉文夫さんの話しは、もっと深いところにあると思いますが、私にとってはアステアとロジャースのダンスで充分でした。

その映像の中でジンジャー・ロジャースさんのドレスが光で透けて、足の付け根から踊る足が見えるのですが、それがまた美しいのです。制作側はサービス精神でお色気もと考えたかもしれませんが、ロジャースさんの足は踊っていてもこの美しい足を維持しているのを見なさいという自信に溢れてみえました。どこかで次のステップのために力を入れたりもするでしょうが、不自然な形とならないのです。すーすーと流れるように動き、カメラの長回しでそれをやってのけるのですからミュージカルスターの頂点です。

アステアさんにしろ、ジーン・ケリーさんにしろ、少し高い所に乗ったり下りたりしても、あくまでも美しくダンスのリズムと身体が崩れるということがありません。

『ラ・ラ・ランド』でも、アステアさんたちに比べれば短いですが、主人公二人のダンス場面があり、アステア時代の優雅なダンスを意識して入れているなと思いました。

『ラ・ラ・ランド』は、評判が高過ぎて観ていなかったのですが、トークショーでこの映画を観た人が多く、好きか嫌いかということでは好きの人が多かったようでした。観ていないのでやはり観ておかねばならぬかと映画館をさがした時は一回上映が多く、一度目は一時間前で満席で、時間調整と映画館の場所に苦労して観るかたちとなりました。

ジャズ演奏の店を持つ夢を追いかけるセブ(ライアン・ゴズリング)と映画のオーデションを何回も受けて女優の夢を追うミア(エマ・ストーン)の二人が恋に落ちて、それぞれの夢のために別れて、再会するというありふれた展開ですが、そこには観る者がかつての映画を思い起こす材料が一杯詰まった映画で、それと話しの流れが上手く重なっている作品でした。

映画の『理由なき反抗』がでてきたり、ミアが何回もオーデションを受ける場面では映画『コーラスライン』を思い出したり、セブがジャズにこだわるところでは映画『ニューオリンズ』などのジャズの音楽映画を思い出したりしてました。

再会するところでは、『シェルブールの雨傘』が浮かんだり、朗々と歌い上げないので上手くこちらの遊び心を浮遊させつつ、映画自体を楽しませてくれます。

挿入歌の[City Of Stars]などのメロディーも心地よく音楽と映像に突入です。

映画の冒頭が高速で渋滞する車の列の中で、車体に乗ったりして踊るという群舞で、導入としては、さすがハリウッドのミュージカル映画やりますねという感じです。こういう感じが続くのかなとおもうと、しっかり主人公二人の現在の状況を映し出し、ふたりを引き合わせていきます。衣裳も身体に合ったきちんとスタイル線を見せるもので、踊っても優雅なダンスになります。

ミアはハリウッドの撮影所のカフェで働いていて、スター女優が立ち寄ってコーヒーをテイクアウトしてミアは「お金はいいです」というのですが、スター女優は「そうはいかないは」とお金を置いていき、憧れの眼差しで女優を追います。そのスターの立場になったミアも同じことをするのですが『イヴの総て』がぱっとひらめきます。

ラストの捉え方は、観る者にゆだねられているのでしょうが、別れても、別れてなくても人生は素晴らしいのさという、ちょっと甘い感じですが、観る人の年齢層によっては、やり直せる力をもらえることでしょう。

面白そうなので映画『セッション』をレンタルしていたのですが、『ラ・ラ・ランド』と同じデイミアン・チャゼル監督作品だったのには驚きでした。『セッション』も面白い作品でした。

『セッション』に出てくる、有能なミュージシャンを育ってるのが夢で、異常ささえ感じてしまう指導者・フレッチャー役のJ・K・シモンズさんが、『ラ・ラ・ランド』にも出ていて、『スパイダーマン2』にも新聞社の編集長役で出ていたのです。スキンヘッドということもありますが、フレッチャーの強烈な演技から同じ人とは気がつきませんでした。『スパイダーマン』3部作全部に出ているようです。

エマ・ストーンさんは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の主人公・落ち目のハリウッド俳優役のマイケル・キートンさんの娘役でして、印象的な演技だったのでこの人はと思っていましたが、まさかミュージカル映画にでるとは思いませんでした。そしてなんと『アメイジング・スパイダーマン』というのがあるらしくそこにでているらしいのです。『アメイジング・スパイダーマン』、見ない訳にいきません。蜘蛛の糸の粘着力は予想以上に強力でした。

バットマン!救出にきておくれ!どのバットマンでもいいわけではありません。好みがありますから。検討中です。マイケル・キートンさんは『バードマン』からブレイクしていてイメージが変わっていますので除外します。

自分で脱出できることに気がつきました。映画の帰り神保町の本屋さんでフレッド・アステアさんのDVDBOXを手に入れたのです。映画料金二回分で2箱、18枚のDVDです。まさしく有頂天時代です。蜘蛛の糸などなんのそのです。

映画『ダ・ヴィンチ・コード』出演者のなかで抜かしていましたのがジャン・レノさんですが、なんと言いましても『レオン』ですね。教育を受けていなくて、少女マチルダに何かやってよと言われて、チャプリンの真似をしてわかってもらえず、ジーン・ケリーの『雨に唄えば』をやってもわかってもらえず、あの場面最高でした。

『ラ・ラ・ランド』で[City Of Stars]を歌う時のセブの帽子、あれってチャプリンかもしれませんね。ほんのちょとしたことで思い出させてくれるのです。懐かしいのではなく、それを土台にどう次につないで、新しい楽しい世界が展開できるかということです。そして、これまでの映画人に敬意を表しているようにもとれる映画でした。